酷暑で熱中症が続出している今、小さい子どもの「疲れた」がSOSのサインとなっていた事例が漫画でSNSに投稿され、大きな話題になっています。

 この漫画を投稿したのは、長野県在住の漫画家である火ノ鹿たもんさん。「熱中症でお亡くなりになった6歳の『つかれた』という言葉を聞いて 真っ先にこのことを思い出しました。 熱中症は温度もそうですが、湿度が高いとさらになりやすくなります。 つかれた、眠い、と言っている以外は普通に見えたことを思い出したのです。」というコメントともに自身の体験を漫画に綴っています。

 火ノ鹿さんの息子さんがまだ6歳だった時の話。5月の初夏の陽気のなか、とある水族館へ家族で出かけた時の出来事です。開園まで時間があったので子供たちを外で遊ばせてからいざ水族館へ。しかし、息子さんは入園すぐに「つかれた」としゃがみ込んでしまったそうです。そして「ねむい」と。車の中ではずっと寝て移動していた息子さんですが、明らかに様子がおかしい。仕方なく他の家族と別行動で息子さんの様子をみる火ノ鹿さんでしたが、ある事に気が付きました。ベンチで膝枕をして寝かせていた時に息子さんの額を触ったところ、驚くほどに熱い。

 この熱が何なのか分からず、救護室へ。「軽い熱中症っぽいですね」と言われ、そこまで暑い日でもなかったはずなのに体温は38度。救護室の職員さんから受けた説明は「温度もそうですが、湿度が高いと汗が出にくくなって、体の中に熱がこもって体温が上がってしまうんです。小さいお子さんだとなおさらですね」。なかなか熱は下がらず、結局、家族旅行のあいだ中寝込んでいたそうです。

■ 子どもの熱中症、元気も汗も出ない時はSOSのサイン

 低年齢の子どもは体温調節が未発達な事もあり、熱中症に陥りやすいのですが、語彙力も未発達なために「疲れた」「眠い」「動けない」しか言わない事もあります。普段から疲れやすい子だとなおさら熱中症に陥りやすくなりますが、親から見ると「また疲れたって言う……」とうんざりしてしまう事もあるかもしれません。ここで気を付けておきたいのが、脱水や熱中症になっていないかどうか。子供が疲れを言い出したら次の事に気を付けて観察してみて下さい。

1.汗の量が異常に多くないか、または汗が全く出ていないかどうか。顔が異様に赤くないか。
2.額や首筋を触ってみて異様に熱を持っていないか。
3.呼びかけに対する反応はいつもと同じかどうか。
4.乳児の場合、泣き声がいつもより弱くないか。

 熱中症は1~3度に重症度が別れますが、1度(軽症)の時は気分不快、立ち眩みやめまい、多量の汗をかく、手足のしびれ感があるなどでなかなか低年齢の子供は自分の状態を説明するのが難しい症状かもしれません。2度(中等度)の場合、1度の症状から進んで頭痛、吐き気や嘔吐、だるさや疲れ、虚脱感が出てきます。3度(重症)の場合、2度に加えて意識がもうろうとして、時には意識消失、呼吸停止につながる恐れも。手足のけいれんや触っただけでも確実に熱いと感じる状態も3度と判断されます。3度の兆候が少しでも見られるようであれば速やかに医療機関を受診してください。意識がおかしい様であれば救急車をためらわずに呼ぶことも大事です。

 これらの点を踏まえ、自覚できる症状を覚えておき、症状が出始めた子どもに分かるように質問していく事が観察のポイントとなります。一例として、

「頭は痛いか」
「吐きたい感じはするか」
「体がふわふわする感じがあるか」(めまいの症状)
「手足がうまく動かせるか、ビリビリする感じがあるか、力を込めてグーができるか」
「質問に言葉で答えるのもつらいか」

などといった質問をして、熱中症と思しき状態であれば早急に処置を行います。

 水分補給と体の太い血管を冷やす事が主な処置となりますが、市販の冷却ジェルシートはひんやりした感じを一時的に受けるだけであって熱を冷ます効果はありません。凍った保冷剤をハンカチにくるんで太い血管に近い部分(両首の脈が触れる場所、脇の下、両股の付け根部分の5か所)に当てて動脈血がなるべく冷えるようにする事が効率よく熱を冷ますポイント。水分も、汗が出ている様ならどんどん飲んで補給させてください。市販の経口補水液が望ましいですが、スポーツドリンクを薄めたものでもOK。1.5lのスポーツドリンクに水500mlくらいに薄めると体への浸透が良くなります。汗をかいていない場合はとにかく冷やすことが先決。汗が出ていない時点で重症の熱中症です。

 身体の自己表現が難しい子どもの場合、周りの大人が症状をどれだけ的確にみられるかが熱中症から救えるかどうかの大きなポイントとなります。急激な温度変化がある場合、汗を出すという体温調節機能が上手く働かずいきなり熱中症に陥る事も多く見られます。漫画で起こった熱中症は5月の温度変化の大きい時期であったために、汗が上手く出せず体温調節ができなかった事も考えられます。

 エアコンで適切な温度を保っていても、外気温との温度差は時に10度近くにまで及びます。気温が高い時の不要不急の外出は控える、行事も取りやめるなどの処置も必要です。特に乳児から小学校低学年までの間は、外気温によっては親の判断で自主的に休ませるという自衛手段も必要かもしれません。対策は常に万全の状態をとりましょう。

<参考>
環境省熱中症予防情報サイト 熱中症環境保健マニュアル 2018 

<記事化協力>
火ノ鹿たもんさん(@Tamon_Hinosika)

(梓川みいな/正看護師)