「うちの本棚」、今回ご紹介するのは文月今日子の『夏の夜のエイリアン』です。
時代に合わせて絵柄が変わった文月今日子。けれどその本質はそのまま、ハートフルなラブコメディ作品集となっています。
『星空の切人ちゃん』も以前の単行本に未収録だったエピソードを収録しています。
【関連:144回 星空の切人ちゃん/文月今日子】
昭和50年代前半、年一冊ペース程度で刊行されていた講談社からの文月今日子の単行本だったが、気がつくとそれは途切れ本書まで間が開いていたようだ。
その数年間で文月のタッチは変っていた。一見して絵柄が変わったとわかるほど変化している。基本的な絵柄(キャラクターのタイプ)は以前の作品と同じなのだが、小学生として作ったキャラクターを無理に大人にしてしまったような印象もあり、以前の作品が好きだった自分としては違和感を感じたのは否めない。全体的に緻密な書き込みが少なくなり、パッと見「雑」な印象さえ受けた。画面上、書き込みを減らして全体的に白い印象になってしまっているのは文月に限らず、この時期の漫画界全体にいえることではあるのだが、どうしても「劣化」という感じがしてしまって読む気をなくしてしまうところがあった。この流れの元には、70年代の終わりにあった石井 隆や大友克洋など青年漫画誌系作家が注目されたことがある。それはGペンの太い輪郭線や過度な斜線・効果線描写という印象の少年漫画にシャープな輪郭線や簡略する描写というものを流行らせ、瞬く間に漫画界全体に広がって行った。元々主線は細かった少女漫画でも、それまで特徴的だった描き込み(たとえばヒロインが登場するときにバラを背負っていたりするような)が少なくなっていった。画面構成に於ける少年漫画・少女漫画・青年漫画の違いはこの時期かなり曖昧になっていたのではないかと思う。それはジャンルに捕らわれることのない「漫画」という表現の模索だったのかもしれない。
本書に収録された作品は『星空の切人ちゃん』がSFコメディであることをのぞけば、他の作品は全てラブコメディ。『星空の切人ちゃん』は単行本刊行後に描かれた読みきり作品だが、特にサブタイトルのようなものは付いていない。また最初の作品は短いエピソードの連作だったが今回はいくつかのエピソードをひとつのストーリーにまとめている。『春・夏・秋・冬(・はハートマーク)』は以前の絵柄から変化しかけている時期で興味深い。
ところで、巻末には講談社コミックス・フレンドシリーズの刊行リストが掲載されているのだが、文月今日子の単行本からは『わらって!姫子』『銀杏物語』『星空の切人ちゃん』『地中海のルカ』といったタイトルがなくなっている。すでにこの時期に絶版入りしていたのかと思うと残念である。
書 名/夏の夜のエイリアン
著者名/文月今日子
出版元/講談社
判 型/新書判
定 価/370円
シリーズ名/講談社コミックス・フレンド
初版発行日/昭和57年10月15日
収録作品/夏の夜のエイリアン(講談社「週刊少女フレンド」昭和57年16号)、愛ちゃんの春一番(講談社「週刊少女フレンド」昭和57年7号)、春・夏・秋・冬(講談社「別冊少女フレンド」昭和53年3月号)、星空の切人ちゃん(講談社「別冊少女フレンド」昭和55年2月号)
(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/)