「うちの本棚」四十二回目となる今回は、ホラー系作品を多く描いていた黒田みのるの社会派パニック作品を取り上げます。
表題作の『大地震』は、関東に巨大地震が起こったその瞬間と前後をオムニバスで描く4章から構成されたもの。
さまざまな状況、環境で地震に遭遇した人々を描いたシュミレーションドラマと言っていいだろう。
昭和49年といえば、関東に大地震が起こるだろうと不安がられていた時期(これはいまも続いているのだが、いつきてもおかしくない大地震はすっかり人々の意識からは忘れられているようです)。「少年マガジン」で永井 豪の『バンオレンスジャック』が連載されていた時期と重なる。
住宅密集地での地震後の火災に追われる人々や、ビル街で降ってくる窓ガラスの破片に傷つく人々など、その瞬間に考えられるさまざまな状況を描いている点で、単にパニック作品として地震を扱っているものではないことがうかがえる。
黒田みのるは怪奇漫画家としても知られ、大半はホラーコミックと言っていいが、本作のような社会派の作品も発表しており、ホラー系作品でも自分の主張を盛り込んだ作品がいくつかあったと記憶する。
残念なことに黒田の作品のほとんど、いやすべてと言っていいが、現在入手が困難である。ホラー作品の大家として一時代を築いた作家だけに寂しい状況といえるだろう。
併録の『遺産管理人』はそんな黒田本来のホラー系作品。単行本収録に際して後半を大幅に描き変えてあるとのことで、初出時とはだいぶ印象の違う作品になっているようである。
書 名/大地震 著者名/黒田みのる 収録作品/大地震、遺産管理人 発行所/芸文社 初版発行日/昭和49年8月12日 シリーズ名/芸文コミックス |
■ライター紹介
【猫目ユウ】
ミニコミ誌「TOWER」に関わりながらライターデビュー。主にアダルト系雑誌を中心にコラムやレビューを執筆。「GON!」「シーメール白書」「レディースコミック 微熱」では連載コーナーも担当。著書に『ニューハーフという生き方』『AV女優の裏(共著)』など。