東京都が小笠原諸島への航空輸送に、世界初の民間ティルトローター機AW609を導入する可能性を検討する、とした東京都の計画に、メーカーであるイタリアのレオナルドが評価試験に協力すると発表しました。現在最終組み立てが進んでいる量産仕様機のほか、シミュレータをはじめとする訓練システムも2020年中に用意できるとしています。
東京からおよそ1000kmほど離れた小笠原諸島は、現在小笠原海運により東京港(竹芝桟橋)と父島の二見港を結ぶ貨客船「おがさわら丸」、そして父島の二見港と母島の沖港を結ぶ貨客船「ははじま丸」が運航されています。しかし東京港と父島までは24時間を要し、貨物や通常の人の行き来であればそれほど問題にはなりませんが、小笠原村内の医療機関で対応できない急患などが出た場合、それでは間に合いません。
この場合、都知事から自衛隊に災害派遣(急患輸送)を要請し、海上自衛隊のUS-2飛行艇(第71航空隊)で直接、またはUH-60ヘリコプター(第21航空隊硫黄島航空分遣隊)とP-1哨戒機(第3航空隊)または航空自衛隊のC-130輸送機(第401飛行隊)が連携し、硫黄島を経由して対処しています。小笠原諸島に滑走路を有する飛行場はありませんが、父島には「父島飛行場」として飛行艇が上陸できるスロープやヘリポートが存在し、海上自衛隊横須賀地方隊に所属する父島基地分遣隊が管理しています。
第二次世界大戦後、小笠原諸島がアメリカの治政権下から復帰して50年となった2018年、東京都は旧日本海軍が1943年に開設した洲崎飛行場跡を念頭に、滑走路を有する飛行場開設の検討を本格的に始めました。自然環境への影響を極力小さくする、ということで滑走路長は1000m以下であることを前提としています。
洲崎飛行場は、海軍が建設する際も波による浸食が続き、滑走路を1000m以上に伸ばすことができませんでした。結局父島に配備されたのは水上機が主体で、滑走路は不時着用という位置づけになっていたといいます。
1000m以下の滑走路で離着陸が可能な飛行機(固定翼機)ということで、これまで東京都が設置した小笠原航空路協議会では、フランスATRのプロペラ旅客機ATR42-600S(30~50席)を想定していました。しかしATR42-600Sは2019年10月に開発が発表されたばかりで、型式証明取得と最初の顧客への引き渡しは2022年後半以降を予定している状態です。
この状況を考慮してか、2020年7月31日に都庁で開催された第9回小笠原航空路協議会の席上、東京都は就航する航空機候補にティルトローター機のAW609を加えることを明らかにしました。AW609はV-22オスプレイ同様ティルトローター(FAAのカテゴリーでは「パワードリフト」)機のため、通常の飛行機よりずっと短い距離で離陸できますし、垂直に着陸することも可能です。
この第9回小笠原航空路協議会の結果を受け、AW609のメーカーであるイタリアのレオナルドは、採用に向けてのアピールを始めました。AW609は最大航続距離が1800km以上とATR42-600Sを上回り、東京と父島を結べるだけの性能を十分確保。そしてヘリコプターに比べて気象条件の制約が少なく、巡航速度も時速510kmでATR42-600S(時速556km)と遜色ない性能を有しています。
レオナルドは、現在日本で運用されている130機の同社製ヘリコプターと同様、AW609も官民双方の要求に合致する機体だとし、サービスネットワークも活用できるとしています。アメリカのフィラデルフィアで最終組み立てが進んでいる最初の量産仕様機(2機)のほか、フルフライトシミュレータを含む訓練システムも2020年中に用意できることも明らかにしています。
ATR42-600Sと比較してのAW609の問題点は、搭乗できる乗客が標準9名、最大12名と少ないこと。定期航空路線として運航する際、どれくらいの旅客需要が見込めるかというのも絡んできますが、都が保有して急患輸送に供するというのであれば、小回りのきく機材として重宝するかもしれません。
<出典・引用>
レオナルド プレスリリース
Image:Leonardo/ATR
(咲村珠樹)