子どもを産む前と後では、同じ光景でも見え方がガラリと変わることが多々あります。その違いを描いた、「わたしが子どもを産むまでわからなかったこと」という漫画が、共感をよんでいます。

 作者は育児漫画「育児は続くよどこまでも…」(宝島社)などを執筆している、はちやさん(@hatiyamaru)。

 ブラブラするピアスに、小さな鞄で事足りた子どもを産むまえの「あの頃の私」の視点と、「産んだあとの私」の視点で、物語はすすんでいきます。

 子どもを抱っこしていないのに、抱っこひもを腰にぶら下げたお母さん。産む前の視点では「子どものせてないのに、なんで外さないんだろう なんかだらしない」という厳しい意見。しかし、産んだあとに見た同じ光景は「抱っこって言ったり 歩くって言ったり」「つけたり外したりめんどくさいよね!!」と、共感にかわっています。

 公園などで子どもが遊んでいるのを座って見ているだけのお母さん。産む前の視点では「座ってないで子どもと遊んであげればいいのに」とあきれ気味。これも産んだあとの視点になると「子どもの体力なんて無限だから!時々休まないとつきあってられないから!」と、お母さんへのねぎらいの感情に。

 また、病院の待合室での待ち時間にベビーカーを前に、つい居眠りしちゃったお母さんには、「そんなに疲れ果てるもんなの?ぷぷ……(笑」とその様子をみて笑っていますが、産んだあとには「眠たいよねーー 赤ちゃんのいる生活って、いつも寝不足なんだよ……」と、いたわりに。

 泣きじゃくる我が子をただ見つめるお母さんには、「抱っこしてあげればいいのに きっつー」と感じていた場面は、「泣きたいのは私だよって思っちゃうときもあるよね」という思いやりに変化。


 そして漫画の最後の方に登場する「今の私」の姿には、ブラブラのピアスはなく、小さな鞄も大きなリュックに変わっています。

 最後のページでは、あの頃の私へむけ「あの頃の私が今の私を見たらどう思うだろう」「思ったような大人の女になれなくて申し訳ないね」とメッセージが綴られています。でもそれは、今を後悔しているわけではなく「あの頃の私、もっとやさしい気持ちでいられたらよかったなぁ」という反省の気持ちからでした。

 子どもを産む前に抱いていた「育児」や、「子どもへの接し方」。物語の主人公は、産む前はただ自分の理想を押しつけていただけで、「なぜそうしているのか」という想像を巡らせていませんでした。ああしたらいいのに、こうしたらいいのに。と、ただ一方的な考えを押しつけるだけ。

 でも現実は想像とはかなり違ったもの。この漫画は主人公の反省を通じて、誰しもほんの少し「やさしい気持ち」をもつことで、物事の本質が見えてくるよ。ということを教えてくれています。

 育児中、とくに幼子をもつお母さんたちは、フル稼働しているといっても過言ではないほど動き回っています。このため体力的、精神的な余裕がなくなることもしばしば。時には追い詰められ、どうしていいかわからなくなることも……。直接手を差し伸べるというのは、赤の他人にとって難しいとは思います。でも、周りがその状況を理解し、優しい視線を送り、容認する雰囲気をかもしだすことくらいはできるのではないでしょうか。それだけでも、場の空気が和らぐはずです。

<記事化協力>
はちやさん(@hatiyamaru)

(宮崎美和子)