人にはそれぞれ個性があります。外見からすぐ分かるものもあれば、内に秘めたものまで本当に様々。それを「目玉焼き」を使って表現してみたら……?

 ある美大生が卒業制作として、様々な個性を目玉焼きで表現した作品を作りました。形状も技法も異なる中から、自分に似た個性が見つかるかもしれません。

 多彩な個性を目玉焼きで表現したのは、圓井誓太さん。多摩美術大学グラフィックデザイン科の学生です。

 作品に添えられた文によると、毎朝作る目玉焼きに2つと同じものはなく、いろいろ違ったものができるところに「個性の愛しさ」のようなものを発見したといいます。そこで、様々な個性を目玉焼きに仮託して、それぞれの違いを楽しんでもらいたいという作品が生まれたんだとか。

40種作ったうち32種を展示(圓井誓太さん提供)

 作った目玉焼きのオブジェは40種類。卒業制作として、そのうち32種類を展示しています。

様々な形の目玉焼き(圓井誓太さん提供)

 表現された個性を見ていくと、たとえば「パンク」は黄身がトゲトゲになっており、文字通り“キミとがってるね”といった感じ。「器が大きい」は、大きく包み込むような目玉焼きになっています。

パンク(圓井誓太さん提供)
器が大きい(圓井誓太さん提供)

 また、パズルの形で表現したものもあります。“それぞれはパズルのピースのようなものだ”という「集団主義」に対し、個々が独立した存在だと考える「個人主義」は、同じ形をしていても、誇り高い孤独を感じさせます。

「集団主義」と「個人主義」(圓井誓太さん提供)

 形状はもちろんのこと、それぞれの目玉焼きは「個性」に合わせ、様々な素材や技法を使って作られています。圓井さんによると「一番スタンダードな作り方は、樹脂粘土で黄身と白身を分けて作り、合成樹脂塗料やアクリルガッシュで着色、合体させて乾燥させます。立体的なものは発泡スチロールで大まかに作り、そこに粘土で形成をしています」とのこと。

 これだけ多くの「個性」を形にしていくのは、なかなか大変だった様子。「造形ももちろん苦労しましたが私自身、就活などで個性に悩むことが多く『この作品を見た人が少しでも個性に対してポジティブに考えることができるのか』というコンセプトの部分で一番苦労しました」と、自分自身を投影する場面もあったようです。

 数ある個性の目玉焼きで思い入れのある作品はあるか、うかがってみると「個性に優劣をつけてしまうことになってしまうので、お答えできません」。どの個性も愛すべき存在だ、という思いが伝わってきました。

全てが愛すべき存在(圓井誓太さん提供)

 様々な造形に注目するのも、自分の個性に似た目玉焼きを見つけるのも、楽しみ方は自由、と語る圓井さん。こういった面からも、それぞれ違う個性を尊重し、愛したいと肯定する作品だといえるでしょう。

 指導教員であるアートディレクターの川口清勝教授からも高く評価されたという、個性の目玉焼きたち。2022年3月13日~15日に、多摩美術大学八王子キャンパスで開催される「2021年度 多摩美術大学 美術学部卒業制作展・大学院修了制作展B」にて展示されるとのことです。

<記事化協力>
圓井誓太さん(@SeitaMarui)

(咲村珠樹)