今回の「うちの本棚」は、園田光慶の代表作であり、貸本劇画の代表作のひとつでもある『アイアン・マッスル』をご紹介いたします。アクションシーンへのこだわりは同時代の劇画家、その予備軍に影響を与え、劇画表現の枠を広げました。
園田光慶は1958年に貸本マンガでありかわ・栄一としてデビュー。当時貸本マンガを舞台に台頭し始めた「劇画」の描き手として人気を得たが、貸本自体の衰退もあり雑誌に活躍の舞台を移すと共に、1965年、園田光慶と改名。『あかつき戦闘隊』や『軍鶏』『戦国猿廻し』などの作品で知られる。また『アイアン・マッスル』『ターゲット』等の作品ではアクションシーンへのこだわりが評価され、同時代の劇画家やその予備軍に多大な影響を与えた、と言われている。
本作『アイアン・マッスル』は園田の代表作のひとつであり、ファンの人気も高い。ペンネームをありかわ・栄一から園田光慶に変えた時期でもあり、初出の単行本では作者表記に混乱もある(3巻では「ありかわ・栄一改め園田光慶」と表記されている)。
手塚治虫は漫画に映画の感覚を持ち込んだが、本作『アイアン・マッスル』はさらに映画的なスピード感のある演出と動きが追求されていると言っていいだろう。作品発表当時にはアクション映画(たとえば「無国籍映画」と言われたようなもの)が人気だったこともその背景にはあるだろう。
手塚やその影響を受けた漫画家たちによってそれまでの漫画とは違うものが生み出されてきていたが、更に表現の限界を広げようとした動きが「劇画」にはあった。「それまでの漫画とは違うもの」という意味で「劇画」の名称を与えられたのだから、ジャンルとして別物という意気込みが作者たちにはあったはずである。ひとつはよりシリアスな内容、子ども向けではない内容といったテーマやストーリー面、もうひとつはより細かい描写でありリアルな画風が挙げられる。その延長線上にあって、本作に於ける園田のアクションシーンへのこだわりという物があったことは言うまでもない。
貸本版ではアイアン・マッスルと名乗る人物の素性はハッキリとは言及されていないが、どうやら暗黒街では名の知れた人物であるらしい。このあたり佐藤まさあきの『影男』のような「貸本劇画のお約束」的な暗黙の了解があったと見ていいだろう。しかし「少年キング」の読みきり作品になると「ひみつ捜査官」という職業になっている。貸本劇画が一律に「悪書」とされていた時代を何となく感じてしまう設定変更に思えてしまう。
「マンガショップ」版ではその読み切りに加えて、貸本版の予告編も収録されているので、未読の方はぜひお読みいただきたい。
初出/東京トップ社(1964年~1965年・書き下ろし単行本)
少年画報社・少年キング(1966年19号・読み切り)
書誌/東京トップ社(全3巻・貸本)
朝日ソノラマ・サンコミックス(全1巻)
パンローリング・マンガショップシリーズ(全1巻)
(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/)