10月27日、陸上自衛隊朝霞訓練場にて「平成25年度自衛隊記念日 観閲式」が開催されました。今回はその様子をレポートします。
自衛隊観閲式は、11月1日の自衛隊記念日の行事として行われるもので、陸海空3自衛隊が持ち回りで開催しています。昨年は海上自衛隊の観艦式があり、今年は陸上自衛隊の観閲式。来年は航空自衛隊の航空観閲式が行われる予定です。
10月20日の予行は雨に見舞われましたが、27日の本番は関係者の願いが空に届いたか快晴。風が強く、予定されていた空挺降下は中止となりましたが、その他の行事は恵まれた天候のもと、行われました。
自衛隊の最高指揮官である、安倍晋三内閣総理大臣を観閲官として迎えて開式。栄誉礼や巡閲を経て、安倍首相は訓示を行いました。
安倍首相らが座る観閲台の前には、内閣総理大臣旗、防衛大臣旗、防衛副大臣旗に加え、統合幕僚長旗をはじめとする陸海空幕僚長旗がズラリ。これだけのVIP旗が並ぶと壮観です。
また、在日アメリカ軍幹部をはじめ、各国の駐在武官も出席しているので、様々な軍服を見ることのできる貴重な機会。会場では武官による一種の外交も行われます。
訓示が終わると、第1空挺団の隊員による空挺降下の予定でしたが、強風の為にキャンセル。アナウンスで中止が告げられると、集まった観衆から残念そうな声が。危険でもありますし、流されて民家などに行ってしまってはいけませんから、やむを得ませんね。
陸上自衛隊中央音楽隊、海上自衛隊東京音楽隊、航空自衛隊航空中央音楽隊合同による音楽隊の演奏で、いよいよ観閲行進が始まります。指揮をするのは陸上自衛隊中央音楽隊長。観閲部隊指揮官である第1師団長の車を先頭に、まずは徒歩行進です。「陸軍分列行進曲」にのって、防衛大学校学生隊、防衛医科大学校学生隊、高等工科学校生徒隊と、自衛隊の未来を担う人材が行進。防衛大学校と高等工科学校の代表はサーベル、そして防衛医科大学校の代表は医学の象徴である「アスクレピオスの杖」を持っての行進です。
学生に続いて普通科部隊、空挺部隊が行進。普通科部隊は第1普通科連隊に所属する隊員達。今回の観閲式に参加している部隊の多くは、10月16日以降、伊豆大島で発生した土砂災害の行方不明者捜索の為に災害派遣されている部隊でもあります。災害派遣された隊員も観閲行進する隊員も、どちらも自衛隊の代表として活動している訳ですが、伊豆大島で行方不明者を捜索している同僚達の思いも乗せて、彼らは行進している訳です。
さて、素人目には徒歩行進の意味というか見方がよく判らないかもしれません。一見ただ歩いてるだけに見えますが、この行進の間隔・動きが揃っているというのは、訓練が行き届いているという証拠。つまり、任務を忠実に実行できる練度の高さが行進の動きに反映されているということなのです。
音楽隊の演奏する曲が行進曲「軍艦」に変わりました。海上自衛隊の部隊が登場です。千葉県にある第3術科学校の学生を中心にした部隊です。
海上自衛隊に続いては、航空自衛隊の部隊が登場。航空自衛隊公式行進曲「空の精鋭」に合わせて行進します。
さらに曲が陸上自衛隊公式行進曲「大空」に変わります。自衛隊中央病院・高等看護学院学生隊、そして陸海空の女性自衛官部隊の行進です。高等看護学院は来年度から防衛医科大学校に併合され、その一部となる為に、高等看護学院としては最後の観閲行進となりました。
徒歩行進が終わると、今度は観閲飛行。陸海空の航空機、総勢53機が編隊飛行で続きます。陸上自衛隊は千葉県の木更津駐屯地から、海上・航空自衛隊は各地の基地より飛来。速度がまちまちの航空機が見事な間隔で飛行する辺り、航空統制(管制)のテクニックも素晴らしいものですね。
参加していた航空機は以下の通り。
■指揮官機:
第1ヘリコプター団・第104飛行隊 CH-47JA(千葉県・木更津駐屯地)
第1師団・第1飛行隊 OH-6D(東京都・立川駐屯地)
教育支援飛行隊・富士飛行班 OH-1(静岡県・滝ヶ原駐屯地)
東部方面航空隊・東部方面ヘリコプター隊 UH-1J(東京都・立川駐屯地)
第4対戦車ヘリコプター隊・第1飛行隊 AH-1S(千葉県.木更津駐屯地)
西部方面ヘリコプター隊 UH-60JA(佐賀県・目達原駐屯地)
航空学校・霞ヶ浦校 AH-64D(茨城県・霞ヶ浦駐屯地)
第1ヘリコプター団・第106飛行隊 CH-47J/JA(千葉県・木更津駐屯地)
第1ヘリコプター団・連絡偵察飛行隊 LR-2(千葉県・木更津駐屯地)
■海上自衛隊:
第71航空隊 US-1A・US-2(山口県・岩国航空基地)
第2航空隊 P-3C(青森県・八戸航空基地)
第91航空隊 U-36A(山口県・岩国航空基地)
■航空自衛隊:
第401飛行隊 C-130H(愛知県・小牧基地)
第8飛行隊 F-2A(青森県・三沢基地)
第305飛行隊 F-15J/DJ(茨城県・百里基地)
特に第305飛行隊のF-15は非常にタイトなグッドフォーメーション。編隊長機のF-15DJ(32-8082号機)は、昨年の観艦式でも編隊長機として飛行していました。
観閲行進の最後は車両行進。軽快な「祝典ギャロップ」に合わせて様々な車両が行進します。先頭は国際派遣部隊、その中心となる中央即応連隊、そして今までの国際派遣部隊の隊旗が続きます。
その後、偵察部隊、普通科、即応予備自衛官、予備自衛官、施設科、通信科、科学科、衛生科、需品科、情報科、西部方面普通科連隊の車両が続きます。偵察オートバイや普通科の89式装甲戦闘車がこれほど並ぶのは壮観。また、通信科、情報科の車両行進もなかなかレアですね。最近重要性が増している、離島防衛を担う西部方面普通科連隊は、偵察・上陸用のゴムボートを牽引して行進。
航空自衛隊のパトリオット(PAC3)部隊は、ドラマ『空飛ぶ広報室』第5話に登場した第1高射群第4高射隊(埼玉県・入間基地)。ドラマ同様、ミサイル本体は「投げても爆発しない」訓練弾でした。
車両行進は高射特科、野戦特科と続き、最後は戦車部隊。観閲式初参加の10式戦車を先頭に74式戦車、90式戦車が続きます。高射特科の87式自走高射機関砲、野戦特科の99式自走155mmりゅう弾砲も壮観。
これで観閲式は終了し、観閲官である安倍総理大臣は退場しました(この日午後には伊豆大島の被災地訪問へ)が、まだまだ催しは終わりません。
少年工科学校ドリル部によるファンシードリルや、在日アメリカ陸軍軍楽隊によるコンサート、自衛隊太鼓の発表に、東部方面音楽隊と自衛隊太鼓との共演が。東部方面音楽隊と自衛隊太鼓の共演は、川中島の戦いをモチーフにした曲で、音楽隊の左右に陣取った自衛隊太鼓が武田軍と上杉軍を表現して、なかなかにダイナミックな曲でした。
装備品展示会場では、アメリカ海兵隊キャンプ富士から、防衛省も導入を検討しているという水陸両用強襲輸送車AAV7(Assault Amphibious Vehicle, personnel.model7)が展示。車内には個人装備も入っており、どのように運用するかが判るようになっていました。
自衛隊の装備品では10式戦車が大人気。車両見学に行列ができていましたが、隣の90式戦車・74式戦車の見学は閑散とした有様。説明員としていた第1戦車大隊の隊員さんは「90にしてみれば、きっと『20年もして新型戦車が登場すれば、お前(10式)も同じようになるんだぞ』と言いたいんじゃないでしょうかねぇ」と、90式戦車の気持ちを代弁してくれました。
10式戦車は実際に動かす「動的展示」も実施。砲身を下げたまま砲塔を回転させても、車体にぶつからないよう自動的に砲身の高さを調整する装置や、砲身の高さを一定にし、狙いを付けたまま車体姿勢を変化させる様子に驚きの声が上がっていました。
99式自走155mmりゅう弾砲は、砲身を上げた射撃姿勢での展示。静岡県・富士駐屯地の特科教導隊のものかと思いきや、北海道の実戦部隊から持ってきたものでした。輸送艦で持ってきたのかと思ったら、隊員さんいわく「日通(日本通運)です」。……同人誌のコミケット会場搬入や国宝の美術品から自走砲の輸送まで、日通ってほんとに何でも運ぶんですね……。
災害派遣関係の装備品では、野外手術システムや野外入浴セットなども展示。野外手術システムの展示では、キャンプ富士のアメリカ海兵隊員が、興味深く衛生科隊員の説明を聞いていました。
また、今回初の試みとして、各地の自衛隊地方協力本部(地本)などの「自衛隊ゆるキャラ」も集合。子供たちにかわいいと評判だったのは神奈川地本の「はまにゃん」。新潟地本の「ヒカリン・マモル」は、頭が新潟名産のコシヒカリでできたおにぎりという設定で、なんと空挺レンジャーです(場合によっては違うこともあり)。埼玉地本の「サイポンくん」は、今年の「ゆるキャラグランプリ」にエントリーしています。東京地本の「トウチ君」に、東部方面隊の「あずま君」と「かすみちゃん」……バラエティ豊かで来場者の評判も上々だったので、次回も継続されるといいですね。
風はあったものの、好天に恵まれた観閲式。来年は航空自衛隊の担当する航空観閲式が、茨城県の百里基地で実施されます。
■取材協力:防衛省
(取材:咲村珠樹)