みなさん初めまして。咲村珠樹と申します。このたびこちらで、航空宇宙に関する趣味の紹介や、イベントなどの話題を連載することになりました。タイトルは「そらにあこがれて」と読みます。言わずもがなですが、ユーミンの「ひこうき雲」が元ネタです(^^;
小さい頃から飛行機や宇宙が好きで、将来の夢はパイロットでした。長じて、身体の面でパイロットになるには不可能だと判ったので、その夢は断たれてしまいましたが、かえって憧れはつのり、現在に至る……といった感じです。
鉄道に較べると、まだまだ一般的に知られていない航空宇宙ジャンルの趣味ですが、この連載を通じて、その魅力を伝えられたらと思っています。
さて、今年、しかもこの12月という時期に連載が始まるというのは、実はとてもいいタイミングなのです。
今年は「日本の航空100年」、そして「日本の人工衛星40年」、さらに航空自衛隊のアクロバットチーム「ブルーインパルス」発足50年という、航空宇宙にとって非常に記念すべき年なんです。9月には記念切手も発行されました。
今から100年前、1910(明治43)年の12月、東京の陸軍代々木練兵場(現在の代々木公園)で、日本初の「飛行機による飛行」が行われました。
代々木公園の南門近くにある「日本航空発始之地」碑。ここにおいて日本で初めて、飛行機が飛び立ちました。飛行したのは陸軍の日野熊蔵大尉と、徳川好敏大尉。二人の銅像もすぐ近くにあります。発始の碑は初飛行30周年記念で1940(昭和15)年、徳川大尉の銅像は1964(昭和39)年、日野大尉の銅像は1966(昭和41)年に作られました。
初飛行の日程は、12月11日から19日までの9日間。どうも19日が「公式のお披露目」で、それまでは練習と調整の期間という扱いだったようです。ライト兄弟の初飛行(これも12月でした)からわずか数年……という当時の飛行機は、非常にデリケートでなかなか飛ぶのが大変でした。雨が降ってもダメですし、風が強いとあおられてしまいます。さらにエンジン自体も信頼性が低く、よく止まってしまったそうです。実際、徳川大尉のアンリ・ファルマン機は強風にあおられて滑走中にひっくり返り、機体が壊れてしまいました。19日までは、ほとんど機体修理に忙殺されて、飛ぶどころじゃなかったようですね。雨も結構降ったようですし。
そんな中、日野大尉のハンス・グラーデ機が14日、滑走練習中に飛んでしまいます。後日にも日野大尉は飛行に成功するのですが、現在では「日本初の飛行」は19日午前の徳川大尉(午後に日野大尉)……ということになっています。これは色々調べてみると、1940(昭和15)年の航空30年記念あたりから、12月19日の徳川大尉が「日本初」という形で定着したようです。それまでは結構「12月14日に日野大尉が初めて飛んだ」という記述があり、何かのきっかけで記述が変化したみたいですね。1940年当時、徳川好敏は陸軍航空の重鎮、かたや日野熊蔵は大正の始めに予備役となり、軍から距離を置いていた……という事情もあったりしますが、今となっては真相は判りません。場合によっては「19日午前の徳川大尉が初の『公式』飛行」と表記している書物もあります。……なんか玉虫色ですね。
さて、日本で初めて空を飛んだ飛行機ですが、徳川大尉のアンリ・ファルマン機が現存しています。分解した形で陸軍が保管していたのですが、戦後米軍によって接収されてしまいました。その後、アメリカで復元された後、1961(昭和36)年に返還され、万世橋の交通博物館で展示されていたのですが、閉館後、所有者である航空自衛隊に返却され、入間基地にて保存されています。来年3月に開館する資料館の目玉展示となるそうなので、いずれまた紹介することがあるかと思います。これは交通博物館で展示されていた頃の様子。
アメリカでの復元の際、考証が今ひとつだったようで、当時の写真に写るオリジナルの姿とは、少々違っているようです。ハンス・グラーデ機は、翌年(1911年)の事故で大破して修理不能となり、廃棄されてしまったので、残念ながら現存しません。これは国立科学博物館が所蔵する、ハンス・グラーデ機の彩色写真。
この日本の航空100年を記念して、東京・上野の国立科学博物館で特別展「空と宇宙展 飛べ!100年の夢」を、来年の2月まで開催中です。開催以前から、博物館の責任者の方と話をしていたのですが、秘蔵の品を一挙公開という「科博の本気」を見せた、すばらしい特別展ですので、ぜひご覧になってください。
会場の様子です。零戦のエンジンとして有名な「栄」エンジン(展示物は特攻専用機「剣」についていたもの。ホンダのエンジニアがピカピカに整備した)や、ほぼ完全な状態で見つかった第二次大戦中の攻撃機「銀河」や夜間戦闘機「月光」の設計図、初飛行に使用されたアンリ・ファルマン機とハンス・グラーデ機のプロペラ、徳川大尉のパイロットライセンスなど、貴重な実物がズラリ。
宇宙関連では、40年前(1970年)の2月11日に打ち上げられた日本初の人工衛星「おおすみ」の予備機(実物)なども。
この「おおすみ」ですが、衛星本体は上部の銀色の部分のみで、下の黒い部分は打ち上げロケットの4段目。非常に小さいものなので、きっと驚くと思います。他に、5月に打ち上げられ、現在金星に向かっている宇宙ヨット「IKAROS」のセイル(帆)の実物も展示されているので、これも注目です。
この写真の壁面いっぱいに広げられている銀色の物体がそうなのですが、IKAROSはこれを4枚広げ、正方形のセイルにして太陽の光を受け、その圧力で飛行しています。素材のフィルムも触れるようになっていますし、セイルについている姿勢制御装置(上部に並ぶ、黄色い長方形のもの)も作動させていて、10秒おきに色が変わっているので、ぜひ楽しんでくださいね。
■ライター紹介
【咲村 珠樹】
某ゲーム誌の編集を振り出しに、業界の片隅で活動する落ちこぼれライター。
人生のモットーは「息抜きの合間に人生」
そんな息抜きで得た、無駄に広範な趣味と知識が人生の重荷になってるかも!?
お仕事も随時募集中です。
※訂正
本文中「初飛行の日程は、12月11日から19日までの9日間」とするべきところを「10日間」としておりました。訂正してお詫びいたします。