【新作アニメ捜査網】 2012年アニメ旬報ベスト102012年も多くのアニメ映画が公開されました。

今回もまた、2012年に公開されたアニメ映画のうち、私が良かったと思う作品ベスト10を挙げたいと思います。

なお、できるだけ多く劇場には足を運びましたが、2012年に公開された全てのアニメを網羅できているわけではありません。その点ご了承ください。


それぞれご覧になった方によって順位や価値観は異なると思います。「こういう見方もあるのだな」程度の気楽な気持ちでご覧いただければ幸いです。

↓過去の記事はこちらです。

【新作アニメ捜査網】第29回 アニメ旬報ベスト10 映画篇
https://otakuma.net/archives/3979878.html

【新作アニメ捜査網】第43回 2011年アニメ旬報ベスト10 映画篇
https://otakuma.net/archives/2012012603.html

 

そして2012年のアニメ映画ベスト10はこちら!

 

--第10位…『映画ジュエルペット スウィーツダンスプリンセス』

テレビアニメ『ジュエルペット』シリーズの劇場版。過去のテレビシリーズに登場した人間のキャラクターがチョイ役で登場しています。本作の舞台は、スウィーツランドという国。そこで出会ったグミミンというスウィーツペットが物語の鍵を握っています。グミミンはパクパク色んなものを食べてしまうのでパクくんというニックネームで呼ばれるのですが、パンをパクパク食べるからパクさんと呼ばれていた高畑勲みたいですね。さて本作は、一期一会の物語と見せかけた展開になりますが、一期一会ではなく大団円。良かった良かった。

ところでアニメ映画のタイトルクレジットにおいては、声優ではない出演者が止めになることがよくあります。『ももへの手紙』のタイトルクレジットの止めが西田敏行、『アシュラ』の止めが北大路欣也なのはいいとして、『ジュエルペット』の止めが芦田愛菜、『フェアリーテイル』の止めが吉木りさだったのは何とかならなかったのか(笑)。

 

--第9位…『劇場版FAIRY TAIL 鳳凰の巫女』

テレビアニメ『FAIRY TAIL』の劇場版。ゲストキャラクター・エクレア(声・遠藤綾)と最初は仲が良くなかったルーシィ(声・平野綾)も、旅をするに連れてお互いに共感し、涙を流す場面は、こちらも貰い泣きしてしまいそうです。そして終盤、本作はまさに一期一会を描いた作品であったことが判明し、またもや泣ける展開となるのでした…。

ところで本作は、テレビシリーズのレギュラーメンバー7人の他に、ジュビア(声・中原麻衣)、ガジル(声・羽多野渉)、パンサーリリー(声・東地宏樹)の3人に見せ場が用意されているのも魅力の1つであります。 

 

--第8位…『おおかみこどもの雨と雪』

人間の女性・花(声・宮崎あおい)が、狼男(声・大沢たかお)との間に生まれた2人の子供(男の子と女の子)を育てる物語。夫である狼男は亡くなってしまったため、花が1人で子育てすることになるのですが、子供が生粋の人間ではないが故の苦労が花を襲います。子供が嘔吐しても小児科に診せるか獣医に診せるか迷い結局どちらにも診察させられない、子供に予防接種を受けさせないために児童虐待を疑われる、等。なかなかリアリティーのある描かれ方であります。

花は子供を連れて山奥に移住するのですが、そこで農業の指導をしてくれたのが菅原文太。菅原は実生活でも農業をやっているからこういう役なのでしょうか。

さて、2人の子供は田舎の小学校に通うのですが、学年が上がる様子を一続きの廊下と教室のカットで表現したシーンが巧い。

そして、幼い頃はおとなしかった息子の雨(声・西井幸人/加部亜門)、人前でも平気で狼の姿をさらけ出す娘の雪(声・黒木華/大野百花)の生き方がやがて逆転する展開は、子供が成長する上で自分なりに苦悩し、葛藤し、考えながら自らの進路を決定する過程を描いています。そう考えると、本作は子供の巣立ち、独立を描いていたと言えます。

 

--第7位…『魔法少女リリカルなのは The MOVIE 2nd A’s』

2005年のテレビアニメ『魔法少女リリカルなのはA’s』のリメイク版にして2010年の映画『魔法少女リリカルなのは The MOVIE 1st』の続篇。今回は新キャラクター・八神はやて(声・植田佳奈)を取り巻く事件を描いています。上映時間150分の大長篇ですが、要所要所に泣ける名場面を挿入し、観客をひっきりなしに泣かせにかかります。

主人であるはやてを救うべく、はやてに気付かれないように隠密裡に行動を進めるヴォルケンリッターの面々の、主人を思う心。

夢の中でプレシア・テスタロッサ(声・五十嵐麗)とアリシア・テスタロッサ(声・水樹奈々)と共に幸せな生活を送ることが可能になりながらも、敢えて夢と決別するフェイト・テスタロッサ(声・水樹奈々)。

自分の存在のせいで主人であるはやてを苦しめてしまうことに心を痛める闇の書の意志(声・小林沙苗)。
この他、はやてが入院している病室で主人公一行とヴォルケンリッターの面々が鉢合わせする展開も実に巧いし、夜間の市街戦も前作に引き続いて大迫力で、ドラマを盛り上げました。特にヴィータ(声・真田アサミ)がミサイルを発射する場面や、画面の左手前にヴィータ、画面奥に落下するフェイトを配置した構図も非常にかっこ良かった。

魔法少女リリカルなのは The MOVIE 2nd A’s

 

--第6位…『劇場版魔法少女まどか☆マギカ 前編 始まりの物語』

テレビアニメ『魔法少女まどか☆マギカ』の総集篇の前篇。テレビシリーズ第8話「あたしって、ほんとバカ」までを纏めています。平凡な主人公の少女・鹿目まどか(声・悠木碧)が魔法少女と魔女の戦いという非日常と直面し、前向きな気持ちを抱く前半部こそポジティブな映画ですが、途中から雲行きが怪しくなり、緊張感と絶望感が延々と銀幕を覆うことになります。それは、後戻りのできない境地に足を踏み入れてしまった後悔や恐怖であり、それら劇中世界の空気が、銀幕を超えて観客に伝わってくるのです。魔女が作り出す異空間の描写も、映画館で観ることによって、テレビ画面で観るよりも、観客自身を包み込んで異空間に連れて行ってしまうかのような迫力がありました。魔女の登場シーンで表示される魔女語の字幕も怪しい雰囲気を醸し出しています。そしてラストでは、魔女と戦う魔法少女が、実は魔女の前段階であり、まどかの友達である魔法少女・美樹さやか(声・喜多村英梨)が魔女になりかけているという、絶望感が最高潮に達したところで幕を閉じます。観客を絶望のどん底に叩き落とす映画としては大変優れた逸品でありました。

ところで、テレビシリーズの本放送を観た上で総集篇を観ると、なかなか感慨深いものがあります。主人公・まどかと転校生である魔法少女・暁美ほむら(声・斎藤千和)が、保健室に向かう場面、魔法少女・巴マミ(声・水橋かおり)のことを忘れるとか忘れないとか言い合う場面、噴水の場面の3つの場面における、ほむらの表情の変化は、既に1回テレビシリーズを観た上で改めて観ると、ほむらの悲しみや辛さが伝わってきて、胸が詰まります。

この他、マミのテーマ曲に日本語の歌詞が付いており、華麗な楽曲に仕上がっているのも見どころであります。

劇場版魔法少女まどか☆マギカ 前編 始まりの物語

 

--第5位…『虹色ほたる~永遠の夏休み~』

1年前に交通事故で父親を亡くした小学6年生の主人公・ユウタ(声・武井証)が、夏休みに父親との思い出の場所に向かい、そこで1970年代後半の夏休みシーズンにタイムスリップしてしまう話。ユウタは辛い気持ちを抱えていましたが、タイムスリップ先で出会った子供には、ユウタよりももっと絶望に打ちひしがれ、死さえも望んでいる深刻な人物もいました。しかし本作が描いたのは、困難を抱えつつも前に向かって歩み、成長する子供達の姿でありました。映画の惹句である「それでも、こどもたちは今を生きる」というフレーズに、この映画の最も描きたかった点が凝縮されていると言えます。

 

--第4位…『それいけ!アンパンマン よみがえれバナナ島』

テレビアニメ『アンパンマン』の劇場版。本作の魅力は、ばいきんまん(声・中尾隆聖)がいい人になっていることです。ばいきんまんは本来なら悪役であるにも拘わらず、物語の舞台となっているバナナ島で、苦境に陥っている女王バンナ(声・木村佳乃)を放っておけずに助け、更には、操縦するロボットでバンナを庇うシーンまでありました。かっこいいぞ、ばいきんまん!ラストシーンは、ばいきんまんの笑顔を受けてバンナも笑顔を浮かべるもので、まるでばいきんまんが主役でゲストのバンナがヒロインであるかのような構成になっています。本来は主役ではないキャラクターを引き立たせる作品もいいですよね。

それいけ!アンパンマン よみがえれバナナ島

 

--第3位…『ももへの手紙』

夏休みに東京から瀬戸内海の島にある実家の近所に引っ越してきた母子と、今は亡き父親の家族愛を描きつつ、そこに妖怪が絡むストーリーとなっています。妖怪役を演じる西田敏行のユーモラスな語り口が微笑ましく、死してなお家族を思い続ける父親の愛情のありがたさがとてもいい話になっています。

 

--第2位…『GOTHICMADE 花の詩女』

架空の惑星を舞台に、巫女的役割を果たす女性・ベリン(声・川村万梨阿)と、ベリンを護衛する軍人であり皇族のトリハロン( 声・佐々木望)の旅を描きます。平和を愛するが故に軍人や兵器を忌み嫌うベリン及びベリンに仕える神官と、ベリンら神官を守る職務を遂行するために空中戦艦に搭乗し武器を携帯するトリハロンら軍人の対比が、物語の軸になっています。それが特に強く表れるのが、ベリン一行がロボット(ゴティックメードと呼ばれる)の襲撃を受け、トリハロンもゴティックメードを操縦し、敵と戦う場面です。ここでトリハロンは、倒れたゴティックメードや、逃げようとする敵の航空機をも容赦なく破壊しますが、その様子を見た神官らは、戦闘の意志を失った敵まで破壊することにショックを受けます。しかし軍人の立場からすれば、再び襲い掛かってくる可能性があるため、破壊する必要があったのです。トリハロンとて無慈悲に破壊していた訳ではなく、悲しみを内に秘めていたのでした。戦争は嫌なものだがしかし自分達の身を守るために軍事力が必要、という矛盾は大変考えさせられます。しかしこうした難しい情勢の中で、平和を愛するベリンは旅の途中で花の種を撒き続けます。長い年月を経て、ベリンが旅した枯れた大地は、遂に満開の花を咲かせるのでした。平和を希求する心の尊さを実感する、心温まるラストでありました。

映像面では、庶民の衣服や画面の端に映っている動物に至るまで緻密に描かれ、劇中世界の存在が確固たるものとなっていました。

余談ですが、上映時間70分の割にエンディングが長い(笑)。

GOTHICMADE 花の詩女

 

--第1位…『アシュラ』

応仁の乱の頃の、食べる物にも事欠く人々を描いた壮絶な物語です。そうした壮絶な物語世界の中で最も私が強く印象に残ったのが旅の僧侶(声・北大路欣也)です。北大路の台詞は大変な迫力があり、人を殺傷しようとする野性に溢れた主人公の少年・アシュラ(声・野沢雅子)を圧倒します。特に「カ━━━━━━(`Д´)━━━━━━ツ!!!!」という台詞はまるで観客の動きまで止めてしまうかのような迫力を持っていました。そしてこの僧侶は、アシュラに獣と人間の違いを語ります。それは理性などの心であると。戦乱の時代である劇中世界は、アシュラのみならず多くの人々が理性を失っており、僧侶の発言は皮肉ですが、僧侶は人々が理性を失ってはいないだろうという希望を持っていたのかもしれません。応仁の乱の時代と現代では全く世相が違いますけれども、この僧侶の発言は現代を生きる私達への警句にもなっているのではないかと私は自戒したのでありました。
映像面では、燃えるような真っ赤な空が、穏やかではない劇中世界の世相を象徴しているようでした。

(文・写真:コートク)