「うちの本棚」、今回は一条ゆかりの『わらってクイーンベル』をご紹介いたします。天涯孤独な主人公が、資産家の跡取りに、という少女マンガらしい展開のラブコメディ。次々に降りかかるトラブルもジェットコースターのようで一気に読めてしまいます。けど、個人的には後編に併録された『ラブ・ゲーム』がオススメだったりして(笑)。
『わらってクイーンベル』はいかにも少女マンガな設定の長編。母の死をキッカケに7歳でスイスの山奥にある全寮制の学校に入れられたクイーンベルは、修道院のようなその学校で10年を過ごしていたが、後見人であるボストン氏から生まれたころに死んだと聞かされていた父が、つい最近亡くなったと知らされ、父の家であるイギリスのロワイヤル家に迎えられる。イギリスの富豪であった父の財産を継ぐことになるのだが、実はクイーンベルの母は正妻ではなかった。正妻にも行方不明の息子がいて、その存在が確認されればクイーンベルは跡取りにはなれない。が、偶然にも息子が見つかり、それはクイーンベルがイギリスに向かう途中スイスの空港で出会った青年でもあった。
イジワルな従姉妹の登場、兄となる青年への恋心と少女マンガらしい展開の連続である。クイーンベルのキャラクターも陽気でコメディ要素ももっていて、一条ゆかり作品にありがちなドロドロしたストーリーにはなっていない。異母兄妹の恋愛ということも匂わせていたが、これは成立しないで終わる。もっともだからこそ、本作のあとに描かれた『デザイナー』につながるのだろう。
あとがきによれば、イジワルな従姉妹のアイーダとプレイボーイのジュノが作者のお気に入りだったとのことで、確かに後半になるとこのふたりがストーリーを引っ張っていっている。
『プレイボーイをやっつけろ』はデビュー2年目に描かれた読み切り作品。まだ絵に初期のタッチが残り、細かい描き込みも少ない。
主人公は男の子のような女の子パフ。資産家の息子で両親に死に別れ、毎日違う女の子とデートするイケメンのライダーを嫌っていたのだが、いつのまにか恋してしまうというラブコメの王道パターン。
『ラブ・ゲーム』は『わらってクイーンベル』終了後に描かれた読み切り作品。一条ゆかりらしいドロドロの恋愛ドラマ、と言っていいと思う。最愛のものを奪われたことで、少年はひとつのゲームをはじめる。それはラブゲームという復讐のゲーム。掲載誌が「りぼん」なので直接的なシーンは描かれていないが集団レイプなどもあって内容的にはかなり大人向け。ちょっと読み切りの短編であることがもったいなく感じられる。『わらってクイーンベル』の明るいラストの反動がこの作品のシビアな展開に影響していたのかな? と思えたりもする。
初出:わらってクイーンベル/集英社「りぼん」昭和48年4月号~9月号、プレイボーイをやっつけろ/集英社「りぼんコミック」昭和45年3月号、ラブ・ゲーム/集英社「りぼん」昭和48年11月号
書 名/わらってクイーンベル(前・後編)
著者名/一条ゆかり
出版元/集英社
判 型/新書判
定 価/前編・250円、後編・320円
シリーズ名/りぼんマスコットコミックス(RMC-55、56)
初版発行日/前編・1974年2月10日、後編・1974年3月10日
収録作品/前編・わらってクイーンベル、プレイボーイをやっつけろ、後編・わらってクイーンベル、ラブ・ゲーム、作品リスト
(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/)