おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

NECのAI技術がNASAオリオン宇宙船開発へ ロッキード・マーティンと合意

 NECとロッキード・マーティンは、宇宙船開発にNECのAI技術「インバリアント分析技術」を本格導入することで合意したと2021年3月2日(アメリカ時間3月1日)に発表しました。この技術はNASAのアルテミス計画に使用される宇宙船「オリオン」をはじめ、様々な宇宙船におけるプロダクトライフサイクルに活用されるとのことです。

  •  今回、ロッキード・マーティンの宇宙船開発に活用されることになった「インバリアント分析技術」は、NECのAI技術群「NEC the WISE」の1つ。

     大規模・複雑なシステムに設置された多数のセンサから大量の時系列データを収集・分析し、通常時に存在するセンサ間の不変的な関係性(インバリアント)をモデル化し、ここから予測されるデータの変化(いつもの状態)と実際のデータを比較することで、異常(いつもと違う状態)を予兆の段階で検出するというものです。

     ロッキード・マーティンは、NECの「インバリアント分析技術」を航空宇宙分野に活用するべく、2017年12月に合意していました。今回はそれを有人宇宙船開発にも拡大するということになります。

    オリオン宇宙船(Image:Lockheed Martin)

     宇宙へは簡単に行くことができません。このため、有人宇宙船で致命的な不具合があった場合、対処・修復は搭乗した宇宙飛行士の手にゆだねられることになり、しかも工具や材料は宇宙船内にあるものに限られます。修復が不可能で地球へ帰還できなければ、乗っている人命が失われてしまうのです。

     大きな不具合は突然発生するものではなく、事前にいくつかの「小さな異常」が予兆としてあることが知られています。人間が気づかないレベルの小さな異常をAIによって発見し、予兆の段階で適切に対処することで、開発・製造段階で致命的な不具合の原因を予防しようという訳です。

     ロッキード・マーティンとNECのチームは、宇宙船の初期製造試験と運用シナリオで「インバリアント分析技術」の有効性を検証。その結果、ロッキード・マーティンのデータ分析システム「T-TAURI」に統合し、宇宙船の設計、開発、製造、および試験段階におけるシステムの異常を予兆の段階で検知することに活用することにしたといいます。

    オリオン宇宙船の試験をするロッキード・マーティンの技術者(Image:Lockheed Martin)

     これにより開発チームは、システムの徹底的かつ包括的な理解に加え、将来的には実際の部品などをバーチャルな環境で試験する「デジタルツイン」などの高度な基盤システムも構築できるようになるとのこと。より迅速に、宇宙船製造時における異常検知とソフトウェア確認試験が実現可能になります。

     この第1弾として、インバリアント分析技術を統合したT-TAURIを使用し、アルテミス計画の宇宙船「オリオン」における試験で生成された大量のデータを分析。具体的には約15万個のセンサーのデータから、4時間以内に220億以上の論理的な関係性を抽出し、通常動作のモデルを構築したといいます。

     ロッキード・マーティンの宇宙部門、ロッキード・マーティン・スペースのリック・アンブローズ上級副社長は「AIの力はロッキード・マーティン全体で活用されており、NECのような信頼できるパートナーと協力し、業務全体にAIを大規模に活用できる環境を構築しています。テレメトリーのデータをAIで積極的に分析することにより、システムの流れはさらに高速化し、従業員が日々行う作業を合理化できます」とのコメントを発表しています。

     NECの取締役執行役員常務兼CTO(チーフテクノロジーオフィサー)、西原基夫氏は「NECが開発した革新的なインバリアント分析技術が、パートナーであるロッキード・マーティンが挑戦している深宇宙の探索に価値を提供できることを嬉しく思います。両社による継続的なパートナーシップを通じて、NECはソリューションを強化するとともに、将来的には本技術の新たな適用先を見つけることができると信じています」とのコメントを発表しました。

    オリオン宇宙船のフェアリング分離試験(Image:Lockheed Martin)

     今後、ロッキード・マーティンでは「オリオン」宇宙船の開発におけるすべての試験を監視し、予想される動作と実際に起きた異常動作を比較して原因の分析に活用するとのこと。AIを活用することで、少人数でもシステム全体の試験で詳細な分析が可能になり、開発速度が向上することが予想されます。

    <出典・引用>
    NEC プレスリリース
    ロッキード・マーティン プレスリリース
    Image:NASA/Lockheed Martin

    (咲村珠樹)

    あわせて読みたい関連記事
  • 新しい月面用宇宙服「AxEMU」(画像:アクシオム・スペース)
    宇宙・航空

    NASAの新しい月面用宇宙服お披露目 民間企業が開発

  • 記者会見で笑顔を見せる米田あゆさん(YouTubeライブ配信映像より)
    宇宙・航空

    記者からのプライベートな質問を断った宇宙飛行士候補の米田あゆさん その優れた資質…

  • 国際宇宙ステーションから見たスターライナー(画像:NASA)
    宇宙・航空

    ボーイングの有人宇宙船「スターライナー」無人飛行試験から無事帰還

  • ロケット組み立て棟でのスターライナー(画像:NASA)
    宇宙・航空

    NASA 宇宙船「スターライナー」打ち上げ試験でSNSバーチャルイベント開催

  • 国際宇宙ステーション(画像:NASA)
    宇宙・航空

    国際宇宙ステーションで新しい通信回線運用開始 レーザー通信の衛星網を経由

  • 国際宇宙ステーションにドッキングしたクルードラゴン(画像:NASA)
    宇宙・航空

    NASAが受け入れる2番目の宇宙旅行フライトが決定 搭乗者はTV番組で募集

  • NASAの2021年宇宙飛行士候補生の10名(画像:NASA)
    宇宙・航空

    NASAに新しい宇宙飛行士候補生10名が誕生 2022年1月より訓練開始

  • ロシアの新しい結合モジュール「プリチャル」の打ち上げ(画像:ロスコスモス)
    宇宙・航空

    国際宇宙ステーションのロシア新結合モジュール「プリチャル」打ち上げ成功

  • NASAが試験に使用するJobyのeVTOL(Image:Joby Aviation)
    宇宙・航空

    NASAが「空飛ぶクルマ」の実証実験をカリフォルニアで開始

  • スイス空軍の次期戦闘機に採用されたF-35A(Image:スイス連邦防衛・国民保護・スポーツ省)
    宇宙・航空

    スイス空軍次期戦闘機にF-35Aを36機調達 ペトリオット対空ミサイルも5セット…

  • おたくま編集部Editor

    記事一覧

    おたくま経済新聞・編集部による監修or執筆

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • 新商品「うまかっちゃん<濃厚新味 あごだしとんこつ>」
    商品・物販, 経済

    焼きあごの香ばしさと細カタ麺の共演 「うまかっちゃん<濃厚新味 あごだしとんこつ…

  • 北海道産のチーズを2種類使った秋冬限定フレーバー「かっぱえびせん 北海道Wチーズ味」
    商品・物販, 経済

    北海道産チーズのW使い!「かっぱえびせん 北海道Wチーズ味」がこの秋登場

  • クリスプ のりしおバター味
    商品・物販, 経済

    カルビー、「クリスプ のりしおバター味」発売 レアな“ホシ型クリスプ”も登場

  • 特別災害対策本部車(国土交通省)
    社会, 経済

    消防車も自衛隊車もNERVも! 防災車両がずらり「ぼうさいモーターショー2025…

  • ウィキペディアのページビュー
    インターネット, サービス・テクノロジー

    AI時代でウィキペディア苦境 人間の閲覧数8%減、財団が警鐘

  • ChatGPTが“全年齢対応AI”を卒業? アルトマン氏が語った「成人向けエロティカ解禁」方針
    インターネット, サービス・テクノロジー

    ChatGPTが“全年齢対応AI”を卒業? アルトマン氏が語った「成人向けエロテ…

  • トピックス

    1. ガシャポンの魅力&世界観を全身で体感!「ガシャポンに超夢中展2025」内覧会レポ

      ガシャポンの魅力&世界観を全身で体感!「ガシャポンに超夢中展2025」内覧会レポ

      10月31日から11月2日までの3日間、池袋・サンシャインシティにて「ガシャポンに超夢中展2025」…
    2. 缶コーヒーの「#マーク」に隠された意味 コカ・コーラ社に聞いた“色が変わる理由”

      缶コーヒーの「#マーク」に隠された意味 コカ・コーラ社に聞いた“色が変わる理由”

      徐々に寒さが増し、そろそろ温かい飲み物が恋しくなってくる季節。近ごろSNS上で、「ホットコーヒー缶に…
    3. イーロン・マスク氏、Xの不具合を報告 「フォローしている人の投稿が少ない」原因はバグだった

      イーロン・マスク氏、Xの不具合を報告 「フォローしている人の投稿が少ない」原因はバグだった

      SNS「X(旧Twitter)」のオーナーであるイーロン・マスク氏が、日本時間10月27日深夜、自身…

    編集部おすすめ

    1. 集英社、生成AIによる権利侵害へ厳正対応を表明 Sora2公開後の「類似映像大量発生」を受け

      集英社、生成AIによる権利侵害へ厳正対応を表明 Sora2公開後の「類似映像大量発生」を受け

      集英社は10月31日、生成AIを利用した権利侵害への対応について声明を発表しました。今秋、OpenAI社の生成AIサービス「Sora2」が公…
    2. 菊水産業「お菊社長」なりすましに接触 ウザ絡みして目的を探ってみた

      菊水産業「お菊社長」なりすましに接触 ウザ絡みして目的を探ってみた

      10月14日、国産つまようじ製造を手掛ける「菊水産業株式会社」の公式Xアカウントが、同社代表取締役・末延秋恵さんのなりすましアカウントが出現…
    3. 職員室を自由に物色! 体験型展示「あの職員室」が11月15日より開催

      職員室を自由に物色! 体験型展示「あの職員室」が11月15日より開催

      株式会社チョコレイト(CHOCOLATE Inc.)は、あの頃入りたくても入れなかった職員室を体験できる展示企画「あの職員室」を、11月15…
    4. カービィのエアライダー、桜井政博こだわりの「酔い対策」が話題 アクセシビリティ配慮に称賛の声

      カービィのエアライダー、桜井政博こだわりの「酔い対策」が話題 アクセシビリティ配慮に称賛の声

      2025年10月23日22時より配信されたNintendo公式番組「カービィのエアライダー Direct 2」にて、ゲームクリエイター・桜井…
    5. 「なぜ誹謗中傷は起きたのか」 にじさんじ運営が加害者心理を公表

      「なぜ誹謗中傷は起きたのか」 にじさんじ運営が加害者心理を公表

      ANYCOLOR株式会社は10月22日、所属ライバーである甲斐田晴さんをめぐる極めて悪質な誹謗中傷・荒らし行為への対応結果を、加害者側の意識…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト