「うちの本棚」、今回は文月今日子のファンタジーSF長編『クレドーリア621年』をご紹介いたします。
SFチックな作品を手がけていた文月の本格的なSF作品です。
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それまでも『星空の切人ちゃん』などSFチックな作品を手がけていたとはいえ、本格的なSF作品はなかった文月今日子のスペースファンタジーSF長編作品(新井素子原作の『グリーンレクイエム』という作品があるにはあるが)。
少女漫画においてもSF作品は本作発表当時は読者も受け入れやすい環境になっていたと思うが、いかにもな宇宙船や姫と海賊の恋など、いまさら感も否めないところはちょっと残念な印象があった。構想の準備が間に合わなかったのか、ストーリー的にも文月今日子にしては掘り下げが少ない感じがしてしまうし、せっかくのSF長編がもったいない気がしてしまう。
主人公の年齢設定は以前のようなローティーンではなく、ハイティーンが定着しているが、性格設定は『わらって!姫子』当時のまま変っていないのは文月今日子らしい。ただ本作においてはその主人公の性格も活かしきれなかったところがあり、その点でも惜しい作品ではある。
舞台の設定が地球ではない惑星であり、宇宙での戦闘なども描かれるのはこの手の作品としてはありがちであり、ベタなSF作品といえなくもない。しかし文月作品の読者としてはこのようなコテコテなSFよりは、現実世界を舞台にしたファンタジックなものの方が、より「らしさ」を感じられたのではないかという気がする。
結果的に文月作品のなかでは「異色の」という冠が付けられる作品になってしまったかもしれない。
書 名/クレドーリア621年
著者名/文月今日子
出版元/講談社
判 型/新書判
定 価/370円
シリーズ名/講談社コミックス・フレンド
初版発行日/昭和61年4月14日
収録作品/クレドーリア621年(講談社「週刊少女フレンド」昭和60年22号~昭和61年1号)
(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/)