「うちの本棚」、今回ご紹介するのは文月今日子の歴史ロマン『地中海のルカ』です。
地中海を舞台に海賊とローマ軍が交戦する読みごたえのある中編。まるで映画を観ているような作品です。
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『地中海のルカ』は昭和53年6月号、『野いちご白書』は昭和53年2月号、『ボタン玉ふたつ』は昭和52年11月号と、それぞれ講談社の「別冊少女フレンド」に掲載された。
『地中海のルカ』に関しては単行本刊行以前に掲載誌で読んでいて、個人的には印象深い作品のひとつだ。単行本ではモノクロ印刷になってしまっているカラーページも美しかった。
物語は紀元前の地中海、ローマ帝国とローマ軍に滅ぼされたカルタゴの生き残りである海賊との戦いが描かれる。
ルカというローマ軍に多大な被害を与えている海賊の討伐に、若きローマの軍人が派遣されるのだが、ルカはその代が変わり14歳の少女が海賊団の頭目として指揮していることを知る。
海賊を滅ぼすことが地中海の平和のために本当に必要なことなのか、若き軍人は考え、海賊を辞めるのを条件にカルタゴに代わる土地を提供すると申し出るのだが…。
ルカは、文月作品にはよく登場する元気な男勝りな少女のひとりとして描かれている。年の離れた副頭目と先代ルカによって婚約しているが、身分を隠して海賊の島に入り込んだローマの軍人に心を動かされる。
海賊船とローマの軍艦の戦いなど、ダイナミックな画面構成もあり、またルカの淡い恋心も描かれるなど、映画を観ているような作品に仕上がっている。ただ読みきり作品というページ制限のためか、少々展開を急ぎすぎている感は否めない。連載作品としてじっくり描いてほしかった気もする。
『野いちご白書』は、父親の再婚を許せずに家出して、叔母の下宿屋に転がり込んだ美香を主人公にしたラブコメディ。
『ボタン玉ふたつ』も幼馴染みの3人(女の子ふたりに男の子ひとり)が登場するラブコメディ。子供の頃に仲のよかった3人も、成長するに連れてそれぞれの思いに気がついていくという展開。
読み切りの中短編を3編収録した本書は、文月今日子の作品を初めて読むという人にもオススメな一冊かもしれない。
書 名/地中海のルカ
著者名/文月今日子
出版元/講談社
判 型/新書判
定 価/350円
シリーズ名/講談社コミックス・フレンド
初版発行日/昭和53年9月15日
収録作品/地中海のルカ、野いちご白書、ボタン玉ふたつ
(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/)