お笑いコンビ・アインシュタインの稲田直樹さんのInstagramが不正にログインされ、卑猥なやり取りが行われていたとされた問題で、警視庁は住所・職業不詳の32歳男性を不正アクセス禁止法違反の疑いで9月5日に逮捕しました。
これにより、稲田さん自身がファンに不適切なメッセージを送っていたわけではなかったことが明らかになり、長らく続いた疑惑はようやく解消されました。
■ 事件の流れ
複数の報道では、生年月日などからパスワードを推測し、2024年7月頃から稲田さんのInstagramに不正アクセスしていたと伝えられています。
また、ネット上に残る一連の記録を振り返ると、不正アクセスが行われていた時期、稲田さんのアカウントからは一般女性に対し番組の企画と偽って「別のアカウント」へ誘導するメッセージが送られていました。誘導先のアカウントでは、卑猥な画像を求めるやり取りが行われていたとされています。
その後、女性は登録者200万人を超える暴露系YouTuberのコレコレさんに相談しました。2024年7月、コレコレさんが配信でこの件を取り上げたことにより、SNS上で急速に拡散。さらに、290万人以上のフォロワーを抱えるインフルエンサーの滝沢ガレソさんも拡散に加わり、疑惑は一層広がっていきました。
そして2025年9月5日、警察が男性を逮捕。
稲田さんは自身の公式Xを通じて「今回の件はセキュリティ管理を十分にできていなかったことも原因のひとつだと感じています。その為、色んな方に被害が及んでご迷惑をお掛けしてしまいました。そして沢山の方に不安な思いをさせてしまった事を本当に申し訳ないと思っております」と謝罪。長い疑惑の末、ようやく潔白が明らかになりました。
一方、コレコレさんは、自身のXで謝罪。さらに今回の出来事と直接関係があるのかは不明ですが、「警察から連絡が来ました。解決するまでしばらくSNS活動を自粛します」とし、活動停止を宣言しました。滝沢ガレソさんも自身のXで謝罪コメントを発表しています。
■ “暴露”がつくった誤解
最初に疑惑を提示したコレコレさんは、「謹んでお詫び申し上げます」と謝罪しましたが、「当時、乗っとり犯か本人か分からないと言いつつ内心は『本人だろ』」と思っていたと説明しており、当時の「本人だろ」という思い込みに端を発した一連の行動は、そのまま“稲田=卑猥DM”というイメージを作り出しました。
さらに滝沢ガレソさんも今回の謝罪の中で、「正直に申し上げると滝沢個人は、乗っ取り犯などおらず稲田さんが咄嗟の言い訳にウソをついていると思っていました」と説明しているとおり、「ウソをついている」と本心では受け止め情報を拡散していたことから、真相が明らかになる前に、疑惑は“もっともらしい事実らしさ”をまとって広がってしまったのです。
事実、滝沢さんは当時一連の騒動を拡散する中で、2024年8月1日に投稿した「【続報】」と題した投稿の中で「アインシュタイン稲田さん、安定と信頼の“アカウント乗っ取られ”を主張」など、茶化しつつもさも本人から送ったメッセージのように後押しする投稿を行っていました。
しかし、冷静に考えれば、稲田さん本人が公式アカウントから、番組の企画とはいえわざわざ別のアカウントへと誘導してやり取りする必然性は低く、この時点で「乗っ取りの可能性」を疑うべきでした。
もし「万一」を考え、冷静に行動していれば、稲田さんに対する誤解がここまで拡大することはなかったはずです。「クリーンなイメージを持つ有名芸人が、裏では卑猥な画像を求めるDMを送っている」という表層だけを鵜呑みにし、その裏に潜む事実を検証しなかったことは、極めて重大な責任を伴います。
■ なぜ誤った判断に至ったのか――働いていた“バイアス”
今回のコレコレさんや、滝沢さん、そしてそれを見た視聴者やフォロワーの判断には、いくつかの心理的なバイアスが作用していたと考えられます。
―「有名人の裏の顔」バイアス―
「誠実」というイメージのある芸人が「裏で卑猥DMを送っていた」という構図は人々の好奇心を強く刺激し、検証よりも“物語の面白さ”に引き寄せられた。
―「前例」バイアス―
過去に有名人が「乗っ取り」を言い訳にした事例があり、「またか」と疑いを先行させる土壌があった。
―センセーショナル優先のバイアス―
注目を集めること自体が活動の基盤である発信者にとって、“本人だろう”という物語は魅力的で、確証がない段階でも発信を後押しした。
―群衆心理のバイアス―
SNS全体が疑惑を面白がる空気に包まれ、「本人無実の可能性」よりも「本人クロ説」のほうが共感を得やすい状況があった。
これらのバイアスが重なった結果、関わった人たちは「もし万一」を見落とし、誤った方向へ走ってしまったのです。その代償は、ひとりの芸人の名誉を大きく損なう形で現れました。
■ 謝罪はあっても傷は残る
容疑者が逮捕され、発信者側も謝罪しました。しかし一度広まった情報は完全に消すことが難しく、稲田さんの名誉や信頼に影を落とし続けます。
コレコレさんは、今回釈明の中で、「Q.コレコレは嘘情報を拡散した、名誉毀損だ」という質問に対し、「嘘の情報は一切なく『事実しか』公開していません」と主張しています。
しかし「事実しか公開していなかった」としても、その切り取り方や提示の仕方次第で「本人が卑猥画像を求めるDMを送った」という印象を生み出し、社会的評価を低下させる結果となったのは紛れもない事実です。これは法的にも名誉毀損にあたる可能性が高く、「嘘を言っていない」という理由で責任を免れることはできません。
疑惑が誤解と判明しても「名前と一緒に検索すれば出てくる」現実は残り、傷は簡単には癒えないのです。
■ 暴露文化が突きつける課題
今回の一件で浮き彫りになったのは、SNSの速さと司法の遅れとのギャップです。警察の捜査には時間を要しますが、その間にネット上では「疑惑」が独り歩きし、人のイメージや評判を大きく揺さぶっていきます。
暴露や拡散が必ずしも悪意から出発するわけではありません。それでも結果的には、ひとりの人生を左右してしまう力を持っています。SNSは便利で楽しい場である反面、疑惑や憶測が事実を追い越して広がる危うさを常に抱えています。
今回の事件は、暴露文化の強い影響力と、その裏に潜むリスクを改めて示す出来事となりました。
■ 「疑惑を広める前に」
有名人だけでなく、私たち一人ひとりもSNSで名前を挙げられる可能性があります。だからこそ「この情報は本当に正しいのか」と立ち止まる視点が必要です。暴露や批判が全て悪いというわけではありませんが、その一言が誰かを深く傷つける力を持つことを忘れてはいけません。
稲田さんの潔白が証明された今、改めて考えたいのは「暴露文化」とどう向き合うか。今回の出来事は、SNS社会に生きる私たちに静かに問いかけているように思えます。
— アインシュタイン 稲田 (@tosakomainada) September 5, 2025
<参考・引用>
アインシュタイン稲田さんXアカウント(@tosakomainada)
コレコレさんXアカウント(@korekore19)
滝沢ガレソさんXアカウント(@tkzwgrs)
(宮崎美和子)