おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

【うちの本棚】145回 夏の夜のエイリアン/文月今日子

【うちの本棚】145回 夏の夜のエイリアン/文月今日子「うちの本棚」、今回ご紹介するのは文月今日子の『夏の夜のエイリアン』です。
時代に合わせて絵柄が変わった文月今日子。けれどその本質はそのまま、ハートフルなラブコメディ作品集となっています。
『星空の切人ちゃん』も以前の単行本に未収録だったエピソードを収録しています。


  • 【関連:144回 星空の切人ちゃん/文月今日子】
     
    昭和50年代前半、年一冊ペース程度で刊行されていた講談社からの文月今日子の単行本だったが、気がつくとそれは途切れ本書まで間が開いていたようだ。

    その数年間で文月のタッチは変っていた。一見して絵柄が変わったとわかるほど変化している。基本的な絵柄(キャラクターのタイプ)は以前の作品と同じなのだが、小学生として作ったキャラクターを無理に大人にしてしまったような印象もあり、以前の作品が好きだった自分としては違和感を感じたのは否めない。全体的に緻密な書き込みが少なくなり、パッと見「雑」な印象さえ受けた。画面上、書き込みを減らして全体的に白い印象になってしまっているのは文月に限らず、この時期の漫画界全体にいえることではあるのだが、どうしても「劣化」という感じがしてしまって読む気をなくしてしまうところがあった。この流れの元には、70年代の終わりにあった石井 隆や大友克洋など青年漫画誌系作家が注目されたことがある。それはGペンの太い輪郭線や過度な斜線・効果線描写という印象の少年漫画にシャープな輪郭線や簡略する描写というものを流行らせ、瞬く間に漫画界全体に広がって行った。元々主線は細かった少女漫画でも、それまで特徴的だった描き込み(たとえばヒロインが登場するときにバラを背負っていたりするような)が少なくなっていった。画面構成に於ける少年漫画・少女漫画・青年漫画の違いはこの時期かなり曖昧になっていたのではないかと思う。それはジャンルに捕らわれることのない「漫画」という表現の模索だったのかもしれない。

    本書に収録された作品は『星空の切人ちゃん』がSFコメディであることをのぞけば、他の作品は全てラブコメディ。『星空の切人ちゃん』は単行本刊行後に描かれた読みきり作品だが、特にサブタイトルのようなものは付いていない。また最初の作品は短いエピソードの連作だったが今回はいくつかのエピソードをひとつのストーリーにまとめている。『春・夏・秋・冬(・はハートマーク)』は以前の絵柄から変化しかけている時期で興味深い。

    ところで、巻末には講談社コミックス・フレンドシリーズの刊行リストが掲載されているのだが、文月今日子の単行本からは『わらって!姫子』『銀杏物語』『星空の切人ちゃん』『地中海のルカ』といったタイトルがなくなっている。すでにこの時期に絶版入りしていたのかと思うと残念である。

    書 名/夏の夜のエイリアン
    著者名/文月今日子
    出版元/講談社
    判 型/新書判
    定 価/370円
    シリーズ名/講談社コミックス・フレンド
    初版発行日/昭和57年10月15日
    収録作品/夏の夜のエイリアン(講談社「週刊少女フレンド」昭和57年16号)、愛ちゃんの春一番(講談社「週刊少女フレンド」昭和57年7号)、春・夏・秋・冬(講談社「別冊少女フレンド」昭和53年3月号)、星空の切人ちゃん(講談社「別冊少女フレンド」昭和55年2月号)

    夏の夜のエイリアン

    (文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/

    あわせて読みたい関連記事
  • 【うちの本棚】145回 クレドーリア621年/文月今日子
    コラム・レビュー

    【うちの本棚】146回 クレドーリア621年/文月今日子

  • 【うちの本棚】143回 星空の切人ちゃん/文月今日子
    コラム・レビュー

    【うちの本棚】144回 星空の切人ちゃん/文月今日子

  • 【うちの本棚】143回 地中海のルカ/文月今日子
    コラム・レビュー

    【うちの本棚】143回 地中海のルカ/文月今日子

  • 【うちの本棚】第142回 銀杏物語/文月今日子
    コラム・レビュー

    【うちの本棚】第142回 銀杏物語/文月今日子

  • 【うちの本棚】第141回『わらって!姫子』/文月今日子
    コラム・レビュー

    【うちの本棚】第141回 わらって!姫子/文月今日子

  • 猫目 ユウWriter

    記事一覧

    フリーライター。ライター集団「涼風家[SUZUKAZE-YA]」の中心メンバー。
    『ニューハーフという生き方』『AV女優の裏(共著)』などの単行本あり。
    女性向けのセックス情報誌やレディースコミックを中心に「GON!」等のサブカルチャー誌にも執筆。ヲタクな記事は「comic GON!」に掲載していたほか、ブログでも漫画や映画に関する記事を掲載中。
    本コラム「うちの本棚」は作者・テーマ別にして「ブクログのパブー」から電子書籍として刊行しています。
    また最近は小説の執筆に力を入れています。
    仮想空間「Second Life」やってます^^

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • コラム・レビュー

    複数社から発売された『墓場鬼太郎(ゲゲゲの鬼太郎)』を振り返る

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】262回 こいきな奴ら/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】261回 ティー・タイム/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】260回 5(ファイブ)愛のルール/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】259回 デザイナー/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】258回 わらってクイーンベル/一条ゆかり

  • トピックス

    1. 偽ファッション広告

      偽ファッション広告がGoogle広告に大量出現 サポート詐欺被害に注意

      2025年9月上旬からGoogle広告に偽ファッションサイトが急増。数秒で「Windows Defe…
    2. 邪悪なAI搭載「絶対にバズるSNS」で理不尽な炎上を疑似体験→リアルすぎて怖くなった

      邪悪なAI搭載「絶対にバズるSNS」で理不尽な炎上を疑似体験→リアルすぎて怖くなった

      Webコンテンツ「絶対にバズるSNS」が9月15日公開。9月26日公開映画「俺ではない炎上」と連動し…
    3. 26年前のMMORPG「Dark Ages」、YouTuberの挑戦で限界集落から奇跡の再生

      26年前のMMORPG「Dark Ages」、YouTuberの挑戦で限界集落から奇跡の再生

      26年前にリリースされたMMORPG「Dark Ages」をご存じでしょうか。年月とともに人口は減少…

    編集部おすすめ

    1. 英国伝統のうなぎ料理は“水槽の味”?日本にはない「ゼリー寄せ」の衝撃

      英国伝統のうなぎ料理は“水槽の味”?日本にはない「ゼリー寄せ」の衝撃

      日本でうなぎといえば、甘いタレをつけて香ばしく焼き上げた「蒲焼き」が定番のスタイル。白焼きなどもあるにはありますが、うなぎといえばやっぱり蒲…
    2. たこばさんの「糸こんにゃく炒飯」

      えっ…これ糸こんにゃく!?目も舌も騙される“ヘルシー炒飯”を実際に作ってみた

      「糸こんにゃくで作った炒飯が本物そっくりに仕上がる」と聞いたら、信じられるでしょうか。大阪市のたこ焼き店「たこ焼たこば」の店主がSNSに投稿…
    3. 虎ノ門ヒルズの「どこか奇妙な職業体験」が話題 ゴミを拾いながら物語の世界へ没入

      虎ノ門ヒルズの「どこか奇妙な職業体験」が話題 ゴミを拾いながら物語の世界へ没入

      虎ノ門ヒルズで清掃員の仕事を疑似体験しながら、非日常な体験に巻き込まれていく……そんな不思議な没入型体験イベント「どこか奇妙な職業体験 虎ノ…
    4. あれー?どこかなー?伸びしろしかない3歳児の“全力”かくれんぼが手強すぎる!

      あれー?どこかなー?伸びしろしかない3歳児の“全力”かくれんぼが手強すぎる!

      子どもにとってかくれんぼは、ハラハラドキドキのスリリングな遊び。自分だけにしか分からないであろう隠れ場所を見つけて「ここなら大丈夫」「絶対見…
    5. プリキュア映画ぬりえコンテスト、第三者による不正応募判明 公式が謝罪と訂正

      プリキュア映画ぬりえコンテスト、第三者による不正応募判明 公式が謝罪と訂正

      アニメ映画「映画キミとアイドルプリキュア♪ お待たせ!キミに届けるキラッキライブ!」公式は9月12日、「キミプリ♪ぬりえコンテスト」において…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト