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アメリカ海軍ブルーエンジェルズ 2021年からの使用機F/A-18E改修1号機受領

 ボーイングは2020年6月3日(現地時間)、アメリカ海軍の曲技飛行隊「ブルーエンジェルズ」が2021年シーズンから使用する、F/A-18E/Fスーパーホーネットの改修1号機を納入したと発表しました。ブルーエンジェルズ仕様に改修されたスーパーホーネットは、ウインタートレーニング開始前の2020年中に全11機が納入される予定です。

  •  フロリダ州ペンサコラ海軍航空基地に拠点を置くアメリカ海軍の曲技飛行隊「ブルーエンジェルズ」は、展示飛行を通じて海軍戦闘機パイロットの優秀な操縦技量を示すとともに、海軍航空の象徴として人々に勇気と希望を与える存在です。

     新型コロナウイルスとの戦いの最前線にいる医療従事者や、それを支える人々に感謝の意を伝えようと2020年4月末から始まった「America Strong」でも、空軍サンダーバーズとともに全米の人々を勇気づけました。

     その特徴ともいえるのが、互いに手を伸ばせば届きそうなほどタイトな編隊飛行。また、レシプロ戦闘機時代からの伝統で、現代のジェット戦闘機パイロットには不可欠な酸素マスクと耐Gスーツを着用しないことでも知られます。


     1946年に誕生したブルーエンジェルズは、オイルショックの影響で燃費の良いA-4を使った時期を除き、原則として海軍における主力戦闘機を使用してきました。初代のF6Fから1968年までは代々グラマン製(F6F、F8F、F9F-2、F9F-8、F11F-1)、そして1969年からはF-4J、A-4Fとマクダネル・ダグラス(現ボーイング)製を使用機に。F-4J時代には、これまでただ1度の日本ツアーも実施されています。

     そして1986年、それまでのA-4Fに代わって使用機となったのがF/A-18ホーネット。2010年までは初期型のA型(単座)とB型(複座)、2011年シーズンからはC/D型に世代交代しています(複座型は飛行時間が少ないためB型が配属される場合もあり)。

     30年以上と歴代最長となるF/A-18ホーネットも、すでに海軍からはほとんどが退役し、海兵隊でも残すところわずか。ブルーエンジェルズも2021年から、F/A-18E/Fスーパーホーネットを使用することになりました。

     F/A-18E/Fスーパーホーネットは改良型といえども、軽戦闘機が原型だった従来型(レガシーホーネット)よりひと回り大きくなりました。エンジンも強化されており、機体規模と推力重量比はF-4と同じくらいと、ほぼ別の戦闘機といってもいい存在です。

     これまで同様、ブルーエンジェルズに配属されるのは、新品ではなくブロック21/22と呼ばれる初期生産型のうち、飛行時間の比較的少ないもの。最初にスーパーホーネットが配属されたVFA-115(現在は岩国海兵隊航空基地、空母ロナルド・レーガンのCVW-5所属)で使用されていた機体を「ブルーエンジェルズ仕様」に改修します。

     改修作業が実施されるのは、フロリダ州ジャクソンビルにあるボーイングのセシルフィールド工場。燃料タンクの一部をスモークオイル用にし、ジェットエンジンの排気ノズルまでスモーク用の配管を取り付けます。

     エアショウなどの展示飛行では、なにより時間のタイミングを合わせなくてはいけません。このためコクピット計器盤の最上部、HUD(ヘッドアップ・ディスプレイ)の横にストップウォッチを取り付けます。民間機と混じって飛ぶことも多いので、航法機器も民間機用と同じように使えるものに交換。

     また、通常の戦闘機と違って背面飛行することが多いため、燃料供給用のポンプも強力なものに交換し、背面飛行可能な時間を延長します。そして背面飛行時の操縦(背面で水平飛行するには操縦桿を押した状態にする)が楽になるよう、操縦桿を前方へ約18kgの力で引っ張るバネも取り付けられます。

     ブルーエンジェルズの展示飛行では、通常とは違う飛行をするため、極端な操縦操作が必要になりますが、戦闘機用の飛行制御ソフトウェアでは、それらの操縦操作は「危険なもの」とされて安全装置が働き、操作を無効化してしまいます。これもエアロバティック飛行用に一部を変更し、操作した通りに動き、それでいて本当に制御不能な状態にならないような飛行を実現する形に。

     このほかにも記録用のカメラを取り付けたり、改修によって変化する機体の重心位置の調整をしたりすることによって、実戦用の戦闘機からブルーエンジェルズ仕様に模様替えされるのです。もちろん、仕上げにはブルーエンジェルズのネイビーブルーとイエロー(本来は海軍のイメージカラーであるネイビーブルーとゴールドの代わり)のカラーリングに身を包みます。

     ボーイングでアメリカ海軍と海兵隊担当を務めるパット・ウォルシュ副社長(退役大将)は、自身も1985年~1987年シーズンにブルーエンジェルズの3番機と4番機パイロットを務めた人物。「スーパーホーネットは、海軍航空の素晴らしさを象徴する機体です。これまでボーイングは海軍のスーパーホーネットをサポートしてきましたが、新たにブルーエンジェルズもそのチームに加わり、さらに重要な段階に入っていくのが楽しみです」とのコメントを発表しています。

     海軍に引き渡された改修1号機は、今後メリーランド州のパタクセントリバー海軍航空基地に移り、ブルーエンジェルズの飛行に適した状態になっているか、そしてスーパーホーネットでの展示飛行における検証作業に入ります。F/A-18C/D最後のシーズンとなるブルーエンジェルズは、7月11日の地元フロリダ州ペンサコラ・ビーチでのエアショウを皮切りに、10月16日・17日のペンサコラ海軍航空基地まで9つのエアショウで展示飛行を実施する予定です。

    <出典・引用>
    ボーイング ニュースリリース
    Image:Boeing/U.S.Navy

    (咲村珠樹)

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