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一輪挿しがカブトムシに変形する陶芸作品 可動構造に込められた1年の試行錯誤

 陶芸品と聞いてまず想像するのはお皿やお椀などの食器類、あるいはちょっとした置物といったところでしょうか。

 しかし陶芸家の堀貴春さんが生み出すのは、そんな想像を覆してしまう“変形”する作品です。

  • ■ “一輪挿しに擬態した空想の昆虫”というコンセプトで生み出された、可変式陶芸作品

     このほど堀さんが「一輪挿しからカブトムシに変形する陶芸作品」と題してXに投稿したのは、1本の動画。

    堀さんが投稿した動画

     回転するろくろの上にのっているのは、真っ白い磁器製のカブトムシ。六本の足でろくろの上に立ち、ゆるやかな曲線を描く一本角は繊細でありながらもパワフルな迫力を備えています。

     磁器製のカブトムシ、というだけでも1つの作品としてかなり魅力的ですが、この作品の真価が現れるのはここから。

    カブトムシから一輪挿しへ

    足を折りたたんでいく

     ろくろの回転が止まると、堀さんと思しき人の手が伸びてきて、カブトムシを持ち上げます。そして各脚と胴体を丁寧に内側に折りたたんでいくと、現れたのは花瓶の一種である一輪挿し。

    一輪挿しに変形完了

     微妙に空いた隙間がカブトムシの雰囲気を残しており、まるで成虫から蛹に逆戻りしたかのような不思議なビジュアルです。

     堀さんはハッシュタグとして「#我こそは変態だと思う作品を晒そうぜ」というものを用いていますが、こちらは「変態的な技術」のほか、「昆虫の変態」という意味も含まれているような気がしてしまいます。

     投稿は1.9万件のいいねを集め、コメント欄は国内外を問わず絶賛の声で溢れています。

     2024年9月に、1年の試行錯誤を繰り返して完成したこの作品は、その名も「イチリンザシソックリムシ」というそう。

     “一輪挿しに擬態した空想の昆虫”というコンセプトのもと、生み出された本作。

     頭や胴体、関節部分には用途に応じてステンレス、アルミ、真鍮のパーツを入れることでこの可動性を実現。さらに脚先にネオジウム磁石を仕込むことで、カブトムシから一輪挿しに変形させたときに、ピタリとくっつく仕様になっているのだとか。

    可動部にはステンレスやアルミなどを仕込んでいる

     そして、そうしたギミックを成立させるために、成形段階から土の収縮率を計算し、焼成によって変形しないようにしているとのこと。

     形はシンプル、しかし裏側は緻密にして複雑。この「イチリンザシソックリムシ」がどのように着想され、生み出されたのか。気になる制作の背景を堀さんにうかがってみました。

    ■ 制作には寸分の狂いも許されない。失敗続きで、途中で挫折するも……

    −− 今回の作品について、モチーフ・ギミック含めて着想したきっかけをお聞かせください

     体の構造は現存するマンマルコガネを参考にしています。一輪挿しに擬態させるため眼は内側にあり表からは見えないようになっています。

     元々、幼い頃から常に昆虫を飼育していて何も飼育してない期間が無かったほど日々昆虫を観察する毎日で現在は生き物専用の部屋を作るほど昆虫に対する思いは強く普段の制作はその知識を活かした未来の昆虫をテーマに制作しています。

     いつか自分の扱う磁器(永久的に残る素材)に擬態する昆虫を作りたいと思っていました。テーマは人類が残した腐らない産物(磁器)に昆虫が擬態したらというファンタジーを込めて考えました。

    「イチリンザシソックリムシ」

    −− そもそも「可変式の陶芸作品」というものをはじめてみたのですが、これは技法として存在するものなのでしょうか?

     陶芸で可変(トランスフォーム)する作品は確かに私自身もまだ見たことは無いです。

     ただ、陶芸で可動する作品を作る方は何名か居ます。私のように可動に金属を使う方はあまり聞いたことはないです。

    −− 可動する陶芸作品はあるんですね……

     代表的なのはドール人形に使われるゴム製のてぐすで可動させる方法かと思います。

     その技術のトップが同じ陶芸家の岡村悠紀さんかと思います。

    −− 制作は「土の収縮率や焼きの変形との戦い」とのことですが、こちらもう少し詳しくお聞かせください

     仰る通り陶芸は収縮と変形との戦いになります。更に可動と変形を合わせるには寸分の狂いも許されず、それもありこのイチリンザシソックリムシは何年も失敗続きで途中で制作をやめてしまいました。

    −− そうだったんですね……

     その間、カマキリモチーフの作品で接着剤を一切使わないで細い脚のまま一体型の焼成を成功させたり、大型犬サイズのクワガタを作ったりなど本来ならば陶芸で作るには適さない形を作り続け、そこで得た焼成の技術によりようやくイチリンザシソックリムシを完成させました。

    カマキリモチーフの作品

    大型犬サイズのクワガタ

    −− ちなみにこちら一輪挿しとして実用できるものなのでしょうか? 一輪挿し形態で隙間があるのが少し気になり。

     一輪挿しに擬態した昆虫なので水を入れる前提で考えていません。

     可動に金属を嵌め込んでいますのでそこから漏れると思います。

    −− なるほど、虫が主体なんですね

     あくまで「一輪挿しが虫になる」ギャグ作品では無く「一輪挿しに擬態した未来の昆虫」になります。

    ドライフラワーなら刺せる

     おそらくそれに擬態する虫が本当に現れても自ら水を入れることは無いかと思います(笑)

     ただ角先から胸の部分まではしっかり穴が続いていますのでドライフラワーなどは挿せます。

    <記事化協力>
    堀 貴春 ceramic artist さん(@_taka_0130

    (ヨシクラミク)

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