おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

よみがえる1980年代の青春 当時の雰囲気を映すホンダ車のジオラマたち

 オイルショックから立ち直り、戦後生まれの世代が主役になって様々な文化が花開いた1980年代。当時の若者たちのライフスタイルには車という存在があり、国内メーカーから数多くの名車が誕生しました。

 若者たちの人気を集めた1980年代のホンダ車をモチーフに、連作のジオラマを作ったのはモデラーのオムナオさん。作品について話をうかがいました。

  •  物心ついた時からプラモデルが好きだった、というオムナオさん。就職や結婚で一時期離れていたものの、お子さんが小学生になった2000年代前半に復帰し、活動を本格化させました。

     作るモデルは「自分が憧れて眺めていた1970年代~1980年代のカーモデルが中心です。若い頃の思い出や願望をジオラマにしています」とのこと。F1やラリーカーといった競技車両や、最近は1970年代のアメリカントラックに夢中だそうですが、作ったものはすべて「クルマのいる風景」にしているといいます。

     1980年代のホンダ車をモチーフにした「80年代青春もの」シリーズは、2015年~2016年にかけて作り、静岡ホビーショーにて初お披露目したという作品群。ホンダ車で統一した理由について、こんな風に語ってくれました。

     「私の家がホンダ党だったので、初代ライフや歴代シビックを乗り継いでおりました。ホンダのCM、特に80年代は洗練されていて強烈な印象があったんですね。憧れがタイヤ4本履いてアタマの中をぐるぐる走り回るもんですから、モケイにして目の前で愛でていたかったのです」

     2代目シビック(後期型)をフィーチャーした第1作「約束の日。」に続いて作られたのが、免許取り立ての初心者が主人公となった「路上のレコード」。路上駐車してレコードを買いに行っていた若者が車に帰ってくると、タイヤと路上に違法駐車取り締まりのサインがチョークで書かれていた……という作品です。

    路上のレコード(オムナオさん提供)

    違法駐車取締りのチョーク痕(オムナオさん提供)

     登場している車は、3代目のシビック(1983年~1987年)。「ワンダーシビック」のキャッチフレーズがつけられ、走りの面でも人気となったモデルです。路肩に散らばった、たばこの吸い殻もリアルですね。

    たばこの吸い殻や後席のクッションがリアル(オムナオさん提供)

     車をよく見てみると、後ろには初心者マークが掲示されているものの、前の方はダッシュボードにこっそり置いてあります。当時の若者には、初心者マークを付けて走っているのがカッコ悪い、という独特の価値観があったことを思い出させてくれます。後席にクッションが敷いてあるのも、1980年代の車あるあるでした。

    後ろには初心者マーク(オムナオさん提供)

    フロントはダッシュボードに(オムナオさん提供) 

     第3作「デニーズを出たら」は、1980年代に全国展開が本格化したファミリーレストラン(ファミレス)がモチーフ。車は「トールボーイ」というスタイルと、ユニークなダンスのCMで人気となった初代シティ(1981年~1986年)です。

    デニースを出て(オムナオさん提供)

    車は初代シティ(オムナオさん提供)

     ファミレスはドライブデートの食事で利用されるだけでなく、アルバイト先としても多くの若者に馴染み深いものでした。ジオラマは構図の広がりなどを考慮した結果、ありがちな四角形ではなく若干奥の方へ幅が広がっているのがポイント。

    ジオラマベースは微妙に不定形(オムナオさん提供)

     2016年の静岡ホビーショーで初お披露目となった「歩道橋」は、シリーズ第4作。歩道橋下で待ち合わせる男女がモチーフとなっており、車と2体の人物フィギュア、歩道橋が立体的な関係を作る作品です。

    歩道橋(オムナオさん提供)

     車は、大きなパワーバルジと大型フェンダー(ダイナミックフェンダー)で、マッシブなスタイリングとなったシティ・ターボII(1983年~1986年)。「ブルドッグ」のコピーがつけられた、ボーイズレーサーの代表選手ともいえるインタークーラー付きターボモデルです。

    車はシティ・ターボII(オムナオさん提供)

     途中まで再現された歩道橋は、ジオラマベースの寸法でスッパリ切り落とすのではなく、見た時の視線を考慮して左右の手すりや階段部分が微妙に長さと角度を変えて切り取られています。立体感のある構図ですから、ジオラマの外まで空間が続いていることを意識させるようになっているのですね。

    待ち合わせる男女(オムナオさん提供)

     同じく2016年の静岡ホビーショーが初出展となった、第5作の「Dゾーン駐車場」。現在も盛況な千葉県浦安市にあるテーマパークをモチーフとした、2代目CR-X(1987年~1992年)が登場する作品です。

    Dゾーン駐車場(オムナオさん提供)

     このテーマパークは1983年にオープンし、まさに1980年代を代表するデートスポットの1つ。現在の最寄駅である、JR京葉線舞浜駅の開業が1988年12月ですから、当時は東京メトロ東西線の浦安駅からバスか、自家用車で来場するのが一般的でした。

    足元にはお土産の袋(オムナオさん提供)

    CR-XはホットモデルのSi(オムナオさん提供)

     ジオラマづくりにおいて、オムナオさんは「風景の切り取り方を大切にしている」と話します。ただ模型が配置されているだけでなく、実際の風景を見ているかのように感じさせるという姿勢は、歩道橋の切り取り方や、デニーズにおけるジオラマベースの形状が物語っているように感じます。

    「歩道橋」での切り取り例(オムナオさん提供)

     80年代青春ものシリーズでは「若かった頃はこうだったよな、こんな風にクルマがいたよな、と思い出しながらカタチにしていきました」とオムナオさん。この当時に青春時代を過ごした方ならば、我が事のように思えるかもしれません。

     このほかにも、様々なモチーフが「周期的にマイブームでやってくる」というオムナオさんの作品は、どれをとっても車と、それを扱う人の息遣いが感じられるものばかり。Twitterには過去作を含めて多くの作品が投稿されているので、当時を知る人知らない人、色々楽しむことができそうです。

    <記事化協力>
    オムナオさん(@32CM_NAOK)

    (咲村珠樹)

    あわせて読みたい関連記事
  • プラモデルの箱を突き破って抜錨!迫力たっぷりの「宇宙戦艦ヤマト」ジオラマ
    アニメ/マンガ, ニュース・話題

    プラモデルの箱を突き破って抜錨!迫力たっぷりの「宇宙戦艦ヤマト」ジオラマ

  • 「魔法みたい」額縁の中で走り続ける電車 精巧なジオラマに10万いいね
    インターネット, おもしろ

    「魔法みたい」額縁の中で走り続ける電車 精巧なジオラマに10万いいね

  • 文明崩壊後の景色に佇むカップヌードル Xで話題のジオラマが壮絶にエモい
    インターネット, おもしろ

    文明崩壊後の景色に佇むカップヌードル Xで話題のジオラマが壮絶にエモい

  • 家の中でザクとガンダムが戦闘?ガンプラが日常に溶け込む斬新発想のジオラマ
    アニメ/マンガ, ニュース・話題

    家の中でザクとガンダムが戦闘?ガンプラが日常に溶け込む斬新発想のジオラマ

  • 驚異のミニチュアジオラマ!消しゴムから現れた精巧で小さな世界
    インターネット, びっくり・驚き

    驚異のミニチュアジオラマ!消しゴムから現れた精巧で小さな世界

  • 室町時代にタイムスリップ?洛中洛外図から立体化した武家屋敷ジオラマがスゴイ
    インターネット, びっくり・驚き

    室町時代にタイムスリップ?洛中洛外図から立体化した武家屋敷ジオラマがスゴイ

  • 一階に何かが……!?巨大な手が迫る恐怖写真の正体は超リアルなミニチュア作品
    インターネット, びっくり・驚き

    一階に何かが……!?巨大な手が迫る恐怖写真の正体は超リアルなミニチュア作品

  • 思わず「あるある!」と共感 初代ポケモンでの行動をそのまま立体ジオラマ化
    ゲーム, ニュース・話題

    思わず「あるある!」と共感 初代ポケモンでやりがちな行動を立体ジオラマ化

  • 画像提供:HGS modelさん(@ModelHgs)
    インターネット, びっくり・驚き

    大迫力!工事現場の後ろから巨大なワンちゃんの顔!

  • 懐かしのあのゲームも?ずらりと並んだ手作りのテーブル筐体ミニチュアが圧巻
    ゲーム, ニュース・話題

    懐かしのあのゲームも?ミニチュアの「手作りテーブル筐体」ずらり

  • おたくま編集部Editor

    記事一覧

    おたくま経済新聞・編集部による監修or執筆

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • 民放連、アニメ作品の“そっくり映像”出回り懸念 生成AIに声明
    アニメ/マンガ, ニュース・話題

    民放連、アニメ作品の“そっくり映像”出回り懸念 生成AIに声明

  • 欧州連合の旗(写真ACより)
    インターネット, 社会・物議

    EU、ネット上での児童性被害対策を強化 日本企業にも影響広がる可能性

  • ホロアースNPCに「事件に関係した実在人物想起」と指摘 運営が謝罪し削除対応
    ゲーム, ニュース・話題

    ホロアースNPCに「事件に関係した実在人物想起」と指摘 運営が謝罪し削除対応

  • ロッテ「雪見だいふく」が立体パズル化 メガハウスが11月下旬に新商品
    商品・物販, 経済

    ロッテ「雪見だいふく」が立体パズル化 メガハウスが11月下旬に新商品

  • 100tハンマー
    アニメ/マンガ, イベント・キャンペーン

    伝説のコンビを追体験 40周年「シティーハンター大原画展」上野で12月28日まで…

  • 韓国発の人気激辛「ブルダック」がじゃがりこに 1年4か月かけた再現度に注目
    商品・物販, 経済

    韓国発の人気激辛「ブルダック」がじゃがりこに 1年4か月かけた再現度に注目

  • トピックス

    1. 善意の通報が“誤報”に変わるAI時代 女川町のクマ騒動が示した危険性

      善意の通報が“誤報”に変わるAI時代 女川町のクマ騒動が示した危険性

      宮城県女川町が11月26日、公式Xで発信した「クマ出没情報」が、後に「生成AIによるフェイク画像」に…
    2. 派手なピンクに「マヂでアゲ」……道端に突如現れた「ギャルすぎる工事看板」が話題

      派手なピンクに「マヂでアゲ」……道端に突如現れた「ギャルすぎる工事看板」が話題

      「とても茨城県」というつぶやきとともに、Xに投稿された一枚の写真。そこには、一般的な工事現場のイメー…
    3. この涙は懐かしさ……なのか? 展示「あの職員室」で特大感情を揺さぶられたレポート

      この涙は懐かしさ……なのか? 展示「あの職員室」で特大感情を揺さぶられたレポート

      学生時代、入りたくても入れない「聖域」のような場所だった職員室。その風景を再現し、自由に探索できる展…

    編集部おすすめ

    1. ホロアースNPCに「事件に関係した実在人物想起」と指摘 運営が謝罪し削除対応

      ホロアースNPCに「事件に関係した実在人物想起」と指摘 運営が謝罪し削除対応

      バーチャルタレント事務所「ホロライブプロダクション」を展開するカバー株式会社は公式Xにて11月25日、同社のバーチャル空間プロジェクト「ホロ…
    2. エビの代わりに「パイの実」投入!ロッテ公式が送るエビチリアレンジに目を疑う

      エビの代わりに「パイの実」投入!ロッテ公式が送るエビチリアレンジに目を疑う

      ロッテは自社商品の各ブランドサイトで、アレンジレシピを公開しています。その中に「パイの実」をエビチリソースと卵で炒め合わせた「チリ玉パイの実…
    3. 100tハンマー

      伝説のコンビを追体験 40周年「シティーハンター大原画展」上野で12月28日まで開催

      「シティーハンター」連載開始40周年を記念した原画展「シティーハンター大原画展~FOREVER, CITY HUNTER!!~」が、11月2…
    4. 宝塚・宙組特別メニューから“酢”消える 「酢が退団?」とSNSざわつく

      宝塚・宙組特別メニューから“酢”消える 「酢が退団?」とSNSざわつく

      11月22日午前、X(旧Twitter)のトレンドに「宙組公演特別メニュー」が一時浮上し、ファンの間で大きな話題となりました。きっかけとなっ…
    5. ミラノで開催「IQOS Curious X Sensorium Worlds」現地取材 五感に響いたIQOSの“世界観”

      ミラノで開催IQOS X SELETTI「Sensorium Worlds」現地取材 五感に響いたIQOSの“世界観”

      フィリップ モリスが、イタリアでイベント「Sensorium Worlds」を開催。今回は、この壮大なイベントの模様とともに「IQOS To…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト