あなたも宇宙の旅に出てみませんか……?
NASAの惑星探査(地球を含む)などを担っている、カリフォルニア工科大学ジェット推進研究所(JPL)が、ホームページで「太陽系観光ポスター」を公開しています。すべて無料でダウンロードでき、PDF版を使えば実際のポスターとして出力し、部屋に飾ることもできます。
デザインテイストは、レトロなアール・デコ調。ちょうどこのデザインが世界的に流行した1920年代から1930年代にかけて、鉄道や客船、航空会社はこぞって路線の利用客を増やす為に様々なポスターを制作しました。日本でも、JTBや鉄道省が、国内外の観光客向けに日本の観光地を宣伝するポスターを制作しています。
その歴史を踏まえて、太陽系の惑星・衛星の観光ポスターも、アール・デコ調のデザインをモチーフにしたんでしょうね。その上、このポスターを細かく見てみると、SFファンや宇宙ファンをニヤリとさせる「さすがJPL」というディティールに満ちているのです。
例えば、これまで多くの探査機で観測されてきた火星では「様々なツアーをご用意しております」と書いてあり、左端には2004年に着陸した無人火星探査車、マーズ・エクスプロレーション・ローバー(スピリット、オポチュニティの同型機2台)のシルエットがデザインされています。右側に大きくデザインされた、印象的な黄色いシルエットは、2012年に着陸したマーズ・サイエンス・ラボラトリーの探査車(ローバー)、キュリオシティのカメラ部(マストカム)です。
土星最大の衛星、タイタンのポスターは、2007年に土星探査機カッシーニによって発見された液体メタンの湖「クラーケン海」での船を使った観光ツアーが紹介されています。
同じく土星探査機カッシーニの観測で、活発な地質活動により氷やガスの噴出が南極付近で確認された土星の衛星エンケラドゥスでは、その「氷の火山」観光ツアーがフィーチャーされています。
1989年に、スペースシャトル(アトランティス)に搭載されて打ち上げられた木星探査機ガリレオの観測結果や、以前からの計算予測によって「表層を覆う厚い氷の下にある海」と「そこに生息する地球外生命」の存在が考えられている木星の衛星、エウロパでは、氷の下に広がる海とそこに生息する生命を観察するアクティビティが紹介されています。
変わったところでは、2013年10月に発見された自由浮遊惑星PSO J-318-22(正式なカタログ名はPSO J318.5338-22.8603)の観光ポスターまであります。これは、現時点で最も地球に近い太陽系外の天体と考えられている存在。ポスターにある「PLANET WITH NO STAR」とは、恒星など他の天体から重力的な影響を受けず、単独で銀河系を周回している、自由浮遊惑星を表したものです。
もちろん、地球のポスターもあります。「宇宙におけるあなたのオアシス」や「無料の空気と、楽な呼吸のできる場所」というキャッチフレーズが、太陽系における地球の存在をよく表していますね。
こんな風に「宇宙観光ツアー」ができる日はいつでしょう……。そしてその時、旅行会社の店頭には、どんなデザインのポスターがあるんでしょうね。
日本でもJAXAがこんな遊び心溢れるポスターを作らないかなぁ……。JAXAのうち、宇宙科学研究所(ISAS)で開発した宇宙機については、小惑星探査機はやぶさ(MUSES-C)までは、打ち上げロケットの性能計算書の表紙が、代々実在するお酒やタバコなどのラベルをパロディ化したものだったのですが、M-Vロケット引退後は作成されていないようです。
▼参考
Visions of the Future(url)
日本の宇宙開発の歴史[宇宙研物語]物語「性能計算書」(url)
(文:咲村珠樹)