皆様こんにちは。ミリタリーにおける『食』、特にレーションについてご紹介していくDachoの『ミリヲタ的グルメ』。
今回は、アメリカ軍のちょっと特殊な最新のレーション『MORE』をご紹介します。
●アメリカ軍レーション拡張モジュール『MORE』
MOREとは、Modular Operational Ration Enhancement(モジュール式作戦用レーション拡張)の略です。これは、単体ではレーションとして機能せず、MREなどの他のレーションと組み合わせて不足を補うというものです。
アメリカ軍の一般的なレーションであるMREや、寒冷気候用レーションMCWは、任務に必要なカロリーを満たすものとして開発されていますが、実際の作戦から帰還した兵士の多くは体重を減らしていたそうです。作戦中は、きちんと1日3回時間を取って食事できる保証はなく、食べられる時に食べる、という感じだそうです。また、MREなどのパッケージに含まれるものを残さず全て食べてしまう兵士はほとんどおらず、自ずと摂取カロリーは減ってしまいます。(当然好き嫌いはありますし、例えばコーヒーに砂糖を入れないだけでも摂取カロリーは減ります。)
こうした問題を解決するために開発されたのがMOREです。行動しながらでも簡単に食べられる食品をセットにしたパッケージで、MREやMCWなどのレーションを補完する形で使用されます。極限環境での戦闘任務でも兵士の体重を維持し、身体的・精神的に鋭敏な状態を維持するための追加のカロリーを提供することを目的としています。
ところで、上に書いたようにMOREは、Modular Operational Ration Enhancement(モジュール式作戦用レーション拡張)という大層な名前の略ですが、当然『より多くの』という英単語『more』にかけたものですよね。(もちろん公式な資料にはそういった記述はありません(笑))
MOREには、高高度/寒冷気候用のパックと高温気候用のパックがあります。この『高高度/寒冷気候用』と『高温気候用』というのを見て私が最初に連想したのは、山岳地帯のアフガニスタンと暑いイラクでした。ご存知の通り、アメリカは同時多発テロ以降、この2か国での長い戦いを経験しました。このMOREは、そこで得られた教訓から生み出されたものの1つなのでしょう。
開発の経緯を見てみると、まず高高度用パックが試作されました。この時点では寒冷気候用とは冠していませんでしたが、アフガニスタンの標高が高く寒い場所で使用することは想定されていました。2009年頃には、プロトタイプがアフガニスタンに送られ、陸軍特殊部隊(グリーンベレー)と海軍特殊部隊SEALsによって試験された模様です。その後、『高高度/寒冷気候用』として正式採用となり、『高温気候用』も作られました。
ところで、自衛隊でも演習時などに『増加食』として追加の食料が支給されることがあります。これは、状況によって金額が決められており、駐屯地などの単位で調達されたカップラーメンやジュース、菓子類などが支給されます。当然各国の軍隊も似たような仕組みがあると思いますが、詳細に研究し、正式な装備品にしてしまったのはアメリカだけではないでしょうか。
参考:
【ミリヲタ的グルメ】第2食 アメリカ軍MRE(https://otakuma.net/archives/2010040204.html)
【ミリヲタ的グルメ】第34食 アメリカ軍特殊部隊用レーション(https://otakuma.net/archives/2014072001.html)
MREとMOREを並べてみました。MOREの方がひと回り小さく、軽量です。
平均的な重量は、MREが680gでMOREが340gなので丁度半分ですね。
●MOREの内容
MOREには、高高度/寒冷気候用のパックが3種類、高温気候用のパックが3種類の計6種類あります。他のレーションと違って『メニュー』という言い方はしていませんね。
それぞれのエネルギー量は、高高度/寒冷気候用パックが1,130~1,340kcal、高温気候用パックが910~1,030kcalあります。高高度/寒冷気候用パックの方が若干高めですが、山岳地域では歩くだけでも平地より余計に体力を使うからでしょうか。
以下、各パックの内容を見ていきますが、その品目と『行動しながらでも簡単に食べられる』というコンセプトからはミニ『ファースト・ストライク・レーション』といった印象を受けます。
参考:
【ミリヲタ的グルメ】第11食 アメリカ軍ファースト・ストライク・レーション(https://otakuma.net/archives/6383887.html)
▼高高度/寒冷気候用パック1
・カフェイン入りチョコレートプディング
・ナッツフルーツミックス タイプ3
・トースターペストリー
・エナジージェル(ミックスベリー味)
・チェダーチーズプレッツェル
チョコレートプディングにカフェインを入れるという発想は、レーションならではですね。チョコ味のムースといった感じで味が濃いです。実は就寝の8時間前ぐらいに試食したのですが、その夜は全く眠れなくなってしまいました。カフェイン量は1パックで230mgと書かれていて、調べてみるとコーヒー2.5杯ぐらいの量ですが、もっと強烈な眠気覚ましに感じました(笑)
トースターペストリーは、シナモン味の甘いスナックです。『【ミリヲタ的グルメ】第34食 アメリカ軍特殊部隊用レーション(https://otakuma.net/archives/2014072001.html)』でも登場しました。
エナジージェルは、フワフワでモチモチな食感で駄菓子みたいな安っぽい味でした。
このエナジージェルにしろチョコレートプディングにしろ、水分を含む食品が寒冷気候用のパックに採用されているのは意外でした。アメリカ軍のMCWを初め、各国の寒冷気候用レーションは、水分を排除することにより凍結しないよう配慮されています。もしかしたらMOREでは『寒冷気候用』という点よりも食べやすさが重視されているのかもしれません。
▼高高度/寒冷気候用パック2
・ファーストストライクバー(チョコレート味)
・ナッツレーズンミックス タイプ2
・エナジージェル(レモンライム味)
・カフェインガム(シナモン味)
・炭水化物強化粉末飲料(レモンライム味)
・ビーフスナック(燻製風味)
・コーンナゲットのトースト
若干呼称が変わっているものもありますが、ファーストストライクレーションと共通の品目が多いです。
カフェインガムは、1粒当たり100mgのカフェインが含まれていて、5粒で1パックです。部屋中がシナモン臭くなるほどの強烈な香りでした。
レモンライムの粉末飲料は、写真のようにグラスに移したりせず、パックに水を入れてそのまま飲みます。このドリンクは、薄めたトイレの芳香剤を飲んでいるような気分になります(笑)
コーンナゲットのトーストは、初めて見る食べ物でした。ポップコーンみたいな柔らかさは全くなく、しょっぱくて硬い豆菓子のような食べ物でした。
▼高高度/寒冷気候用パック3
・クラッカー
・スープミックスのスプレッド(チェダーポテトと人工ベーコン片)
・ザップルソース
・ベイクドクラッカー(チェダーチーズ味)
・ファーストストライクバー(ミニサイズ、モカ味)
・炭水化物強化粉末飲料(グレープ味)
『スープミックスのスプレッド(チェダーポテトと人工ベーコン片)』とは一体何だ?という感じですね。食感は、マッシュドポテトに若干水分を含ませて、カリカリベーコンのカリカリ部分だけを取り出して粉砕して混ぜ込んだ感じでしょうか(お分かりいただけます?)。味は非常に濃厚なチーズ味で、わずかにポテトの味も感じます。このスプレッドは、クラッカーに付けて食べるもののようです。
気になるのが『人工ベーコン片』ですが、ラベルの原材料から想像すると、野菜や大豆のタンパクを加工してカリカリ感を出してベーコンの香りを付けたものみたいです。アメリカ人のベーコン好きはよく聞きますが、これには執念みたいなものを感じました(笑)
ザップルソースは、すりおろしたリンゴにリンゴジャムを混ぜたような食べ物です。
ベイクドクラッカー(チェダーチーズ味)、ここにもチェダーチーズが登場します。アメリカ人はチェダーチーズも大好きなようです。
▼高温気候用パック1
・カフェイン入りチョコレートプディング
・乾燥クランベリー
・エナジージェル(ミックスベリー味)
・チェダーチーズプレッツェル
・炭水化物電解質粉末飲料(オレンジ味)
・炭水化物電解質粉末飲料(レモンライム味)
各品目は高高度/寒冷気候用パックと同じようなものが多いですが、電解質を強化してある粉末飲料が2つというのが発汗の多い暑い地域用の特徴でしょうね。
ここにもカフェイン入りチョコレートプディングが含まれていますが、やはり夜は眠れませんでした(笑)
▼高温気候用パック2
・ファーストストライクバー(チョコレート味)
・アーモンド(燻製風味)
・エナジージェル(レモンライム味)
・ザップルソース
・カフェインガム(ペパーミント味)
・炭水化物電解質粉末飲料(フルーツパンチ味)
・炭水化物電解質粉末飲料(グレープ味)
このパックで注目するとしたらカフェインガムでしょうか。通信販売でも手に入るようですが、ものすごい色で非常に不味いです。日本では絶対に売れません(笑)
▼高温気候用パック3
・ファーストストライクバー(ミニサイズ、モカ味)
・ナッツフルーツミックス タイプ3
・エナジージェル(オレンジ味)
・ザップルソース(シナモン味)
・炭水化物電解質粉末飲料(オレンジ味)
・炭水化物電解質粉末飲料(レモンライム味)
・コーンナゲットのトースト
ザップルソースのシナモン味は、薬品っぽい風味でちょっと残念な感じでした。
MOREの全6種類を食べ比べてみましたが、日本ではお目にかかれないようなものもあり、面白かったです。
上でも書いた通り、行動しながらでも食べられるというコンセプトは、ファーストストライクレーションと同じであり共通の品目がいくつもありましたが、MOREは食事ではなく追加のカロリーという考え方からか、それともコスト的な問題からか、サンドイッチのような食事的な品目は含まれていませんでした。
それにしても、他には世界中どこにもない新しいコンセプトのMOREは、実に興味深いレーションでした。
注意してください!!
アメリカ軍MOREを初めとする各国のレーションは、我々民間人が手に入れて食べることを前提としていません。
これらを販売する業者なども、あくまでコレクション品として取り扱っています。
食品としての安全性は、各国政府、製造業者、販売者の誰も保証してくれませんので、万が一食べる場合は、すべて自己責任になります。
(文・写真:Dacho)