現代美術の世界では、絵画や彫刻、メディア芸術など様々なジャンルを飛び越えた、クロスオーバーな作品が見られます。一見伝統的と思える日本画でも、旧来にないモチーフや表現方法を駆使する作家が存在。
関西を中心に活動する大西高志さんも、そういったジャンルレスな作品を送り出している日本画家。二次元の絵画だけでなく、三次元と融合した作品や、ARを駆使した“動く”作品まで、文字通り旧来のジャンルやメディアといった枠組みを飛び越え、イマジネーションの世界を広げる存在です。
物心ついた頃から絵を描くことが好きで、幼少期より絵画教室に通って絵を学んでいたという大西さん。絵で身を立てたいという夢はあったものの、当時は絵の仕事が少なかったため、一旦は理系の大学に進んで製薬会社に就職しました。
社会人となっても絵を描くことは忘れなかった大西さんは、仕事の合間を縫って制作活動を続けるうち、やはり絵の仕事がしたいと27歳の時に会社を退職。絵画教室を開きつつ、作品制作に励む芸術家としての生活へ移行したとのこと。
美大や美術系の専門学校出身ではないので、日本画の技法はすべて独学。参考書で勉強しながら腕を磨いていったそうです。
ビビッドでカラフルな作風が海外からも流入している現代において、日本画の奥ゆかしさや美しさが注目されづらくなっているのではないか、と感じていると語る大西さん。「日本画の魅力を現代的なモチーフや技法を組み込むことで、今の時代にも受け入れられやすい現代の日本画を目指して」作品作りに励んでいるそうです。
たとえば「水の国」と題された作品では、手前に見える牡丹と白鳥の美しい姿とともに、奥には放流するダムと水没する建物が描かれます。美しくもあり、時には災害をもたらす「水」の二面性を表現した作品です。
また、仏法を守護する仁王が、現代で「守る力」とするのは何か?と問いかけるのが「IT武装」という作品。タブレット端末にハンズフリーヘッドセットを身につけ、情報こそが現代の「力」であることを思わせます。
日本に防衛のため「武装」は本当に必要なのか?と問いかけているのは、ガスマスクを装着した仁王像が機関銃を構える「国武装」。防衛には直接的な軍事力のハードパワーと、外交交渉や文化などで戦わずして対立を鎮めるソフトパワーがありますが、日本はどのような武器を手にして国際社会に臨むべきなのでしょうか。
作品で印象的なのは、あでやかで様々な表情を見せる赤。古来から日本では魔除けの色とされ、神社仏閣などでも多く見かけますが、そこに「日本古来の独特な美しさ」を見いだし、象徴的に使っているとのこと。
奥行きを表現する洋画と比較し、平面的に描写するのが日本画の特徴。ここに大西さんは、日本画の平面的な描写をいかしつつ、遠近法を使って奥行きを出すだけでなく一部に石粉粘土を使い、文字通り立体的な表現を取り入れました。
鹿の角が画面から飛び出し、梅の枝へと変化していく様は、二次元の絵画から三次元にダイナミックに移行する面白さが見て取れます。立体としての華やかさと、丹念に描かれた鹿と梅、3つの絵が繋がっていくところもユニークな発想です。
作品は、二次元の平面と三次元の立体が同居するだけではありません。高野山の麓にある和歌山県九度山町で開催される「くどやま芸術祭」で総合ディレクターを務めている大西さんが、2021年のメインビジュアルとして制作した「頂に舞い降りる」では、AR(拡張現実)の仕掛けが取り入れられています。
高野山を開いた空海が鳥となり、麓の九度山に残した母を訪ねて舞い降りてきた……というダイナミックな動感を表現した作品。スマホやタブレットのカメラ越しに見ると、鳥が絵から抜け出し、周囲を飛び回る様子が見られます。
平面から立体、そしてARと、メディアやジャンルの枠を超越し、イマジネーションの世界を拡張していく大西さんの作品。2022年5月25日~31日に大阪の阪神百貨店梅田本店で開催される「くどやま芸術祭@阪神百貨店(タイトルは仮のもの)」でも、作品が展示予定とのことです。
日本画を描いておりますが、途中から立体になっている半立体の作品等も作っております🎨 pic.twitter.com/qvGKiGU9C8
— 大西 高志 (@onishi_takashi) March 6, 2022
<記事化協力>
大西高志さん(@onishi_takashi)
公式サイト「凜とした世界」(http://rinto.main.jp/)
(咲村珠樹)