上司に「了解しました」を使うと失礼にあたる──就職活動中や就職してからこう教わった人は結構いるのではないでしょうか?
しかし、つい先日三省堂国語辞典の編集委員である飯間浩明さんが「了解いたしました」は別に失礼な言葉にはあたらないとツイートしていて、これが24,000以上もリツイートされて話題になっています。
【関連:明治天皇玄孫の竹田恒泰氏、皇族には『逝去』ではなく『薨去』と紹介】
飯間さんによると「了解」は「分かる」の漢語表現にすぎす「いたしました」をつけることで敬語となるんだそうです。つまり「了解しました」だけだと失礼にあたりますが、「了解いたしました」は敬語になるために上司に対して使っても問題はないとのことだそうです。
ではなぜ、世間一般的に「了解いたしました」と敬語にしたとしても上司には使わないほうが良い、とされているのでしょうか?
■ここ10年ほどで言われだしたこと
インターネット上で調べてみただけでも多くの人が「了解」という言葉を上司に使うことに難色を示し、使われたという上司の人は「けしからん」と怒り部下に指導するという姿が見られましたが、実際に東証一部上場企業に務め上司の立場である会社員の知人に問い合わせてみたところ
「「了解いたしました」は失礼にあたるとは思わないため、使われたとしても当然腹が立つことはありません。ただし、言われてみたら「承知いたしました」のほうがより丁寧だとは思います」
とのことで「了解」を使われることに対してNGだと思っていないようでした。
同じように20代から60代の様々な職業の知人に問い合わせてみたところ、20代の会社員のみ「ビジネス書から「了解いたしました」は使うべきではないと学びました。実際の仕事では上司に使ってしまっていますが、上司からは別段何も言われません」という「了解が駄目」だとの認識を感じさせる回答がありました。
前述した飯間さんも「ここ10年ほどで言われだした」と指摘しているように、2000年代後半に就職活動をしている人がより「了解」の使用には敏感になっているようでした。
■「了解しました」は軍事用語?
一方で「了解しました」は元々は軍事用語であり上官には「了解」という言葉は使っていなかった、という意見も多くあったため、編集部内でミリタリー記事を多く執筆する担当ライターに聞いてみたところ
「「了解しました」は無線用語だと思っていましたが、軍隊で無線を使うことが多いので、そこから一般化した面はあるのかもしれません。
本来上官の命令は「了解していること」が当然のことなので、わざわざ「了解」と言う必要がなく、命令を復唱するだけで事足ります。
「了解」の言葉には階級性がないので、使用しても別に失礼ではないかと思います。事実の伝達に過ぎないので、代わりに謙譲も敬意もありません。
実は「承知」も事実の伝達に過ぎないので、本来謙譲も敬意も存在しない表現です。
了承の表現では、あえて言うなら「かしこまり(畏まり=おそれうやまい)ました」が、謙譲表現なので目上の人に対しては適していますが、これでは目上すぎる……というところで、この手の表現が難しくなっているのではないでしょうか」
との意見。別段軍隊の中で上官に「了解しました」を使ったら拳が飛んでくる……というようなことはないようですよ。
■ビジネスマナーで最も重要なのは「相手がどう受け止めるか」
ビジネスマナーは共に仕事をする相手に敬意を表し、互いに気持ちの良い仕事をするためのものであるはずです。
しかし最近ではマナーだけが先行し、その根本の理由まできちんと話せる人は少ない様子。
あなたの周りに「了解いたしました」を使うことがなぜ駄目なのかを理由づけてお話された上司はいましたか?
とはいえ、社会全体の風潮からすると「いたしました」の表現とは別に、そもそも「了解」よりも「承知」が無難というケースは多いかと思います。
ちなみにうちの編集長の場合だと「了解」を新人が使うとかならず一度は指摘するそうです。「了解は仲間内や関係深い相手と使う分には問題ないけど、社外を相手にする場合には相手がそう理解しているとは限らないからつい出ないために指摘し意識させる」との話。でも激高したりとかではないですよ。過去苦い経験があったとかで、そういう話含め説明してあげるそうです。
「ビジネスマナーは相手に失礼な印象を与えないために行う最大の配慮。社内の上司部下関係でこの言葉が適切か否かがよく議論されているけど、ビジネスマナーが本来発揮されるのは社外。取引先に対しついうっかり出ないため、そもそも「了解」自体の使用をあえて普段から注意し「承知」に慣れさせているって上司は多いんじゃないかな」とも語っていました。
確かに、相手がこれから取引を控えた大企業の社長という場面で、その社長に対し「了解いたしました」「承知いたしました」どちらが無難かといえば、後者。
普段は「了解」を使っている人の中でもこの場合「承知」を選択する人は多い事でしょう。でもそんな時、普段「了解」を使い慣れている人がどちらを咄嗟に発するか。想像に難しくありません。
ただし、そうは言っても「了解」に「いたしました」をつけることで敬語となるのは今回飯間さんが紹介したとおり。大事な取引があるような場所で「承知」を使うことを心がけることは大事ですが、上司の立場の人が部下から「了解いたしました」を使われたからと言って難癖をつけたり激高したりする姿は果たして正当ものだと言えるのでしょうか?
(文:大路実歩子)