鹿児島空港の出発ロビーで織田信長、島津義弘、井伊家の甲冑が揃ってお見送りしてくれる……。そんな事がネットでにわかに注目されていました。
【関連:2015年に行われた関ヶ原合戦「武将」「足軽」の求人】
置かれているのは国内線ビル2階出発ロビー。鹿児島県に本拠地を置く甲冑製作の丸武産業株式会社が手がけた作品だそうです。詳しい話を丸武産業に聞いてみたところ、端午の節句の時期にあわせて空港施設に依頼され4月18日から5月8日の期間限定で展示しているとのこと。
なるほど。置かれた理由は分かりました。ただ、鹿児島県に甲冑製作の会社があるなど全く知らなかった筆者。さらに興味をもってあれこれ聞いてみると、昔の甲冑を再現しているだけでなく、映画・ドラマの甲冑製作も手がけるいわゆる「現代甲冑」の製作会社でもあることが分かり、映像と甲冑製作の関係について話をより深掘りすることにしてみました。
■最盛期は黒澤明監督の『乱』の甲冑1600領
「最盛期は黒澤明監督の『乱』の甲冑1600領だねー」
こう話してくれたのは、丸武産業の平林正勝さん。創業からの話を聞くと、1958年の創業時は竹を使った釣り竿を作る会社だったそうです。甲冑については当時の社長が趣味で集めていた骨董品の一部という扱い。しかし、時代とともに竹の釣り竿の需要が減り始め、対し趣味で集めた甲冑を地域の祭り等に貸し出すことが増え、流れで手の空いた職人で修理を行うようになり、ついには全部を手がける「甲冑製作会社にトラバーユ」してしまったそうです。なお、トラバーユ当初は当時の社長のこだわりから「本物に近づけることを重視」。そのため、着用時の重さなどは重要視されていませんでした。
ところが1976年に放送された「鎖頭巾」でテレビに初協力して以来、映画・ドラマ用の製作では「軽さ」を重視し求められるようになりました。おかげで最近では1領15キロ前後にまで落とすことに成功しているそうです。
また、数年前にはある映画監督からの依頼で「もっと軽い甲冑」を作ることになったそうです。甲冑はそもそも戦闘用に作られたものなので、元の仕組みが「動きやすい」ようにできており、形をそうそう崩すことはできません。そこで形を改良し軽量化するのではなく時代考証なども鑑みて、素材や組み合わせを工夫することで、胴体だけで1領700gのものを完成させました。
撮影に立ち会ったとき着用した大物俳優からこんな言葉をかけられたそうです。「Tシャツ着てるみたいだね」。ほんのさりげない一言でしたが「苦労した分本当に嬉しかったです」と平林さんは当時の感動を語ってくれました。
■最近では一般からの「甲冑レンタル」などが伸びてる
昨今知られる通り、時代劇の作品数は徐々に減りつつあります。そこでオーダー事情も聞いてみたところ、映像以外にも一般向けのレンタルや一般向けオーダーも受けているといい「昨今は時代劇より売り上げはあがってます、今は端午の節句のお祝いの御注文を受ける時期です」とのお話。
節句については「稚児鎧」と呼ばれる、お子さんサイズの甲冑を着せるのが人気となり、さらに一般の「甲冑レンタル」以外に「甲冑ウエディング」というブライダル向けのプランもあるそうです。
レンタルについては武将用の高価なものは一部スタッフ同行が必須条件となりますが「費用さえ払っていただければどこでも行きますよ」というフットワークの軽さ。甲冑は練習を重ねれば誰でも着ることができるそうですが、「直ぐに誰もが着れるものでは無いです」とのこと。そのための「スタッフ同行」でもあるそうです。
■鹿児島以外で「丸武の甲冑」を見る機会
丸武産業の甲冑「丸武の甲冑」は鹿児島県に足を運ばずとも、各地で開催される企画展などで見られることもあるそうです。甲冑に関わるイベントならばなんらか関わっている可能性が高く、近くの場所で「甲冑」に関するイベントが行われるときには足を運びがてら「丸武の甲冑」を探してみてください。
また、東京都千代田区外神田2丁目1-15には千代田店を開いています。こちらは展示会場ではなく、販売・レンタルの窓口となっています。店内には実際の甲冑が多数展示してあるので、マイ甲冑を購入したいという方にはうってつけ。戦国ものの合戦イベントには「マイ甲冑持参」でイベント料が割引きになるものもあります。毎年合戦に参加してるよ!という武士は、ぜひ千代田店で最新甲冑をチェックしてみてはいかがでしょうか。
そして今回の話の中では映像甲冑に関わるこんなエピソードも聞くこともできました。
「映像で作る甲冑は実は2つ作ってるんです」
これは制作会社に依頼されてというわけではなく、納品するものとは別に「何かあった時のため」と「研究用」を兼ね自主的に作り残しているのだとか。「ある映画の場合だとラストに有名俳優が甲冑を蹴るシーンがあって壊れないか心配で心配で(笑)」なんて話も。こうした職人達の影ながらの努力や応援も今の日本映像作品を支えているのですね。最後には思わず「黒澤作品超えの発注が届きますように。」心からそう願ってしまいました。
・協力:丸武産業株式会社
(宮崎美和子)