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「数式に記された愛」で知的好奇心を満たす希代のエンターテイナー 両手タッピングギタリスト・出嶌達也が奏でる「カオス」

 様々な奏法が存在するギターの中で、ギタリストの出嶌達也さんが駆使するのは、ネック部分を使い両手の指で弦を叩くように演奏する「両手タッピング奏法」というもの。

 従来のものとは一線を画す特殊な手法は、音楽家に加え、技術者や小説家でもある自身のパーソナリティからきているといいます。異色のギタリストの経歴について話を聞きました。

  • ■ 音楽家・技術者・小説家と多彩な才能を発揮

     京都府出身の出嶌さんが、音楽の世界と本格的にかかわるようになったのは、自身が学生だった1981年。楽器メーカーのYAMAHAが主宰したコンテスト「Live on 88」にてグランプリを受賞し、「京都代表」として選ばれたのがきっかけでした。

     その後、1999年にポリスターよりメジャーデビュー。以降は独自の世界観を表現し続ける作曲家として活動。テレビ・ラジオのCMやファッションショーなどに楽曲を提供しています。ライブ活動も精力的に実施しており、「数式に記された愛」と題した音楽アートイベントも主催。

    小説のタイトルにもなっている「数式に記された愛」イベントの様子。

     「愛の大切さを伝えていくこと」を活動目的とした出嶌さんにとっての「ライフワーク」は、力学系における「カオス理論」から導かれる数式を音によって表現するという、サイエンス性が高く、それでいて親しみやすく知的好奇心をくすぐるエンターテインメントとなっています。イベント当日は、出嶌さんのライブ演奏に加えて、カオスから生まれる数式に対するプレゼンテーションが開かれるそう。

     2009年の初演以来、時には企業研修という形式でも開催され、これまでイベント内で演奏した曲は、アルバムとして2016年にダウンロード販売しています。

     一方、出嶌さんは作曲家以外の「顔」も持つ人物。京都府内の高等専門学校を卒業後はそのまま山梨大学に編入し、大学卒業後は、パナソニック株式会社(当時は松下電器)やカシオ計算機株式会社に在籍しました。そこでは主に研究開発を担い、のべ300件以上の発明の譲渡に関わった技術者として従事しています。

     さらに小説家の顔も持つという出嶌さん。2020年に、みらいパブリッシングより処女作となる書籍が刊行されました。

     こちらのタイトルもまた「数式に記された愛」。出嶌さんにとってのキーフレーズともいえますが、それは万物の創生から生じるカオス(混沌)により、見出された「数式」から表現しているものといいます。

    ■ 日本でも珍しい「完全左右両手タッピングギタリスト」

     先述の通り、京都府内にある高等専門学校を卒業した出嶌さん。実はそこで「両手タッピング奏法」に出会いました。

     通常、エディ・ヴァン・ヘイレンらが披露するタッピング(ライトハンド)奏法は片手の指で弦を叩くように音を出し、もう一方の手は指でフレットを押さえてフレーズを生み出していますが、両手タッピングはどちらの手でも弦を叩いて演奏します。

     「高専の先輩が、それでギターを演奏していたのを見たのがはじまりでした。『音楽』というよりは、UFOが現れるときのような『効果音』が第一印象でしたね」

     ちなみに、このタイミングで出嶌さんは作曲活動を開始。音楽とともにある生活がここからスタートしました。その時「ツール」としての利便性もあり、両手タッピング奏法も使って演奏することもあったそうですが、この時点ではそれ以上のことはなかったのだとか。

     転機が訪れたのは、そこから10年以上が経過した1988年のこと。アメリカのジャズギタリストであるスタンリー・ジョーダン(Stanley Jordan)が、両手タッピング奏法を用いたギターパフォーマンスを披露しているのを見て、自身のライブ活動にも取り入れることにしたといいます。なお、スタンリー・ジョーダンは、ギターにおける同奏法のパイオニアともいうべき存在。

     その名の通り、ネック部分で弦を叩いて音を出すタッピング奏法のうち、両手で弦を叩くのが「両手タッピング奏法」。弦がフレットに「衝突」し、生み出される豊かな「倍音(これも数式によって表すことが可能)」が最大の特徴です。

    弦がフレットに衝突するイメージで音を奏でる両手タッピング奏法。

    左右の手を完全独立して弾くスタイルは日本で唯一出嶌さんだけが実践しているテクニック。

     出嶌さんのHPやSNS(Twitter・YouTube)では、実際にタッピングをしながらギターを弾いている動画が公開されていますが、奏でるメロディは、普段よく耳にするものよりも、はっきりと「感知」ができ、音の「重なり」や「深み」が伝わってきます。

     音の周波数帯域においても、上は50kHzほどまで計測されるそうで、これはヒトの耳が認知可能な帯域(おおむね20kHzを上限とすることが多い)を遥かに超える高い数値となっています。

     「聴く人によっては、『暖かみ』まで感じ取れると言われていますね」と出嶌さん。ちなみに、両手タッピング奏法には、右手と左手をシーケンス(連続)させるものと、ピアノのように左右の手が全く異なる動きをさせる演奏法が存在しますが、後者にあたる「タッチ・テクニック」については、日本のギタリストでは非常に稀であり、出嶌さんが本格的にプレイしているテクニックとのこと。

     他にも、バイオリンの弓(ボウ)を使い、バイオリンのように弓と弦とを擦り合わせて音を奏でる「ボウイング奏法」なども駆使しているという出嶌さん。「表現者」としての多様なキャリアと、日本でも希少なテクニックから導かれる音色は、自身がこれまでの音楽生活で向き合ってきた「カオス」そのもの。

     聴衆の知的音楽好奇心を満たす唯一無二のエンターテイナーとして、今後は11月に、東京・名古屋・京都でライブを開催。さらに12月17日には、東京都渋谷にある「けやきホール」にて、2022年度の「数式に記された愛」が開かれます。

    <取材協力>
    出嶌達也さん(@TatsuyaDejima)

    (向山純平)

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