アメリカ海軍の新しい駆逐艦ダニエル・イノウエ(DDG-118)が、建造元であるメイン州のバス鉄工所で完成し、2020年12月16日から完成後の試験航海(海上公試)が始まりました。駆逐艦イノウエはバス鉄工所にとって、2018年12月に就役したアメリカ海軍の駆逐艦トーマス・ハドナー以来の新造船となります。
駆逐艦ダニエル・イノウエは、ハワイ生まれの日系2世、故ダニエル・ケン・イノウエ(日本名:井上建)上院議員にちなんで命名されました。ダニエル・イノウエ氏は1924年、ハワイのホノルルで福岡県出身の父と広島県出身の母との間に生まれ、第二次世界大戦では日系人部隊である陸軍第442連隊の一員としてヨーロッパ戦線に従軍。ドイツ軍との戦闘で右腕を失いながらも奮闘し、英雄として讃えられました。
戦後はハワイの政界に転じ、1959年の下院議員選挙で当選しアメリカ初の日系人議員となったほか、1963年には上院議員となり、戦時補償法の制定やウォーターゲート事件などの上院調査特別委員会委員長としても活躍。2012年12月17日に88歳で死去しました。
故イノウエ上院議員の名を冠した駆逐艦ダニエル・イノウエは、アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦の68番艦として2018年5月14日に起工、2019年10月27日に進水しました。分類上はフライトIIA・テクノロジー・インサーション(Technology Insertion)と呼ばれる、75番艦ジャック・H・ルーカス(DDG-125)から始まるフライトIIIに採用予定の能力を一部先取りした型となっています。
当初は2020年中にもアメリカ海軍に引き渡され、イノウエ氏の故郷であるハワイのパールハーバー・ヒッカム統合基地を母港に就役する予定でしたが、新型コロナウイルス禍によって艤装工事が遅延。ようやく完成しての海上公試にこぎ着けました。また、実施にあたっては、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、担当する従業員の健康管理に細心の注意が払われています。
造船所のあるメイン州バスは、大西洋にそそぐケネベック川の右岸に開けた町。アメリカ建国当初から造船業で知られており、1884年創設のバス鉄工所はジェネラル・ダイナミクス傘下となった現在でも、町を代表する企業であり続けています。
バス鉄工所では今後、造船のペースを年間2隻に引き上げることとしており、今回の駆逐艦イノウエはその計画における最初の艦船。遅れていたスケジュールを取り戻しつつ、駆逐艦イノウエは就役に向けての試験が続けられます。
<出展・引用>
バス鉄工所 ニュースリリース
Image:バス鉄工所
(咲村珠樹)