日本はいたるところで自販機が稼働しており、世界でも珍しい自販機天国。なかでも、温かい食べ物を調理・販売する自販機を取り揃えた、無人の「オートレストラン」などと呼ばれた店舗は、1970年代〜1980年代を中心に全国で目にすることができました。
その当時に作られた自販機、通称「レトロ自販機」を求めて全国を回り、書籍も上梓しているのが魚谷祐介さん。レトロ自販機に魅せられたきっかけや思い出など、色々うかがいました。
10代の頃から自転車やバイクで旅をしていたという魚谷さん。その際、雨宿りや休憩などで自販機コーナーにお世話になったことがあったのだとか。
「フェリー埠頭で食べたハンバーガーが原体験です。消えてしまう前にホームページなどに記録を残そうと、2007年ごろから活動を始めました」
全国に散らばるレトロ自販機。どのように、存在する場所の情報を得ているのでしょうか。魚谷さんはいつも旅をしていると語り、それと同時に2人の偉大な「レトロ自販機のプロ」がいると教えてくれました。
「東に自販機の救世主・斎藤さん、西に自販機の神・田中さんがいて、自販機の情報は即入ってきます」
ネット社会になり、情報の共有速度が飛躍的に高まったことで、レトロ自販機を愛するもの同士の交流も密になっている様子。旅の空でも、変わらず自販機の情報は入ってくるそうです。
特に魚谷さんが愛しているのは、温かい食べ物が調理されて出てくるタイプの自販機。レトロ自販機ファンにとっては「定番」とされる富士電機製めん類自販機や、ハンバーガー自販機(箱に入ったハンバーガーが加熱されて出てくるもの)、レアなものでは川鉄製のカレーライス自販機(レトルトカレーを温めたご飯にかけて提供する凝った仕組み)、シャープ製のめん類自販機などで、1980年前後のものだそうです。
これら自販機は24時間営業のコンビニが全国に広がる以前、各地の街道沿いに作られたドライブインなどの自販機コーナー(「オートレストラン」と名乗っていたものも)に並んでいたもの。夜遅くでも温かい食事ができるという利便性で、トラックドライバーや旅する人々の癒やしとなっていましたが、今でも稼働し続けているのです。
製造から40年以上が経過しても元気に稼働し続けているレトロ自販機は、オーナーさんによる日頃の手入れや、メンテナンスをかって出てくれる方の賜物。魚谷さんは全国の自販機オーナーさんにお会いしているそうですが、つい先日、自販機の救世主・斎藤さんが自販機の神・田中さん(レトロ自販機が稼働するお店「オアシス」店主)に会いに島根県益田市を訪れた、というエポックメイキングな出来事もあったのだとか。
レトロ自販機をとりまく現状について、魚谷さんは次のように話してくれました。
「TVでも盛んに取り上げられ更に人気は高まるんじゃないでしょうか。日本らしさが失われてきた現代に、昭和の趣は癒やしを与えてくれます。維持していくことは以前はとてもむずかしいと思っていましたが、今では頼もしい齋藤さんがいるので当分は心配ないと思っています」
この記事をはじめ、さまざまな手段でレトロ自販機の存在を知り、実際に訪れてみようという方も少なくないでしょう。ただし、相手は長年稼働し続け、多少くたびれた機械です。魚谷さんは次のような注意点を挙げてくれました。
「コイン投入口が古くなっているのでコインはゆっくりと。動画などを撮影するときにはお店に断ってから他人に迷惑にならないようにしてください」
自販機をいたわり、そして同時に現在まで稼働状態を維持してくれたオーナーさんへの敬意は忘れないようにしたいですね。もちろん、ほかの利用者の迷惑になるのも売り上げ減につながる恐れがあるので、避けた方が無難です。
魚谷さんは2022年10月7日、書籍「新・懐かし自販機大全」を辰巳出版から上梓。全国に散らばるレトロ自販機の魅力がぎゅっと詰まった1冊になっています。
2022年11月現在はレトロ自販機探訪のため、山陰地方を車で巡っているという魚谷さん。衰えない探究心と情熱が、レトロ自販機たちを包んでいるような気がします。魚谷さんのサイト「懐かし自販機」には、全国のレトロ自販機情報が網羅されているので、探訪したい方は必見です。
<記事化協力>
魚谷祐介さん(@onsenjazz)
(咲村珠樹)