前回アップロード致しました記事「『天保異聞妖奇士』から『魔乳秘剣帖』まで 時代劇アニメ大全」の後半では、1840年代を舞台にしたテレビアニメ『天保異聞 妖奇士』『大江戸ロケット』では、西洋列強の東アジア進出に対抗した江戸幕府の老中と町奉行の描写を見ましたが、今回の「新作アニメ捜査網」はその続きとなります。
19世紀後半以降、欧米列強がアジアやアフリカを植民地支配する帝国主義の時代が訪れます。本稿では、主に帝国主義の時代を描いたアニメを眺めてみることにします。尚、本稿はアニメの中で描かれた時代背景を紹介するものであり、史実を論評するものではないことをご理解戴ければ幸いです。
以下は近現代を舞台にしたアニメを纏めたものです。表に掲載した全ての作品を本文中で取り上げる訳ではありませんが、流れを掴む意味でご覧ください。
1867年、江戸幕府最後の将軍・徳川慶喜は政権を朝廷に奉還しました。翌1868年には、薩摩・長州などから成る新政府軍と、江戸幕府を支持する勢力との間で戊辰戦争が勃発します。尚、江戸時代に薩摩を治めていた島津氏と長州を治めていた毛利氏はいずれも関ヶ原の戦いで西軍に就いた大名であります。
この戊辰戦争を描いたアニメが、2006年のインターネット配信アニメ『幕末機関説 いろはにほへと』と2010年に放送されたテレビアニメ『薄桜鬼』及び続篇『薄桜鬼 碧血録』です。
『いろはにほへと』では第10話「上野陥つ」で上野の戦い、第16話「同行四人」で会津の戦い(この戦いは再来年のNHK大河ドラマ『八重の桜』の題材でもあります)、第19話「赫逆の五芒星」で五稜郭の戦いが描かれ、『薄桜鬼 碧血録』では第14話「蹉跌の回廊」で甲州勝沼の戦い、第19話「天道の刃」で会津の戦い、第21話「雪割草の花咲きて」で五稜郭の戦いが描かれています。
結局、戊辰戦争は新政府軍の勝利に終わり、新政府は近代化を推し進めることになります。
新政府が進めた近代化の1つに旧暦(太陰太陽暦)から新暦(太陽暦、グレゴリオ暦)への改定があります。
2010年に放送されたテレビアニメ『おとめ妖怪ざくろ』では、新政府が、人間と同様に日本の住民であった妖怪の都合を無視して改暦を実施したことになっています。
2011年に放送されたテレビアニメ『異国迷路のクロワーゼ The Animation』は、舞台を19世紀後半の仏蘭西・巴里(公式ホームページに漢字で表記してある)とし、主人公である日本人少女・湯音(声・東山奈央)が奉公に行く物語です。
パリでは、湯音はフランスの食べ物や風習に戸惑い、同時にフランス人は日本の食べ物や風習に驚きます。ここで描かれているのは2つの異なる文化の出会いです。そして、日本人とフランス人がお互いの文化に接し、驚き戸惑いながらも互いの文化を尊重してゆく過程を描いているのです。グローバル社会と言われる現代においても、異なる文化への理解を深める心構えは大切であると言えましょう。
続いて、帝国主義全盛時代の大英帝国を描いた作品が2008年に放送されたテレビアニメ『黒執事』です。同番組は19世紀英国におけるビクトリア女王(在位・1837~1901年。本作で声を演じたのは川澄綾子)の治世を描いた作品であり、第22話「その執事、解消」では1889年のパリ万国博覧会が登場、この辺りの時代を主要な舞台にしています。
ビクトリア王朝時代は、大英帝国が最も栄華を極めた時代であり、『黒執事』の物語には、時代背景が色濃く反映されています。
第13話「その執事、居候」では、インド帰りの成金が次々と吊るされる事件が発生。「犯人はインド人に違いない」とか、「植民地支配に対する怨恨」だとかいう噂が飛び交います。1877年、ディズレーリ英首相は英領インド帝国を成立させ、インドは英国の属国となりました。当時の英国が植民地から搾取していたという歴史的事情を背景にしている訳です。更に第20話「その執事、脱走」では清国人が、大英帝国とフランスは植民地拡張競争を繰り広げているなどと語りますが、その語り口には、阿片戦争で清国に屈辱を与えた英国に対する憎しみが込められていました。遡れば、1840~1842年の阿片戦争で清国に勝利した英国は、清国に不平等条約を押し付けると共に、香港を手に入れています。また、第20話で清国人が指摘したように、当時の代表的な帝国主義国家として、英国以外にフランスがあります。第22話では前述の通りパリ万博が登場。劇中には、仏領インドシナを題材としたパビリオン等が登場しました。1884~1885年の清仏戦争に勝利したフランスは、インドシナ半島を植民地としていたのです。
前述の通り、『黒執事』第20話では、植民地獲得競争を繰り広げる英仏の対立が言及されましたが、英仏はこの後の1898年、アフリカで英軍と仏軍が遭遇(ファショダ事件という)して以降、対立を回避します。そして英仏は1904年に英仏協商を結び、植民地拡大を目指すドイツ帝国に対抗することになります。
仏独対立の例として1905年にドイツ皇帝ウィルヘルム2世がモロッコを訪問した第一次モロッコ事件などが挙げられますが、仏独の対立は更に1871年まで遡ります。
1870~1871年に行われた普仏戦争で勝利したドイツ(但しこの時点ではドイツは幾つもの国に分かれており、1つの国ではありません)は、フランスのベルサイユ宮殿・鏡の間でドイツ統一を宣言。
このことを恨みに思ったフランスは、以後ドイツと敵対することになるのです。フランスは1891~1894年にロシアと露仏同盟を結びドイツを挟み撃ちにする体制を整えました。
一方、イギリスとロシアも対立していました。不凍港を手に入れようとするロシアは極東で南下政策を進めていましたが、これに対抗するため日本とイギリスは1902年に日英同盟を締結します。
そして1904年2月8日、日露戦争が勃発します。ロシアは旅順艦隊(旅順は遼東半島にある軍港)、浦塩艦隊(ウラジオストック艦隊)、バルチック艦隊などを有していましたが、8月14日、蔚山沖海戦で日本の第二艦隊は浦塩艦隊に大打撃を与えます。
10月15日、バルチック艦隊はバルト海から極東に向けて出発。日本側としては、旅順艦隊とバルチック艦隊が合流すると日本の聯合艦隊に勝ち目がなくなるので、バルチック艦隊が極東に到着する前に旅順艦隊を壊滅させる必要がありましたが、8月10日の黄海海戦以降、旅順艦隊は旅順港に引き籠ってしまいました。そのため日本側は、旅順を占領して陸上から大砲で旅順艦隊を砲撃する作戦に出ます。その旅順攻撃を担当したのが、乃木希典大将率いる第三軍でありました。
NHK大河ドラマ『坂の上の雲』第10話「旅順総攻撃」と第11話「二〇三高地」でも描かれているこの旅順の戦いを題材にしたのが、2003年に放送されたテレビアニメ『らいむいろ戦奇譚』です。
主人公である元外交官・馬飼新太郎(声・三木眞一郎)はロシア駐在時代に現地の女性と交流があったというエピソードが描かれていますが、これは日露戦争時に実在した海軍軍人・廣瀨武夫のエピソードを下敷きにしたものでしょう。
この後、翌1905年3月10日の奉天の会戦、5月27日の日本海海戦で日本は勝利。
『らいむいろ戦奇譚』の続篇として2005年に放送されたテレビアニメ『らいむいろ流奇譚X』は奉天の会戦を題材にした作品です。
ロシアが日露戦争で敗北して極東における南下政策が停止したことから、1907年には日本はロシアと日露協商、ロシアの同盟国フランスと日仏協商、イギリスがロシアと英露協商を締結。これによって、日英同盟、露仏同盟、英仏協商、英露協商、日露協商、日仏協商から成る4箇国のグループが成立するに至ります。
1914年には露英仏日など聯合国と独墺土など同盟国の間で第一次世界大戦が勃発。2011年に放送されたテレビアニメ『ゴシック』第3話「野兎達は朝陽の下で約束をかわす」では回想の形で第一次大戦の様子が描かれた他、2011年に放送されたテレビアニメ『ダンタリアンの書架』第13話「ラジエルの書架」でも主人公・ヒューイ(声・小野大輔)が1917年、イギリス・ノーフォークの海軍航空隊基地に新入りのパイロットとして勤務する様子が描かれています。
1917年にはロシア革命が勃発。この時期のフィンランドを舞台にしたテレビアニメ『牧場の少女カトリ』(1984年放送)には、革命の指導者レーニンがチラッと登場しています。
1918年にはドイツ革命が勃発。新たに誕生した社会民主党政権が聯合国と休戦協定を結び、第一次世界大戦は終わりを告げるのでありました。
1919年には第一次大戦の講和会議であるパリ講和会議が開催され、日本は戦勝五大国(米英日仏伊)の一員として参加します。この時に調印された、第一次大戦の講和条約が、フランスのベルサイユ宮殿・鏡の間(普仏戦争について述べた上記の部分も参照されたし)で調印されたベルサイユ条約です。
敗戦国となったドイツに1320億マルクもの賠償金が課せられるなど、厳しいものとなりました。ドイツがこの賠償金を払い終えたのは2010年のことです。
2010年に放送されたテレビアニメ『閃光のナイトレイド』第10話「東は東」では元日本陸軍の軍人・高千穂勲(声・平田広明)がパリ講和会議について語る場面が登場する他、会議に参加したロイド・ジョージ英首相、クレマンソー仏首相、オルランド伊首相、ウィルソン米大統領を描いたアニメ映像が登場しています。
高千穂はこの場面で、「そこで締結されたベルサイユ条約で、欧米は民族自決の原則を謳いながら結局それまで手に入れていた植民地を手放そうとしなかった。第一次欧州大戦で多くの犠牲を出した反省の上で彼等が求めたのは結局白人社会の秩序でしかなかったのだ。」と語り、失望と不満を表明しています。
第一次大戦後、1923年のドイツを舞台にしたのが2005年に公開されたアニメ映画『鋼の錬金術師 シャンバラを征く者』です。
TBSテレビで放送された際、「本作には特定の民族に対して差別的とも取れる表現がありますが、差別の肯定、助長を意図するものではありません。」という注意書きが表示されたように、ロマ(劇中のドイツ人の台詞ではジプシーと言っている)の少女ノーア(声・沢井美優)が迫害を受けるエピソードが物語の中で重要な位置を占めています。
更に本作にはロマ関連以外にも、この時期のドイツ人の鬱積した不満を表す台詞が随所に登場しています。例えばこの時期のドイツでは猛烈なインフレーションが発生していたことから、紙幣について「こんな紙っぺら俺だっていらねえや。これで一杯分にもなりゃしねえ。」という台詞が登場し、また、第一次大戦で敗戦国になってしまったこと及びベルサイユ条約への不満を表す「この間の戦争、ドイツはまだまだ戦う力があった。それなのに政府は降伏してしまい屈辱的なベルサイユ条約を受け入れてしまった。」という台詞などが語られています。
この他、「ドイツ民族はこのドイツだけに暮らしている訳ではない。ポーランド、オーストリアの他多くの国に散らばっている。」という台詞も登場しましたが、このことは後述するテレビアニメ『トラップ一家物語』にも絡んでくる問題です。
映画の終盤、政府に不満を持つアドルフ・ヒットラー(声優なし)らはミュンヘン一揆を引き起こすのでありました。
さて話は変わりまして、2011年に放送されたテレビアニメ『ゴシック』は、1924年、フランス、イタリア、スイスに接した架空の国家ソヴュール王国を舞台にした作品です。
ソヴュール王国は第一次大戦に聯合国側として参戦した国家で、劇中では日本の軍人の三男坊である主人公・久城一弥(声・江口拓也)がここに留学しています。番組の終盤、久城は北方での戦争に従軍。1929年春に復員します。
1920年代に日本が北方で戦った戦闘といえばシベリア出兵がありますが、同出兵は1918~1922年の出来事ですので、『ゴシック』の時代背景よりも前のことです。
『ゴシック』における戦闘描写を見ると、航空機が単葉機だったり(実際この時代に用いられていた航空機は複葉機)、1929年春の時点で東京が焼け野原になっていたりするのですが、番組公式ホームページによれば「2度目の世界大戦」とのことでありました。『ゴシック』の世界では、どうやら1920年代に第二次世界大戦が勃発していたようです。
『ゴシック』における架空の歴史の話はここで終わりまして、次は、1931~1932年の上海と満洲を舞台にしたテレビアニメ『閃光のナイトレイド』(2010年放送)をご紹介します。
この番組の最後には以下のような注意書きが表示されています。
「この作品はフィクションです。
歴史上の出来事をモチーフにしていますが、主人公たち登場人物は原則的にこの作品のために創作したものです。
背景となった時代の歴史的事実またはその出来事に対する歴史認識に対し、新しい解釈を試みようとするもではありません。」
普通に考えれば、作品がフィクションであることを説明するには1行目と2行目だけで充分な気がしますが、わざわざ3行目を加えているところに、クレームを避けようという慎重な姿勢が窺えます。何しろ題材が題材だけに、敏感になっているのでしょう。
さてこの『閃光のナイトレイド』、本来第7話「事変」が放送される筈だった2010年5月17日月曜深夜(関東基準)は第7話ではなく総集篇が放送され、第7話はインターネット配信されることになりました。
第7話のテレビ放送が見送られた理由について、公式ブログ上で広報担当者が「私の立場では、詳しく語る事ができない」と語っています。
では第7話はどんな話なのかと言うと、満洲事変の発端となった、1931年9月18日の柳条湖事件が見せ場になっています。やはり製作委員会側もかなり慎重になっていると見え、くだんの注意書きを何と4回に亘って念押しするという慎重姿勢。公式メールマガジンで呼びかけ、公式ブログで呼びかけ、配信ページでは注意書きをクリックしなければ番組を視聴できず、本篇の最後にも表記するという念の入れよう。
クレームを避けるべく鉄壁の防禦態勢を敷いています。
第7話には主要登場人物が登場しない代わりに実在の軍人が次から次へと登場しました。
▼配役は以下の通り。
石原莞爾…磯部勉
板垣征四郎…森功至
建川美次…土師孝也
花谷正…飛田展男
南次郎…池田勝
このエピソードでは、“古来から我が国の歴史を裏から操っていた預言者”と呼ばれる遊佐静音(声・川澄綾子)が登場。静音は、満洲の軍事制圧を実行に移すか否か思案する関東軍(ここで言う関東は中国の山海関より東を表す)の軍人の目の前に現れ、「この決断は国の行方を左右することになります。」と未来を見通したかのような意味深長な発言を残して立ち去ります。そしてラストにおいて関東軍は柳条湖附近で南満洲鉄道の線路を爆破し、満洲事変が勃発します。かくして、預言者が指摘したような、国の行方を左右する激動の情勢に突入するのでした。
第8話「凍土の国で」で満洲国を建国した関東軍は、清朝最後の皇帝・愛新覚羅溥儀(声・興津和幸)を執政として擁立。一方、国際聯盟が派遣したリットン調査団が満洲での調査を開始するも、団員が謎の失踪を遂げます。
元日本陸軍軍人・高千穂勲は誘拐した英国人リットン伯爵(声・グレッグ・アーウィン)をタクラマカン砂漠に連れてゆき、核爆発を見せつけ、リットンに告げます。
「自国のトップだけには(引用者註・爆発のことを)是非お伝えして戴きたい。あなたのお国が所有している植民地の解放を望んでいるとのお言葉を添えて」
これは、英国が支配するインド、ビルマ、マレー、セイロン等の植民地を解放しようという高千穂の意志が表れた発言であります。
第9話「新しき京」では第一次上海事変が勃発。とは言っても、ナレーションで済ませ、正面から描くことを避ける状態に。しかもこの場面、制作側の腰が引けた様子が手に取るように視聴者に伝わってくるものとなっています。と言うのも、ナレーターである静音が第一次上海事変について「~というのが定説となっている」という、まるで後世の第三者であるかのような語尾で喋っているからです。例の注意書きもそうですが、クレームやトラブルを全力で避けようとする制作側の涙ぐましいまでの慎重な姿勢が伝わってきますね。
第12話「夜襲」では溥儀は清朝初代皇帝である太祖ヌルハチらに報告を行った後、皇帝即位式に臨みました。溥儀が皇帝に即位するのは1934年ですが、『閃光のナイトレイド』における皇帝即位式はどうやら1932年の出来事のようです。このタイミングを狙い、高千穂勲とその一派は、日米欧の要人らに向けて声明を発表します。
高千穂は、自分達がいかなる国家にも属さない独立した勢力であることを明かした上で、欧米列強に対し植民地の独立を訴えると共に、日本の関東軍が満洲を武力で占領したことを非難しました。高千穂による独立運動の矛先は、欧米列強のみならず日本にも向けられた訳です。高千穂は核兵器の開発に成功し、核兵器が抑止力を持つことも見抜いていました。
高千穂は植民地解放を要求しつつ警告の意味を込めて核兵器を使用すると発表します。しかし核兵器は主人公・三好葵(声・吉野裕行)とその仲間・伊波葛(声・浪川大輔)によって歴史の彼方へと葬り去られるのでした。一方、ヒロインである苑樹雪菜(声・生田善子)と遊佐静音は、核爆発の幻影を日米欧の要人に見せつけることで核戦争の恐怖や悲劇を印象付け、巨大な戦争の勃発を回避しようとしました。
最終回のエンディングでは、前述の皇帝即位式が中止され、2年後に再び皇帝即位式が挙行されたと語られました。劇中の登場人物が、植民地の解放と巨大な戦争の回避を望んだにも拘わらず、最終回のラストは日本軍が行進するシーンであり、軍靴の足音が聞こえる様子を直球で表現していることから、暗い未来を暗示しているようにも見えます。
この時代の欧州を描いた作品に目を向けると、1991年に放送されたテレビアニメ『トラップ一家物語』で1930年代のオーストリア情勢が描かれています。第33話「本当の家族」では世界大恐慌のせいで物語の中心人物であるトラップ一家が預金していた銀行が破綻。トラップ一家は無一文になってしまいます。
しかしポジティブシンキングで、希望を見出すのでした。第36話「ナチス侵攻」では、前述したアニメ映画『鋼の錬金術師 シャンバラを征く者』で「ドイツ民族はこのドイツだけに暮らしている訳ではない。ポーランド、オーストリアの他多くの国に散らばっている。」と指摘されたような事情などを背景にして(それだけではないけれども)、アドルフ・ヒットラー総統(声・福田信昭)率いるドイツとオーストリアが合邦します。
第37話「あたらしいご挨拶」ではオーストリアの人々が「ハイルヒットラー」という挨拶をするようになります。更に、オーストリアの国歌を歌うと死刑になってしまうという。学校でも「ハイルヒットラー」という挨拶を強制され、トラップ一家を重苦しいムードが覆います。しかしトラップ一家の子供達は、日本語の駄洒落を発してこの挨拶から逃れるという妙案を編み出すのでした。暗い世相を背景にしながらも明るさを失わない子供達を描いた巧みなエピソードだったと言えます。
このように、『トラップ一家物語』は暗い世相の中でも明るさを失わない物語だったのですが、第二次世界大戦はすぐそこまで迫っていたのでした…。
(文・コートク)