おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

【うちの本棚】第百二十七回 バロム・1/さいとう・たかを

【うちの本棚】第百二十七回 バロム・1/さいとう・たかを「うちの本棚」、今回取り上げるのは特撮テレビドラマとしても知られる、さいとう・たかをの『バロム・1』です。原作コミックである本作は長い間気軽に読める状態にありませんでしたが、さいとう自身が「唯一の少年マンガ」と言うその内容は、いま読んでも引き込まれてしまう魅力があります。


  • 【関連:ワンサイド特急~組織スマイル~/さいとう・たかを】

     

    この作品は、特撮ドラマ『超人バロム・1』としてテレビ放送されたので、そちらの方で知っているという人が多いだろう。もちろんさいとう・たかをによる本作が原作ではあるのだが、掲載誌の休刊に伴う連載終了から1年以上が経ってのテレビドラマ化ということもあり、リアルタイムでのコミカライズ作品(たとえば秋田書店「冒険王」の古城武司版)の方が、漫画版としては知名度が高いかもしれない。

    原作者が劇画の大御所さいとう・たかをである事を考えれば、なぜこの原作コミックが長い間気軽に読むことができなかったのか不思議ではある。

    連載は講談社の「ぼくらマガジン」であり、同誌には『タイガーマスク』や『仮面ライダー』といったテレビ化作品も連載されていて、小学生を中心に注目されていた雑誌であったと思う。しかしながら、雑誌の購買層としては低年齢に絞りすぎたのか、週刊マンガ誌としては失敗に終わり、休刊した。

    単行本は講談社から刊行されることはなく、さいとうプロからの刊行となった(ちなみに「ぼくらマガジン」連載作品で講談社から単行本が刊行されたのは『タイガーマスク』くらいであり、『仮面ライダー』や永井 豪の『ガクエン退屈男』『魔王ダンテ』などは朝日ソノラマの「サンコミックス」から刊行され、そのほか若木書房の「コミックメイト」から刊行された作品もある)。

    このさいとうプロ版が流通面で弱かったのか、結果として本作の単行本としてあまり知られることがなかったのは事実だと思う。またその後青年マンガ誌に発表した作品は繰り返し再刊行していたさいとうも、本作を含めた少年誌連載作品はあまり再刊行すること(あるいはされること)がなく、リイド社によるA5版ハードカバーでの全2巻刊行まで幻の作品となってしまったのである(同様な例では『デビルキング』がある)。

    とはいえ、このA5版も初出誌の誌面を原稿にしていて、実は原稿自体が現存していない可能性を感じさせる(初出時の広告や柱コピーなどもそのままの状態で収録しているので、当時の雑誌の雰囲気のまま読めるという点ではここまで忠実な復刻はないともいえる)。とすれば、長い間再刊行されなかったのも頷けるところだが、単行本に収録された著者へのインタビューでもそれには触れておらず、疑問の残るところではある。

    さいとうはインタビューで、本作を「自作唯一の少年漫画」だと言っている。発表媒体が少年マンガ誌であっても、その内容や意図するものは、少年漫画を卒業していく世代をつなぎ止める「ちょっと大人の」作品を心がけていたといい、本作はそのような制限なしに、少年向けに少年漫画を描いた作品ということだ。

    健太郎と猛の、ふたりの少年が宇宙の善の意志「コプー」によって代理人(エージェント)として選ばれ、ふたりの心を合わせることで「バロム・1」に変身する。そして地球を狙う悪の「ドルゲ」から地球を守る、というのが基本的な設定だ。これはテレビドラマとも共通するところだが、「バロム・1」の容姿そのものはテレビドラマとは全く違っている。というのは、さいとうは当初西洋の甲冑的なものも考えたというが、やはり表情をだせないと、少年ふたりの友情によるパワーというテーマを描きづらいと判断し、人間的なスタイルになったという。テレビドラマ版の造型の方が元々のアイデアに近いかもしれないとも言っている。この主人公であるヒーローの見た目の違いも、本作がテレビドラマの原作コミックであるという印象を薄めていた原因のひとつであったのは確かだろう。

    宇宙に於ける善と悪の対立、その代理人が地球を守るために闘うというのは、石森章太郎・平井和正の『幻魔大戦』を思い浮かべてしまうが、そこは劇画のさいとう・たかを。少年漫画ではあってもリアルな状況は常に忘れていない。たしかに「バロム・1」という存在自体が少年漫画的なものではあるし、ドルゲによって起こされる事件も常識を逸脱しているのだが、巻き込まれる人々のリアクションがリアルな雰囲気を持って描かれているのだ。このあたり、現実にそのような超人が現れたら、常識を超えた事件が起こったら、というシュミレーション的な感覚なのかもしれない。

    テレビドラマを見ていたというファン、またさいとう・たかを作品のファン、特にこの原作コミック版をまだ読んだことがないという方に読んでいただきたい作品である。

    ※テレビドラマ版の主題歌には多くの擬音が歌詞に含まれているが、これは作詞家が原作コミックの擬音から採ったという。たしかに本作を読んでいると、主題歌に歌い込まれている擬音がたびたび出てきて、頭の中でメロディーが流れてきてしまう。

    ・リイド社A5版刊行データ
    第1巻、第2巻ともに平成10年5月28日初版発行。

    バロム・1 上巻 バロム・1 下巻

    初出/講談社・ぼくらマガジン(昭和45年1号~昭和45年52号)
    書誌/さいとうプロ(B6版全5巻)
    リイド社(A5版全2巻)
    リイド社(文庫版全3巻)
    リイド社・バロム・1/クロスファイル(原作コミック、特撮ドラマ、アニメの3メディアを「クロス」した研究本)

    (文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/

    あわせて読みたい関連記事
  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】199回 ウルトラQザ・ムービー 星の伝説(劇場版予告編)/さいと…

  • イベント・キャンペーン

    え?どういうこと??自衛隊とゴルゴ13がまさかのコラボ

  • 【うちの本棚】第百二十九回 魔海/さいとう・たかを
    コラム・レビュー

    【うちの本棚】第百二十九回 魔海/さいとう・たかを

  • 【うちの本棚】第百二十八回 吸血鬼/さいとう・たかをセレクション
    コラム・レビュー

    【うちの本棚】第百二十八回 吸血鬼/さいとう・たかをセレクション

  • あのゴルゴ13から、まさかの依頼……
    アニメ/マンガ, 商品・グッズ

    あのゴルゴ13から、まさかの依頼……

  • 【うちの本棚】第百二十六回 ワンサイド特急~組織スマイル~/さいとう・たかを
    コラム・レビュー

    【うちの本棚】第百二十六回 ワンサイド特急~組織スマイル~/さいとう・たかを

  • 【うちの本棚】第百二十五回 大和小伝/さいとう・たかを
    コラム・レビュー

    【うちの本棚】第百二十五回 大和小伝/さいとう・たかを

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】第二十三回 ザ・シャドウマン/さいとう・たかを

  • おたくま編集部Editor

    記事一覧

    おたくま経済新聞・編集部による監修or執筆

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • 新作ゲーム「裏バイト:逃亡禁止 たつ子の謎」
    アニメ/マンガ, ニュース・話題

    「裏バイト:逃亡禁止」の恐怖をゲームで 小学館がマダミス「たつ子の謎」を11月配…

  • 新物板うに手巻きセット(5貫分)
    商品・物販, 経済

    くら寿司、旬の「新物うに」登場 板うに手巻きセットや北海たこうにも販売

  • 無印良品、大盛りカレーを拡充 和出汁仕立てと香味野菜デミグラス登場
    商品・物販, 経済

    無印良品、大盛りカレーを拡充 和出汁仕立てと香味野菜デミグラス登場

  • OpenAI、新動画生成モデル「Sora 2」発表 アプリで“カメオ出演”も可能に
    インターネット, サービス・テクノロジー

    OpenAI、新動画生成モデル「Sora 2」発表 アプリで“カメオ出演”も可能…

  • 将棋倶楽部24、2025年末でサービス終了 27年の歴史に幕
    ゲーム, ニュース・話題

    将棋倶楽部24、2025年末でサービス終了 27年の歴史に幕

  • 綾瀬はるか出演CMで新商品「ハピネスミスト」デビュー 洗えない布製品に5つ星ホテルの香り
    商品・物販, 経済

    綾瀬はるか出演CMで新商品「ハピネスミスト」デビュー 洗えない布製品に5つ星ホテ…

  • トピックス

    1. 「フツーの人」と「デブ」の食意識の違いをイラストで可視化 あなたはどっち?

      「フツーの人」と「デブ」の食意識の違いをイラストで可視化 あなたはどっち?

      「もしかして、フツーの人っておなか空いてる時以外おなか空いてないの?」そんな衝撃の(?)問いかけとと…
    2. コーヒーにごま油……!?かどや公式のちょい足しアレンジを試してみた

      コーヒーにごま油……!?かどや公式のちょい足しアレンジを試してみた

      10月1日は「コーヒーの日」。そんな記念日に合わせて、かどや製油公式Xが提案してきたのは……まさかの…
    3. 「えもじの子(仮)」

      LINEの人気キャラ「えもじの子(仮)」が有料で復活 一部未収録に完全復活を望む声も

      つぶらな瞳ととぼけた表情で人気を集めたLINE絵文字「えもじの子(仮)」の無料配布版が10月1日、有…

    編集部おすすめ

    1. フライドポテトで、白ごはんを食べる……?ドンキ新作が過去イチ理解できなかった件

      フライドポテトで、白ごはんを食べる……?ドンキ新作が過去イチ理解できなかった件

      「みんなの75点より、誰かの120点」を合言葉にドン・キホーテが展開している偏愛メシシリーズ。10月1日に「本当にこの組み合わせが好きな人が…
    2. 将棋倶楽部24、2025年末でサービス終了 27年の歴史に幕

      将棋倶楽部24、2025年末でサービス終了 27年の歴史に幕

      オンライン将棋対局サービス「将棋倶楽部24」が、2025年12月31日をもって終了することが発表された。運営する席主の久米宏氏が10月1日付…
    3. pium、“カスハラ声明”きっかけに炎上 接客批判受け謝罪と改善策

      pium、“カスハラ声明”きっかけに炎上 接客批判受け謝罪と改善策

      アパレルブランド「pium」が9月30日、店舗スタッフの接客に対する多数の指摘や批判を受け、公式Xにて謝罪文を公開しました。併せて再発防止策…
    4. 「ビー・バップ」クラファン始動、清水で“高校与太郎祭”実現へ 返礼に「鉄橋ダイブ」関連も

      「ビー・バップ」クラファン始動、清水で“高校与太郎祭”実現へ 返礼に「鉄橋ダイブ」関連も

      映画「ビー・バップ・ハイスクール」のロケ地として知られる静岡市清水区で、作品ゆかりの企画を集めた大型オフラインイベント「清水 ビー・バップ・…
    5. 第7回京都アニメーションファン感謝イベント『私たちは、いま!! ―京アニのセカイ展―』

      京都アニ「第7回ファン感謝イベント」追加情報を公開 新商品や書籍予約、グッズ二次予約も発表

      株式会社京都アニメーションは、10月25日・26日の2日間で開催予定の「第7回京都アニメーションファン感謝イベント『私たちは、いま!! ―京…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト