おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

【うちの本棚】215回 ここのつの友情・作品集版/竹宮恵子

ここのつの友情-作品集 「うちの本棚」、今回ご紹介するのは竹宮恵子作品集から初期の作品を集めた『ここのつの友情』です。
デビュー作『弟』は竹宮の才能を感じさせる必読の短編でしょう。

  • 【関連:214回 空が好き!/竹宮恵子】

    ここのつの友情-作品集

     この竹宮恵子作品集は『空が好き!』『ファラオの墓』といった代表作のほかは本シリーズが単行本初収録という作品が多いのだが、第7巻では『ここのつの友情』その続編である『ジョージの日曜日』そして初期の短編『ゆびきり』が再録となっている。とはいえデビュー作『弟』、初期作品『かぎっ子集団』を初収録していて見逃せない巻になっていることも事実だ。
    『ここのつの友情』が巻頭に収録されているほかは、発表順の収録となっている(『ここのつの友情』は、収録されているのは後年描き直されたものだが、もともとはデビュー前の習作と考えればすべてが発表順あるいは制作順とも言える)。「フラワーコミックス」版の『ここのつの友情』では続けて『ジョージの日曜日』が収録されていたが、本巻ではその他の作品をサンドイッチにする形での収録である。

     『弟』は8ページの短編だが、内容そのものは16ページの作品に匹敵するもの。というのはかなり細かいコマ割りを用いて短いページ数でストーリーを展開しているからだ。少ないページで8コマ、最大で21コマのページがあるが、すんなりと自然に読ませるところは、後に伊藤愛子も衝撃を受けたと言っている。登場人物は兄と弟、そして兄の恋人の3人だけのシンプルなもので、両親を亡くした兄弟は、弟が血のつながっていない養子であり、そのことでグレてもいる。ラストには子供の頃のように仲のいい兄弟に戻るといった展開ではあるが、肩を組む兄弟の姿は、後に描かれる同性愛物を連想してしまったりするのだが、この作品を描いた時点で竹宮もそれは考えていなかっただろう。

     『かぎっ子集団』は当時の社会状況がわからないとピンとこないところもあるかもしれない。「かぎっ子」という名称自体が死語だろう。団地や空き地といった舞台設定にも時代を感じる。「かぎっ子集団」というグループや周囲の大人たちのグループへの偏見など、その後の作品でもたびたび描かれるモチーフが扱われているところは注目していいだろう。

     『もうっ、きらい!』はボーイッシュな女の子が主人公のラブコメディで、学校でも大人気の可愛い女子が、実は主人公が好きで…という百合もの。外見的にも性格的にも男っぽい主人公が、告白されて「まるで童話の王子さま」と自分を感じるシーンでは、ピーターパンや星の王子さまと共にウィーン少年合唱団までが例えにあらわれる。主人公ミツルには『空が好き!』のタグ・パリジャンの匂いが漂っている気がする。ちょうど『空が好き!』の第一部と第二部の間に描かれたためかもしれない。

     『ここのつの友情』『ジョージの日曜日』に関しては「フラワーコミックス」版の紹介で、また『ゆびきり』は「花とゆめコミックス」の『夏への扉』の紹介でそれぞれコメントしているので今回は省略いたします。

    初出:ここのつの友情/小学館「週刊少女コミック」昭和46年30号、弟/虫プロ商事「COM」昭和42年12月号、かぎっ子集団/虫プロ商事「COM」昭和43年7月号、ゆびきり/講談社「なかよし」昭和44年1月増刊号、もうっ、きらい!/小学館「週刊少女コミック」昭和47年17号、ジョージの日曜日/小学館「週刊少女コミック」昭和49年27号

    書 名/ここのつの友情(竹宮恵子作品集7)
    著者名/竹宮恵子
    出版元/小学館
    判 型/B6判
    定 価/450円
    シリーズ名/プチコミックス・竹宮恵子作品集7
    初版発行日/昭和54年1月15日
    収録作品/ここのつの友情、弟、かぎっ子集団、ゆびきり、もうっ、きらい!、ジョージの日曜日

    (文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/

    あわせて読みたい関連記事
  • 商品・グッズ

    竹宮惠子の御朱印帳第2弾は「地球へ…」

  • ニュース・話題

    ふるさと納税の返礼で竹宮恵子先生のエッセイや画集が手に入る!

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】217回 ファラオの墓/竹宮恵子

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】216回 集まる日,/竹宮恵子

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】214回 空が好き!/竹宮恵子

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】213回 魔女はホットなお年頃/竹宮恵子

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】212回 森の子トール/竹宮恵子

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】211回 アストロツイン/竹宮恵子

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】210回 ここのつの友情/竹宮恵子

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】209回 ガラスの迷路/竹宮恵子

  • 猫目 ユウWriter

    記事一覧

    フリーライター。ライター集団「涼風家[SUZUKAZE-YA]」の中心メンバー。
    『ニューハーフという生き方』『AV女優の裏(共著)』などの単行本あり。
    女性向けのセックス情報誌やレディースコミックを中心に「GON!」等のサブカルチャー誌にも執筆。ヲタクな記事は「comic GON!」に掲載していたほか、ブログでも漫画や映画に関する記事を掲載中。
    本コラム「うちの本棚」は作者・テーマ別にして「ブクログのパブー」から電子書籍として刊行しています。
    また最近は小説の執筆に力を入れています。
    仮想空間「Second Life」やってます^^

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • コラム・レビュー

    複数社から発売された『墓場鬼太郎(ゲゲゲの鬼太郎)』を振り返る

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】262回 こいきな奴ら/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】261回 ティー・タイム/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】260回 5(ファイブ)愛のルール/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】259回 デザイナー/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】258回 わらってクイーンベル/一条ゆかり

  • トピックス

    1. 汗冷え対策は「ヒートテックの下にエアリズム」 ユニクロ公式発の裏ワザが再び話題

      汗冷え対策は「ヒートテックの下にエアリズム」 ユニクロ公式発の裏ワザが再び話題

      屋内と屋外で寒暖差が大きく、着る服に悩みがちなこの季節、SNS上で「エアリズムの上にヒートテックを着…
    2. 「ドラクエ7リメイク」にキーファ再会エピソード追加 衝撃展開にSNSでは「恨み節」も

      「ドラクエ7リメイク」にキーファ再会エピソード追加 衝撃展開にSNSでは「恨み節」も

      2025年11月12日午前7時に配信された「State of Play 日本」にて、「ドラゴンクエス…
    3. アカウント1の投稿

      【前編】それでも私は、書くことを選んだ―― Temu不審アカウントに挑んだ無名記者の記録

      ある日の調査作業の過程で、SNS「X」上において、急成長中の越境EC大手「Temu」のサポート担当を…

    編集部おすすめ

    1. 床掃除はおまかせ!「モップ機能つき生ルンバ」と化すビションフリーゼがかわいい

      床掃除はおまかせ!「モップ機能つき生ルンバ」と化すビションフリーゼがかわいい

      頭をぐりぐり動かしながら、床の上を滑っていく1匹のワンちゃん。飼い主さんが「モップ機能つき生ルンバ」と呼ぶビションフリーゼ・せとくんの動画が…
    2. 工場労働者2138人、1万時間の作業映像をオープンソース化 ロボット向け学習に活用

      工場労働者2138人、1万時間の手作業映像をオープンソース化 ロボット向け学習に活用

      工場向け自動化ロボットの研究開発を行うテクノロジー企業、Build AIが、工場労働者2138人による合計1万時間の作業映像をオープンソース…
    3. お菓子の家……ならぬ「つまみの家」誕生 お酒が進むオトナの創作料理

      お菓子の家……ならぬ「つまみの家」誕生 お酒が進むオトナの創作料理

      「解体しながら飲む」が合言葉。童話でお馴染みの「お菓子の家」を、そのまま大人向けに置き換えたような、その名も「つまみの家」がXに登場しました…
    4. 作業でたき火を燃やす新感覚クリッカー「たき火と猫」登場 癒やしと集中を両立するチル系ゲーム

      作業でたき火を燃やす新感覚クリッカー「たき火と猫」登場 癒やしと集中を両立するチル系ゲーム

      作業中に「猫」と「たき火」の癒やしを感じながら集中できる……そんな新感覚のゲーム「たき火と猫」のSteamストアページが公開されました。本作…
    5. アカウント1の投稿

      【後編】それでも私は、書くことを選んだ―― Temu不審アカウントに挑んだ無名記者の記録

      ※この記事は前編からの続きです。前編では、Temuを名乗る複数のアカウントを調査する中で見えてきた構図をお伝えしました。ここからは、Temu…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト