思春期の13歳の少女を題材に、自立・出会い・悩み・成長を描いた1989年のスタジオジブリ劇場公開作品である『魔女の宅急便』。
宮崎監督による児童文学作品を原作とした初の劇場用長編アニメーションであり、スタジオジブリ初の大ヒットと呼べる作品としても有名ですよね。
物語中盤では、主人公キキが絵描きの女性ウルスラと出会い、自己回復への手がかりを見つけてゆきます。そのウルスラが劇中で描いていた絵の元になったものが八戸市立湊(みなと)中学養護学級の生徒たち3~4名が共同制作した版画というのはよく知られています。
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指導には坂本小九郎氏が携わっており、版画は1976年10月に完成。「虹の上をとぶ船 総集編II」は4枚の版画を生徒14名が共同製作した作品であり、ウルスラが描いた絵のモデルとして登場したのはそのうちの1枚とされています。今回はそんな劇中画に焦点を絞って関係資料などをご紹介。
劇中画には坂本氏の了承を得て、となりのトトロの美術監督である男鹿和雄氏によって油絵という設定に基づき加筆・修正が加えられ、元の版画とはまた違った神秘的なものに仕上げられています。本作では「外国に行ったこともなく雰囲気がつかめない」ということから、美術監督として大野広司さんを自ら推薦したそうな。
そもそもこの版画を宮崎監督が使いたいと思ったのは、絵コンテが終わったらゆっくりと時間をかけて自身が描くつもりであったものがスケジュールの都合で断念せざるをえない状況になったそうなんですが、実はこの版画に関して宮崎監督はそう遠くない「縁」もありました。
義父である大田耕士氏が日本教育版画協会の委員長を勤めていたこと、あゆみ出版『虹の上をとぶ船』(著・坂本小九郎)の推薦文を書いていること、大田氏自身もこの版画を製作した生徒たちを教えていたということも宮崎監督がこの版画と出会う「縁」だったのかもしれませんね。
こちらは1982年に出版された版画集で厚みは図鑑並み。
一枚一枚の版画に彫られたシーンを一つ一つトリミングし、坂本氏の解説や物語の解釈が記されています。この版画が紹介される時、「虹の上をとぶ船」という名称が使われるのをよく目にするのですが、「虹の上をとぶ船」というのは版画のシリーズ名的なものであり、具体的には「星空をペガサスと牛が飛んでゆく」というのがこの版画の題名なんです。
ラフスケッチ段階では、まだペガサスの片鱗も見えないのですが、生徒同士で描き進めていくうちにこの完成系に辿りつきました。ペガサスを描くにあたっては馬などを写生したわけではなく、生徒たち自身の頭の中で形成されていったものが木版画という形で表現されています。
一度見たら頭から離れないほどの迫力とインパクトを兼ね備えた木版画ではありますが、劇中で登場するときはとても静かで幻想的な「神秘なる絵」という題名の曲が付けられています。今ではもう過去のメディアであるVSD(ビデオ・シングル・ディスク)としても単体で発売されましたが、メディアの需要があまりに少なかったこともあり本作でVSDシリーズは終了となったのが残念でなりません。
これからはしばらく梅雨空のモヤモヤしたお天気が続きますが、そんなときは図書館へ出向いてこの版画に込められた物語を紐解いてゆくのも良いかもしれませんね。
(文:くろすけ/@kurosuke4313)