皆さんこんにちは、咲村珠樹です。いよいよ3月1日を最後に、日本航空からジャンボ(B747-400)が姿を消します。1970(昭和45)年に導入以来、一時期は世界で最も多く保有していたほど、日本航空の象徴となっていたジャンボ。経営破綻からの再建過程で、全機退役が決まりました。今回の「宙(そら)にあこがれて」は、この日航ジャンボに「乗り納め」として搭乗してきたレポをお届けします。
搭乗したのは羽田発那覇行きのJL907便。現在国内線に投入されているB747-400D型は、JA8084の1機のみ。この関係で時刻表に情報は載っておらず、利用客数に応じて臨時に投入される機材になっています。……とはいっても、ジャンボは日本航空にとって特別な飛行機でしたから、退役記念の特別サイトにおいて、運行スケジュールが公開されています。詳しい部分はこちらのリンク(https://www.jal.co.jp/jumbo/schedule)をご参照ください。
羽田空港のスポットに駐機するJA8084。すでにトーイングカーが連結され、出発準備が整う中、搭乗します。今回はジャンボ退役記念で販売されている空弁「ジャンボ4発太巻き」を購入しました。
4発機であるジャンボのエンジンに見立てた、4つの太巻きが入ったお弁当です。オリジナルしおりがオマケで入っていました。退役記念の空弁は、この他にもうひとつ、オリジナルステッカーがついた「ジャンボ海老天重」が販売されています。
2階席への案内が書かれた、機内のこの表示もジャンボ独特。もちろん今回は、ジャンボの特徴である2階席のシートを予約しています。階段を上って、2階席へ。
2階席は若干、天井が低いのですが、これでも最大部ではB737型くらいの客室幅・高さがあります。ただやはり窓際の方は壁が迫って、頭上の荷物入れ(オーバーヘッドストウェージ)の容量が足りません。そこで、2階席にはいくつか独特な収納部があります。
左の写真は、階段横にあるクローゼット。コートなどが収納できるようになっています。そして右の写真のように、窓の下には、窓際席用の荷物入れ(ストウェージ)があります。この関係で、窓とは若干の距離ができ、頭上の空間を確保できるようになっているんですね。
1階席前方のクラスJのシート配列も、ジャンボは独特です。通常、機体最前部には操縦室があるのですが、ジャンボの操縦室は2階にあるので、機首ギリギリまでシートが並びます。機首に向かって、徐々に列がすぼまっていくところが面白いですね。さらに最前部の壁は、圧力隔壁の関係でカーブを描いています。
そして、これもジャンボならではの、今や懐かしい飲料水のサーバ。特急列車でも、これを設置している車両はほとんど無くなってしまいましたから、時代を感じさせる貴重な存在ですね。
窓の外を見れば、翼についた2基のエンジンが。
4発機ならではの光景ですが、これから国内線で新たに4発機が飛ぶことはあるのでしょうか。
ところでジャンボは、客室乗務員(CA)の皆さんにとっても、非常に使いやすい機材だったそうです。なによりギャレーの作業スペースが広く、機能的で使いやすかったそうで、お話を伺った方全員が「お気に入り」と話してくれました。
左が1階席、右が2階席のギャレー。2階席の方はちょっと天井が低く、穴ぐらのような感じですが、客室幅をいっぱいに使え、さらに客室の最後部に位置している為、コの字型レイアウトを採ることができているので、作業スペースは十分すぎるほどです。
ほとんどの方が、このジャンボに憧れて客室乗務員を目指したそうなので、やはり感慨もひとしおのようです。2階席担当の方は、2009年のクラシックジャンボ(B747-300)退役記念のツアーに乗務されていて、その時の思い出も語ってくれました。本当に名残惜しそうでしたね。
ところで、日航ジャンボの乗り納めと思って搭乗したJL907便でしたが、1階席のギャレー脇に、このような新聞と雑誌の切り抜きが貼られていました。
これはこの便の機長、中本洋一さんを取り上げた記事。昨年のサッカーワールドカップで、岡田監督率いる日本代表が合宿地へと向かうチャーター便の機長として、日本サッカー協会から「ぜひ中本機長で」とご指名を受け、操縦桿を握った時のものです。
サッカー好きの方はご存知かもしれませんが、岡田ジャパンにとって中本機長は「勝利の神」だったのです。ワールドカップのアジア予選8試合(4勝1敗3引き分け)で、日本航空のチャーター便を利用したのは4試合。うち3試合で中本機長が乗務し、全勝という結果でした。この強運にあやかろうと、サッカー協会は「ご指名」をしたのでした。結果はご存知の通り、日本の最高位タイとなるベスト16。強運にあやかれたと言えるのではないでしょうか。
実はこの日、中本機長もジャンボの最終乗務だったのです。
1983年の入社以来、ずっとジャンボに乗務し続けてきた中本機長。ジャンボ最後の日とあって、操縦席からの挨拶も、まるで廃止になる列車における車掌さんのアナウンスのように、思い出を語り、とても情感のこもったものでした。この便の折り返しとなるJL910便羽田行きが、ジャンボによるラストフライトとなる、ということです。
那覇に着いた機内では、中本機長が乗客との記念撮影に応じたりして、交流を深めていました。中本機長も地元のサッカーチームに参加していて、しかもこの前夜には、サッカー日本代表がアジアカップ優勝と、やはりサッカーに縁の深いところを感じさせましたね。
そして、折り返し便となるJL910便が、羽田に向けて出発します。
離陸していく姿を、同じくJL907便に乗っていた航空ファンの方々と送迎デッキで見送りました。
中本機長はこの後、グループ会社のJ-AIRに移り、エンブラエル170(E170)の機長になるそうです。
このエンブラエル170(E170)、客席数は76席とジャンボ(B747-400)の2階席とほぼ同じ。いきなりのスケールダウンということになります。むしろそれだけジャンボが大きい、ともいえますね。
最後の乗務とあって、中本機長からはお手製のカード(写真左上)に加え、パイロットだけしか持っていないので、なかなか入手できない操縦席のステッカー(写真右上)、そして搭乗券に乗務していたパイロット全員のサインを頂きました。4人の名前が書かれていますが、下段の2人はOJT(那覇線乗務予定で、同乗してルートの習熟を図る)で乗っていたパイロットの方々です。4人が操縦室にいるというのも、また珍しいこと。
こうして、咲村にとっての「ジャンボ乗り納めフライト」は終了した訳ですが、日本航空にとっての最終フライトは3月1日の那覇発成田行きのJL3098便。そして国際線の最終フライトは2月28日のハワイ発成田行きのJL75便が最終です。JL75便の成田着は翌日の13時25分、そしてJL3098便は13時15分成田着なので、3月1日は13時過ぎに最後の日航ジャンボ2機が、相次いで到着することになります。おそらく、成田には航空ファンが集結することでしょう。
ジャンボ導入を機に変更された塗装で、初めて垂直尾翼に描かれ、以後日本航空の象徴となった「鶴丸」。それがまた垂直尾翼に復活するタイミング(2月20日に最初の機体が登場予定)で退役するというのも、何かの縁なのかもしれません。自身が再び鶴丸をまとうことはありませんが、新しい鶴丸を見届けて、ジャンボは静かに去っていきます。
全日空のジャンボも、2015年度までで全機退役予定となっており、日本の航空会社に残るのは貨物型のみとなります。時代の流れとはいえ、国内でジャンボに乗れなくなるのは、やはり寂しいものですね。残り少ない日々ですが、その勇姿を目に焼き付けておきましょう。
※機内での撮影は飛行に影響のない安全なタイミングを見計らって行っております。
飛行中の撮影は状況により危険とみなされることがあります。機内での撮影は客室乗務員などの指示に従って行ってください。
■ライター紹介
【咲村 珠樹】
某ゲーム誌の編集を振り出しに、業界の片隅で活動する落ちこぼれライター。
人生のモットーは「息抜きの合間に人生」
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