「うちの本棚」、今回ご紹介するのは文月今日子初期の代表的な作品『星空の切人ちゃん』です。
ドジでカッコ悪い男の子切人ちゃんには大きな秘密が…。
単行本初刊行時に同時収録された短編作品も名作揃いです。
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連作短編シリーズ『星空の切人ちゃん』を中心にした文月今日子の短編作品集。『~切人ちゃん』は文月作品の中でも人気が高いようで、後年刊行された作品集でも表題作のひとつとして単行本化されている(本書に未収録のエピソードが収録されるなどもしている)。
カッコ悪くてドジな切人と、またまた男勝りな未知のコンビが活躍するSF風味のコメディ作品。また、天文学者である未知の父親は研究室に閉じこもり気味で、母を亡くしている未知と、同居する切人のためにメイドが雇われるのだが、この「おハナさん」というメイドが実にいい味を出し、シリーズの魅力を引っ張っている。
単行本刊行からすでに30年以上が経ってしまったわけだが、ひ弱でカッコ悪い切人も草食系メガネ男子なんて呼び方をすればちょっと見方も変わるかもしれない(笑)。発表当時からそれなりの人気を保っていたということは、こういうタイプの男の子は案外昔から女子に支持されていたのかもしれない。
本書は、表題作が確かに傑作ではあるのだが、収録されたそのほかの短編も文月今日子ならではの名作揃いといっていい。とくに個人的に気に入っているのが『パフ』だ。12ページの短い作品だが、その内容の奥深さには何度読んでもため息が出てしまう。短編作品、ショートショート作品とはこうあるべきという気になる。
気軽なコメディ作品、奥の深いドラマと文月作品の魅力を堪能できる単行本としてはオススメの一冊という印象も強い本書だが、古書店での入手もちょっと困難かもしれないのは残念なことである。
初出
星空の切人ちゃん/講談社「マイフレンド」昭和51年春の号
ななちゃんの日曜旅行/講談社「「別冊少女フレンド」昭和53年1月号
パフ/講談社「ラブリーフレンド」昭和51年新年号
ノクターン/講談社「月刊ミミ」昭和52年3月号
ポテトチップス物語/講談社「別冊少女フレンド」昭和52年8~12月号
書 名/星空の切人ちゃん
著者名/文月今日子
出版元/講談社
判 型/新書判
定 価/350円
シリーズ名/講談社コミックス・フレンド
初版発行日/昭和53年5月15日
収録作品/星空の切人ちゃん(1~4話)、ななちゃんの日曜旅行、パフ、ノクターン、ポテトチップス物語
(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/)