イギリス海軍の潜水艦用魚雷、スピアフィッシュの最新型「スピアフィッシュmod.1」が、スコットランド沖での試験を終え、戦力化へ一歩前進しました。2020年9月15日(現地時間)にイギリス海軍が発表したところによると、フリゲートのサザーランドを仮想標的にして4日間実施された試験で、所定の性能が発揮されたとのことです。

 現在、イギリス海軍の潜水艦で運用されているスピアフィッシュは、1990年代初めに就役したもの。弾頭の威力は、水上艦やヘリコプターで運用されている短魚雷スティングレイの約6倍という強力なもので、目標の直下で炸裂すれば、その衝撃波(バブルパルス)でフリゲートや駆逐艦などの竜骨(船の背骨にあたる構成部品)を1発で破壊することが可能だといいます。

 しかしスピアフィッシュも就役から30年が経過し、その間の技術的発展を考慮すると、能力の近代化が求められていました。イギリス海軍は2億7000万ポンド(約366億6500万円)を費やし、スピアフィッシュの近代化に着手。弾頭や推進システム、誘導システムのアップグレードを図りました。

 メーカーであるBAEシステムズは、およそ100人体制のチームで作業に従事。6年近くをかけて弾頭の高性能化、より安全性の高い燃料システム(現行のオットー燃料IIはアメリカ環境保護庁により毒物に指定されており、海洋汚染物質となる)、魚雷本体のコンピュータシステム、そして光ファイバー式の有線誘導システム開発を行いました。

 今回、スコットランドのスカイ島とイギリス本土(ブリテン島)の海峡部で実施された試験は、フリゲートのサザーランドが発射されたスピアフィッシュmod.1を探知し、回避することができるかというもの。魚雷がいかに目標から探知されにくく、回避が難しいかを確認するのが目的で、今回は潜水艦ではなく水上の船舶から発射されます。

 もちろん、実際にサザーランドを「撃沈」してはいけないので、試験用魚雷の弾頭は無力化され、さらに衝突の危険がないよう魚雷の航走深度も深く設定されており、試験終了後には回収されます。しかしサザーランドの乗組員は、通常の対潜水艦戦闘と同じく、真剣に魚雷の探知と回避行動を実施します。

 試験に参加したサザーランドのマシュー・ブラウン1等水兵は「今回の試験では、ハイレベルの訓練で培った技能を実際に使用し、様々なセンサーを活用して魚雷の探知、追跡を実施しました。世界最高レベルの性能と威力を持つ魚雷を相手にするのは、非常にプレッシャーのかかるものでした」と振り返っています。

 また、サザーランドの兵器エンジニアリング担当士官、デビッド・ティンズレイ少佐は「サザーランドがスピアフィッシュの試験に協力するのは初めてではありませんが、世界レベルの兵器を実用化するという大きな防衛計画に対し、微力ながら貢献できることを嬉しく思います。軍や企業の幅広いパートナーが協力し、効果的な試験を実施することで、いずれイギリス海軍に刺激的な能力を新たにもたらすことでしょう」と語り、スピアフィッシュmod.1に期待している様子をうかがわせます。

 スピアフィッシュmod.1の試験は、2020年中に再度イギリス水面下試験開発センター(BUTEC)によって実施され、最終的な評価が行われます。順調ならば今後3年ほどでスピアフィッシュmod.1は戦力化され、2050年代まで運用される予定です。

<出典・引用>
イギリス海軍 ニュースリリース
Image:Crown Copyright/BAE Systems

(咲村珠樹)