おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

アメリカ陸軍の装甲戦闘車両用次世代防御システム 正式試験へ

 ロッキード・マーティンは2021年2月16日(現地時間)、アメリカ陸軍の装甲戦闘車両を対象にした次世代防御システム開発計画で、まもなく開始される正式適合試験をサポートすると発表しました。対戦車ミサイルやロケット砲の攻撃に対し、破壊および回避をするこの防御システムは、同社の開発した「MAPS」が基本となっています。

  •  現代の戦場において、戦車をはじめとした装甲戦闘車両は様々な脅威を相手にしています。かつては「戦車の敵は戦車」という時代もありましたが、現在は歩兵が運用する対戦車ミサイルなどの装備が発達し、物陰に潜んだ相手から攻撃されるというケースが多くなりました。

    M1A2とA-10(Image:U.S.Army)

     事前に相手を視認できない状況は、主導権を取れる攻撃側が有利。このため、早い段階で相手を見つける各種索敵機器だけでなく、ふいに攻撃された場合にダメージを回避する手段が重要です。

    アメリカ陸軍のM1A2(Image:U.S.Army)

     現在アメリカやイギリス、トルコなどの防衛企業が各種の防御システムを開発していますが、多くは迫りくる対戦車ミサイルやロケット砲弾に対し、着弾する前に直接破壊する「ハードキル」という手法がメイン。ロッキード・マーティンがアメリカ陸軍向けに開発した「MAPS(Modular Active Protection System)」は、飛んでくるミサイルのセンサーや誘導信号を狂わせ、進路をそらして回避するという「ソフトキル」を前提としたシステムです。

    MAPSの概要(Image:Lockheed Martin)
    MAPSのベースキット(Image:Lockheed Martin)

     その仕組みは、センサーユニットで対戦車兵器の発射を検知し、コントローラーがその情報をもとに適した対抗システムを起動、対戦車兵器の着弾を妨害するというもの。物理的に破壊するハードキルの場合、一度使うとその場所は使えなくなるため、連続した攻撃に対応しきれない場合がありますが、ソフトキルであれば作戦行動中ずっと防御機能を使うことができるのがメリットです。

    MAPSの仕組み(Image:Lockheed Martin)

     アメリカ陸軍ではM1エイブラムス戦車用の「トロフィー」、ストライカー装甲車用の「アイアン・カーテン」、M2ブラッドレー歩兵戦闘車用の「アイアン・フィスト」という3種類を構想していましたが、MAPSは組み換え可能なモジュラーシステムを採用しており、共通に使用することができます。もちろん、コンピュータシステムもオープンアーキテクチャを採用して、将来的な機能強化も容易になるよう配慮されています。

    MAPSはモジュラーシステムで幅広く適合可能(Image:Lockheed Martin)

     ロッキード・マーティンでこの計画を統括するデビッド・ローホール氏は「ロッキード・マーティンは2014年から、アメリカ陸軍と協力してMAPSの開発に取り組んでいます。以来、MAPSの基本キットは複数回の実射試験において、信頼性を示してきました。私たちは様々な戦闘車両への適用試験をサポートする準備ができていますし、陸軍が実戦化する判断を下す最終段階になったと認識しています」とのコメントを発表しています。

    試験で取り付けられたMAPSのユニット(Image:U.S.Army)
    試験で取り付けられたMAPSのユニット(Image:U.S.Army)

     これまでMAPSは15回の実証試験を実施し、すべて回避に成功しているとのこと。現代の戦場では大規模な戦車戦の機会は少なく、歩兵や民兵を相手にした非対称戦闘が多くなっており、歩兵が使用する対戦車兵器から装甲戦闘車両の乗員を防護するこの種のシステムは、今後各国で採用が進むものとみられます。

    <出典・引用>
    ロッキード・マーティン ニュースリリース
    Image:U.S.Army/Lockheed Martin

    (咲村珠樹)

    あわせて読みたい関連記事
  • LR-PGKの飛翔イメージ(画像:BAEシステムズ)
    宇宙・航空

    射程距離は「大和」主砲の1.6倍 BAEシステムズ長射程精密誘導砲弾キット実射試…

  • スイス空軍の次期戦闘機に採用されたF-35A(Image:スイス連邦防衛・国民保護・スポーツ省)
    宇宙・航空

    スイス空軍次期戦闘機にF-35Aを36機調達 ペトリオット対空ミサイルも5セット…

  • ケープカナベラル宇宙軍基地から打ち上げられるGPS IIIの5号機(Image:SpaceX)
    宇宙・航空

    測位精度が3倍に向上 次世代GPS衛星「GPS III」5号機の打ち上げ成功

  • アルテミス計画での宇宙飛行士と月面車の想像図(Image:GM/Lockheed Martin)
    宇宙・航空

    GMとロッキード・マーティン NASA「アルテミス計画」用の月面車を共同開発

  • 弾道ミサイル警戒衛星「SBIRS GEO-5」の打ち上げ(Image:ULA)
    宇宙・航空

    アメリカの弾道ミサイル警戒衛星「SBIRS GEO-5」打ち上げ成功

  • KF-21「ポラメ(若鷹)」完成披露式典での韓国・文在寅大統領(Image:KAI)
    宇宙・航空

    韓国の国産戦闘機KF-21「ポラメ」試作1号機をお披露目

  • F-35A1号機の前に立つデンマーク空軍パイロットら(Image:Lockheed Martin)
    宇宙・航空

    デンマーク空軍がF-35Aの1号機を受領 非公式の愛称は「パンサー」

  • 初飛行で離陸するデンマーク向けF-35Aの1号機(Image:Lockheed Martin)
    宇宙・航空

    デンマーク空軍向けF-35Aの1号機が初飛行

  • NECのAI技術が開発に使われるNASA「オリオン」宇宙船(Image:NASA)
    宇宙・航空

    NECのAI技術がNASAオリオン宇宙船開発へ ロッキード・マーティンと合意

  • フォート・ドラムで第10山岳師団の将兵と家族を前にスピーチするペンス副大統領(Image:The White House)
    宇宙・航空

    ペンス副大統領 アメリカ陸軍山岳部隊で退任前最後のスピーチ

  • おたくま編集部Editor

    記事一覧

    おたくま経済新聞・編集部による監修or執筆

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • 毛玉とるとる Pro(KC-NW825)
    商品・物販, 経済

    ストッキングやタイツも可の毛玉取り器誕生 マクセルイズミ「毛玉とるとる Pro」…

  • キヤノンの名機が「ガシャポン」で復活 歴代カメラ5種を精密ミニチュア化
    商品・物販, 経済

    キヤノンの名機が「ガシャポン」で復活 歴代カメラ5種を精密ミニチュア化

  • 時事通信、男性カメラマンを厳重注意 生配信中に「支持率下げてやる」発言
    社会, 経済

    時事通信、男性カメラマンを厳重注意 生配信中に「支持率下げてやる」発言

  • ゴロっとチキンのカレーナポ
    商品・物販, 経済

    パンチョ初の人気投票1位「カレーナポ」が進化 期間限定で復刻登場

  • 山崎賢人さんと坂口憲二さん(※山崎賢人さんの崎の字は正しくは「たつさき」です)
    イベント・キャンペーン, 経済

    サントリー生ビール新CMメイキング公開 山崎賢人ら“生ひげ”姿で掛け合い

  • なか卯に「黒トリュフ薫る きのこ親子丼」が期間限定で発売
    商品・物販, 経済

    なか卯に「黒トリュフ薫る きのこ親子丼」が期間限定で発売

  • トピックス

    1. 丸山製麺が「ラーメン大好き小泉さん」とコラボ!小麦麺使用の新感覚「らーめん缶」を実食

      丸山製麺が「ラーメン大好き小泉さん」とコラボ!小麦麺使用の新感覚「らーめん缶」を実食

      丸山製麺が10月6日から、人気ラーメン漫画「ラーメン大好き小泉さん」とコラボした「らーめん缶」を、東…
    2. これでもう怒られずにすむ? 息子が作った「ママの攻略本」の実力は

      これでもう怒られずにすむ? 息子が作った「ママの攻略本」の実力は

      親に怒られてしまった子どもが、その後に取る態度はさまざまです。落ち込む子もいれば、しっかり反省する子…
    3. 警告ポップアップで強引に広告誘導 悪質業者が仕掛ける正規サービスを悪用した罠

      警告ポップアップで強引に広告誘導 悪質業者が仕掛ける正規サービスを悪用した罠

      インターネットを使っていると、ふとした瞬間に現れる「警告ポップアップ」。 近ごろでは「サポート詐欺」…

    編集部おすすめ

    1. 毛玉とるとる Pro(KC-NW825)

      ストッキングやタイツも可の毛玉取り器誕生 マクセルイズミ「毛玉とるとる Pro」を発売

      マクセルイズミ株式会社は、ストッキングやタイツなどの繊細な衣類にも対応する毛玉取り器の新モデル、「毛玉とるとる Pro(KC-NW825)」…
    2. キヤノンの名機が「ガシャポン」で復活 歴代カメラ5種を精密ミニチュア化

      キヤノンの名機が「ガシャポン」で復活 歴代カメラ5種を精密ミニチュア化

      キヤノンが、バンダイの「ガシャポン」とコラボレーション。歴代のカメラとレンズをミニチュア化した「Canon ミニチュアカメラコレクション」を…
    3. 時事通信、男性カメラマンを厳重注意 生配信中に「支持率下げてやる」発言

      時事通信、男性カメラマンを厳重注意 生配信中に「支持率下げてやる」発言

      時事通信社は10月9日、自民党本部での取材中に「支持率下げてやる」などと発言した本社映像センター写真部の男性カメラマンを厳重注意したと発表し…
    4. 「ちいかわの世界に行きたい」ファン、考えた末に鎧さん化 再現度がガチすぎた

      「ちいかわの世界に行きたい」ファン、考えた末に鎧さん化 再現度がガチすぎた

      言わずと知れた人気コンテンツ「ちいかわ」。かわいくもハードなあの作品世界に入っていきたいと願う人は多いはず。筆者もその1人です。しかし二頭身…
    5. ネカフェの個室に不気味なトランプが……Xユーザーの“恐怖体験”に17万いいね

      ネカフェの個室に不気味なトランプが……Xユーザーの“恐怖体験”に17万いいね

      キーボードに差し込まれたトランプのジョーカーと、その裏に書かれた「げぇむすたあと」の文字。Xユーザーの「たーけ」さんが、たまたま入ったネット…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト