「うちの本棚」今回ご紹介するのはコミカライズ作品で知られるひおあきらのオリジナル作品『サイレン戦記』です。宇宙のどこかにある水の惑星「サイレン」で繰り広げられる侵略と抵抗。それはあたかも地球の歴史をなぞっているようです。

宇宙のどこかにある、広大な海を持つ惑星サイレン。いまそこに500年の時をかけてたどり着いた開拓移民船があった。


しかしその船に乗るものはサイレンに住む人々と手を取り合うことを望むのではなく、侵略と征服を始めたのだった。移民船の乗員…それは地球人だった。

ある程度の文明を持ちながらも、数多くの都市国家と人種に分裂し惑星全体としては統一されていないサイレン。それはある意味地球に似ているかもしれない。そして「アンティリア」と名乗る地球の開拓移民船(それはすでにひとつの国家として成り立っている)は、その巨体さゆえサイレンに降りたあとは再び宇宙に出ることはかなわず、ただただサイレン征服に突き進むのだった。

地球人を情け容赦のない侵略者として描いているのは、南米に於けるスペインの侵略をモデルのしたのだろうか。

圧倒的な武力で制圧していくアンティリアに抵抗するサイレンの都市国家は、しかしそれぞれが自分たちの勢力の拡大を企んだりエゴに満ちていたりもして統一はされない。

着想自体も面白いし、展開も悪くないのだが、残念なことに完全な完結を迎えずに終了してしまった。アンティリアの皇帝レオは最後に言う「このサイレン…、知れば知るほど面白い惑星だな…」。そう、それは読者にとってもその通りで、もう少しこの物語を読んでみたかった気がする。
 
ちなみに本書の奥付はカバーではなく巻末に記されている。すでに昭和50年代に入ってからはカバーに奥付が記されるようになっていたと記憶するので、本書は少し異例な印象だ。

書 名/サイレン戦記
著者名/ひおあきら
収録作品/サイレン戦記
発行所/朝日ソノラマ
初版発行日/昭和55年8月20日
シリーズ名/サンコミックス


【文:猫目ユウ】
フリーライター。ライターズ集団「涼風家[SUZUKAZE-YA]」の中心メンバー。
『ニューハーフという生き方』『AV女優の裏(共著)』などの単行本あり。
女性向けのセックス情報誌やレディースコミックを中心に「GON!」等のサブカルチャー誌にも執筆。ヲタクな記事は「comic GON!」に掲載していたほか、ブログでも漫画や映画に関する記事を掲載中。