「うちの本棚」、竹宮恵子の単行本から、今回は『ガラスの迷路』を取り上げます。
読み始めると、いつのまにか竹宮ワールドに引き込まれてしまう4作品を収録した単行本で、読みごたえは充分です。
本書は「ガラスシリーズ1」とカバーに記されている。カバー折り返し部分には「著者のライフワークのへんりんをのぞかせ」「その一作、一作がさまざまな問題をのこした問題作!」としるされている。ライフワークとされるのは本書刊行当時に連載中で話題作であった『風と木の詩』、つまり少年愛を指しているのだろうし、問題作というのは、編集側からのイヤミにも取れてしまうのだが、どうだろうか。
作者のあとがきでもある「作品によせて」には、ガラスにまつわるものを「ガラスシリーズ」としたとある。確かに『ガラス屋通りで』をシリーズの一作に数えるのならその通りだと思うが『扉はひらく いくたびも』『ガラスの迷路』、また本書には収録されていないが『七階からの手紙』を読む限り、ガラス=少年という印象が強く、ガラスという物理的なモノとして作者が想定していたわけではなかったのでは、と思える。シリーズ作品を単行本に集めるということで、多少強引にシリーズとしてまとめた感もなきにしもあらず、といったところか。
『扉はひらく いくたびも』と『ガラスの迷路』は同じマモルという少年が登場する。ある意味シリーズ作品らしく、根底でつながっているエピソードだ。またシリーズ3作目にあたる『七階からの手紙』に登場するイポリート同様に病弱な少年である。純粋で繊細な少年を描くことが、本来の「ガラスシリーズ」の趣旨だったのではないかと、この3作からは推測されるのだが…。収録順的に『扉はひらく~』『ガラスの迷路』と読んでいくと「なるほど」と思えるのだが、初出を見ると発表は逆になっている。『ガラスの迷路』を描いた後で、その前段階にあたる『扉はひらく~』を描いたことになるようだ。
『暖炉』はレイモン・ラディゲの『肉体の悪魔』の感想文として描いたと「作品によせて」には書かれている。一読して感じたのは『夏への扉』の原型ということ。純粋な少年の恋を描いているという点では「ガラスシリーズ」に含められたのも頷けるところか。
『ガラス屋通りで』はメルヘンチックなファンタジーで、竹宮らしい作品のひとつと言っていいだろう。作者も気に入っているもののひとつだという。
正直な話し、ある時期から竹宮作品はあまり読みたいと思わなくなっていたのだけれど、一度読み出すとその世界に引き込まれてしまっていることに気づく。テンポのよさとかセリフ廻しのうまさとか、いくつか要因はあると思うが、竹宮の才能なのだろう。本書もそんな竹宮の実力を思い知らされる一冊だった。
初出:扉はひらく いくたびも/小学館「別冊少女コミック」昭和50年6月号、ガラスの迷路/小学館「週刊少女コミック」昭和46年9月号、暖炉/小学館「週刊少女コミック」昭和46年12月号、ガラス屋通りで/小学館「別冊少女コミックちゃお」昭和48年4月
書 名/ガラスの迷路
著者名/竹宮恵子
出版元/小学館
判 型/新書判
定 価/320円
シリーズ名/フラワーコミックス(FC-141)
初版発行日/昭和51年12月5日
収録作品/扉はひらく いくたびも、ガラスの迷路、暖炉、ガラス屋通りで、わたしの宝物・ほかイラスト、ガラスの迷路・創作ノート、作品によせて
初出:扉はひらく いくたびも/小学館「別冊少女コミック」昭和50年6月号、ガラスの迷路/小学館「週刊少女コミック」昭和46年9月号、暖炉/小学館「週刊少女コミック」昭和46年12月号、ガラス屋通りで/小学館「別冊少女コミックちゃお」昭和48年4月
(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/)