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射程距離は「大和」主砲の1.6倍 BAEシステムズ長射程精密誘導砲弾キット実射試験に成功

 BAEシステムズは2022年10月10日(現地時間)、同社の砲弾用長射程精密誘導キット(LR-PGK)がアメリカ陸軍が開発中の拡張射程カノン砲(ERCA)での実射試験に成功したと発表しました。キットの構造が実射に耐えうることを実証し、野砲の命中精度を飛躍的に向上させる道につながる成果としています。

  •  今回、アリゾナ州のユマ試験場で行われた砲弾用長射程精密誘導キット(LR-PGK)は、既存の155mm砲弾に対電波障害性を有するGPSセンサーと飛翔中の弾道を制御する動翼を取り付け、無誘導の野砲による精密射撃を実現させるもの。

     野砲による射撃は、風向きや風の強さなど気象条件に左右されやすく、1発目から狙ったところに命中させるのは非常に困難。目標が長距離であればあるほど難易度は増していき、従来であれば弾着観測をもとに照準を調整し、射撃を重ねて弾着する有効範囲(散布界)を目標に重ねていく必要がありました。

     これを初弾から目標を有効範囲内に捉えられるようにしよう、というのがLR-PGK。専用の精密誘導砲弾ではなく、既存の砲弾に後付け可能な構造とすることで、より手軽に野砲で精密射撃を可能にするキットです。

     アメリカ陸軍では、現在使用している155mmりゅう弾砲M777などより長射程化した野砲、ERCA(拡張射程カノン砲)の開発を進めています。計画では最大有効射程70kmで、東京から発射すると横浜を大きく飛び越え大磯付近に着弾するくらい。戦艦大和の46cm主砲(約42km)と比較すると約1.6倍の距離です。

     それだけの長射程を実現するには、砲弾にラムジェットエンジンを取り付け自力で飛行させる方式もありますが、より多くの発射薬を使って高初速化する方法もあります。LR-PGKは既存の砲弾を有効活用するキットなので、より多くの発射薬で高圧になる砲身圧力、より高い砲口初速度に耐えることが必要。

     火薬による高圧・高温のガスに耐え、より高い速度で発射されてもキットが壊れないかが、今回の試験目的でした。BAEシステムズでLR-PGKプログラム・ディレクターを務めるジェームズ・マクドナウ氏は、試験成功を受け次のようにコメントしています。

     「LR-PGKは最大70kmまで正確な射撃を行い、アメリカ陸軍がより少ない弾数で作戦目標を達成できるよう支援する能力が実証されました。標準的な砲弾に精密誘導能力を付加することで、より効率的に相手との戦闘を進め、流れ弾による被害を少なくすることができます」

     試験が成功したことにより、今後は砲弾が飛翔中にGPSの信号を受信し、正確に弾道を制御できるかに開発の焦点が移ります。このLR-PGKは既存の砲弾を有効活用できるため、より少ないコストで精密誘導砲弾を実現できる有力な選択肢となることでしょう。

    情報提供:BAEシステムズ

    (咲村珠樹)

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