「特撮映像館」、第43回は1968年「吸血鬼ゴケミドロ」を取り上げます。

日本製の吸血鬼映画はたびたび作られているけれど、本作はタイトルから受ける印象とは違ってSF的な作品。
血のように真赤に染まった空を、羽田から伊丹に向かって飛ぶ旅客機から始まる本作は、未確認飛行物体の出現により墜落し、生き残った乗客たちの極限状態のサバイバルへと展開し、やがて未確認飛行物体に乗って地球にやって来たゴケミドロという生物によって乗客のひとりが体を乗っ取られ、ほかの乗客の生き血を吸うという状況に発展する。


旅客機が落ちた場所はどこかの山の中でラジオによれば捜索隊もその場所がわからないといい、ある意味密室劇的な環境にある。

主な登場人物はパイロットにCA、乗客である精神分析医、宇宙生物学者、政治家と懇意にしている会社社長とその妻、そしてベトナムで戦死した夫のもとに向かう途中の外国人女性、機内で爆弾を爆発させ自殺すると予告した青年、そしてゴケミドロに体を乗っ取られることになるスナイパー…。

ゴケミドロが登場しなくても充分にパニック映画として進められるような要素を含めながら、それ以上の恐怖と混乱によって生き残った人々が追い込まれていくようすを描いていく。登場人物のひとりである精神分析医は、いたずらにみなの不安をあおり極限状態に陥った人々の心理を観察してみたり、冷静だと思われた宇宙生物学者がゴケミドロの存在を知るとその吸血の現場を見たいと、生き残ったメンバーから犠牲を出すことに賛成したりする。
 
ところで本作の特撮は『マグマ大使』や『スペクトルマン』を制作したピープロが担当している。とはいえ完全に特撮部分を請け負ったということではなく、スタッフや撮影技術の提供ということのようである。しかしながら「ゴケミドロ」というタイトルや企画案はピープロの鷺素氏がもともと持っていたもののようだ(テレビ作品として企画されパイロットフィルムも作られたらしい)。
額に大きな傷をつけた人間というゴケミドロの造形(?)はインパクトが強く、演じた高 英夫のイメージとしても印象づけられている。

また本作のラストも衝撃的なものであるが、制作された当時には案外このようなラストを用意した作品が、小説や漫画などでもチラホラみられるのは確かだろう。
時代なのか、監督のスタイルなのか、いわゆる「行間を読む」映画だったような気がする。
 
監督/佐藤 肇
キャスト/吉田輝雄、佐藤友美、高橋昌也、金子信雄、キャシー・ホーラン、高 英夫、ほか。
1968年/84分/日本

(文:猫目ユウ)