日本漫画史上屈指の名作で、ボクシング漫画の金字塔でもある「あしたのジョー」。2022年12月15日で、連載開始からちょうど55年を迎えました。

 同作といえば、拳キチ・丹下段平のもと、主人公・矢吹丈と盟友・マンモス西が日々研鑽を重ねた「丹下拳闘クラブ」でのシーンが印象的ですが、これを「情景王」の異名を持つ稀代のプロモデラーが、ジオラマで再現しました。

「タイミングが遅くなりましたが12月15日は『あしたのジョー』連載開始55周年だったとのこと。
2014年、練馬区立美術館の展覧会『あしたのジョー、の時代』展で依頼された拙作をば。
スケールを市販フィギュアに合わせた為、巨大な作品となりました(^-^) #あしたのジョー」

 Twitterで作品を公開したのは山田卓司さん。

 現在63歳の山田さんは、1980年に、自身の出生地でもある静岡県を拠点とする模型メーカー「TAMIYA」が開催した「タミヤ人形改造コンテスト」にて、金賞を受賞したのを皮切りに、かつてテレビ東京で放送された「TVチャンピオン」が開催した「全国プロモデラー選手権」では5度優勝。名声は国外にも及び、イギリスで開催された模型イベント「ユーロ・ミリテール」でも、情景部門で金賞を受賞しています。

 様々な作品を題材とする中で、山田さんの本領がもっとも発揮されるのが「ジオラマ」。さらに、昨今では「昭和レトロ」なる言葉で持て囃されるようになった「昭和」の一部分を切り取り、「情景」溢れるノスタルジックな作品作りを強みとしています。周囲は尊敬の念を込めて、著書のタイトルでもある「情景王」とも称されるなど、日本が世界に誇る稀代のプロモデラーです。

「昭和」の一部分を「情景」として切り抜く作品が山田さんの強み。

世界的にも高く評価され、「情景王」の異名を持ちます。

 さて、今回題材とした「あしたのジョー」もまた、東京・泪橋などで繰り広げられる「情景」が色濃く打ち出された作品です。その中でも、濃密な人間ドラマが繰り広げられた「丹下拳闘クラブ」が題材となりました。

あしたのジョー作中でも濃厚な人間ドラマが描かれた「丹下拳闘クラブ」。

 つぶやきにもある通り、本作は、2014年に東京都練馬区立美術館で開催されたあしたのジョーの展示会用に作られたもの。先方からの依頼を受けてのことですが、山田さんによると、それは題材が「丹下拳闘クラブ」であることも含めてとのこと。

 幼少期にリアルタイムで作品に触れていた山田さんですが、製作にあたり、改めて原作漫画を読みこみ、情報収集をした結果得た気づきも多くあったそうです。

 「以前より、ちばてつや先生※が、事前にボクシングジムなどを取材して執筆されていたとは聞いていましたが、実際、漫画の中のディティールに齟齬はなく、構造の理解は難しくありませんでした。ただ、『サイズ』には難儀しました」
※「ハリスの旋風」「おれは鉄兵」「あした天気になあれ」を代表作に持つ日本を代表する漫画家の一人。「あしたのジョー」では作画を担当。

 この「サイズ問題」に起因したのが、作中登場キャラの「フィギュア」。作品画像においても、玄関先でジョーを出迎える段平と西に、それを屋上でこっそり覗き込むサチが目を引きますが、これらは全て市販品とのこと。

フィギュアは市販品で対応したため、20分の1スケールサイズのジオラマとなりました。

 「本来ならばフィギュアを含めて自作すべきかもしれませんが、時間と手間を鑑みて市販品で対応しました。ただそうすることで、ジオラマサイズが『20分の1スケール』になり、通常私が製作するよりも巨大なものになりました」

 「まずは、現実の建築基準に照らし合わせながら設計し、そこから建物の構造や寸法の割り出しには手間取りました。大きな分、歪みや精度を抑えての製作には苦労しました」

 一方で、大型サイズになったからこそ、本作では、ジム内の構造や小物がより鮮明になっています。

ジム内の区割りや小物も精巧に再現。

大型サイズになったため、より鮮明となっています。

 それらは、どれをとってもファンが不意に脳内再生を引き起こすほどの精巧な作り。見方を変えれば、「情景王・山田卓司」の「情景王」たる所以の作品とも言えるかもしれません。

 「『テーブル』『ベンチ』『体重計』『リング』などは、特に作る手間がかかりました。でも楽しい作業でした」

 最後にそう振り返った山田さん。ちなみに本作は、山田さんの故郷・浜松市にある「浜松ジオラマファクトリー」に展示中。「山田卓司の世界」と名付けられたコーナーで、他作品とともに常時公開されています。

<記事化協力>
山田卓司さん(@xC8wqK00YYd1fRA)

(向山純平)