実は私、絵心のある方ってすごい尊敬してるんです。筆ひとつで思い浮かんだ風景などをスラスラっと描いていく姿。それをアートとして表現した作品にとても憧れます。こんなことを言っているのでお察しだと思いますが、私自身は絶望的なまでに絵心のない人間。どうしても絵を描くということが難しく感じてしまうんです。

 「でも絵を描くって実はそんなに難しくなかったりするんですよ」

 こう話すのは、今回お話を伺ったすずきあやえさん(以下すずきさん)。普段は星空や風景をメインに描きながらも、犬のオリジナルキャラクター「わんた」のグッズやLINEスタンプを販売制作したり、国内外で展示イベントを出展したり、埼玉県和光市にある画材メーカー・株式会社オリオンとは、すずきさんが絵を描く際にオリオンが販売している画材用紙「麻王」を使用している縁で水彩用見本用カードのコラボ商品をしたり……幅広く活躍されている水彩作家さんです。

 すずきさんを筆者が知ったのは、Twitterに投稿された1つの動画。「絵ってこんなに早く描けるの……?」と、筆者の私はただただびっくり。すぐに取材を申し込んでしまいました。

 すずきさんが描いていたのは「木の枝にとまるセキセイインコ」なんですが、その描き方が凄いんです。予め和紙にセキセイインコの目や嘴(くちばし)や羽部分や木の枝の部分を黒や茶色で描いておき、あとはセキセイインコの特徴である黄と緑の羽毛を表現するために、絵筆で色を使い分けて描くんですが、なんとその所要時間が30秒足らず。それでいてセキセイインコとはっきり分かるんです。

 一連のメイキング動画を納めた様子をすずきさんがTwitterに投稿したところ、動画再生回数は30万回を超える大反響。コメント欄にも「可愛い、速い、綺麗」「あっという間にインコちゃん!」「こんな描き方が!?」「黄色と緑色の線引きが絶妙」とスピード感と正確さを併せ持ったすずきさんの技巧に驚きの声が寄せられました。

 実際に描かれるまでの一連の様子を動画で見ると、私みたいな絵心のない人間でもイメージが湧いて絵を描いてみようという気持ちになります。実はこれにはすずきさんのあるねらいがありました。

 「コロナ禍の影響で美術館などでゆっくりと絵画を観賞できないからこそ、“色を塗る”という単純な動作だけで完成させられるようにこだわったんです」

 実はすずきさんはTikTokアカウントも持っており、水彩で和紙に描いていくときに、色がどんどん移っていく様子が描いていて楽しかったので、その様子をアカウント内で公開していこうと思い立ったのがきっかけだったそう。

 TikTokは再生時間が15秒から1分の動画を用いて、好みの音楽を使って面白おかしく投稿するという近ごろ話題のSNSですが、これを絵画のメイキング動画に活用するとはなかなか思いつきません。これもすずきさんがお持ちになっているアーティスティックな発想力なのだと私はただただ感心するばかり。

 そんなすずきさんはセキセイインコ以外にもシマエナガやひよこを描いており、そちらのメイキング動画をTikTokやInstagramにも公開していますが、いずれも即興で作り上げたとは思えない出来栄え。「おうち時間」の充実が叫ばれている昨今、すずきさん考案の「おうち絵画」はいかがでしょうか。

<取材協力>
すずきあやえさん(Twitter・Instagram・TikTok:@_cocotto/HP:https://suzuri.jp/suzukiayae

(向山純平)