マスクをしていても自分のすぐ近くで咳をされると、「風邪?うつらない?」と気になる人って多いと思います。しかし咳が出る原因はさまざま。その咳が出る原因を知らせるマークが、ぜんそく患者を中心に注目を集めています。
■ きっかけは周囲からの視線
このマークを制作して販売しているのは、ぜんそく患者の当事者であるNagaさん。Nagaさんは、20代半ばから原因不明の咳が続くようになり、あちこちの内科や耳鼻科で診察を受けていました。
気管支炎と診断されても一向に治らない咳。やっと「ぜんそく」と診断されたのは、発症してから数年、症状が出始めてから診断に到るまで実に十数年が経過していたといいます。それから十年弱、今も治療を受けています。
ぜんそくマークを作ったきっかけとなったのは、Nagaさんが発したあるツイート。
“もう、一日中咳が止まんないので、通勤中の電車の中とか、すごい申し訳ない気分になる…。
「いえ、あの、これ喘息なんで、移らないんで、みなさん、大丈夫ですからー!!」って叫びたい気持ちをグッとこらえ、今日も周りの迷惑そうな視線にさらされてる私です…w”
このツイートを見たNagaさんのフォロワーさんと、Nagaさんの会話の中で、「ぜんそくマーク」の発想が持ち上がりました。吸入薬も内服も怠らず療養していても、発作が出始めるとしばらく止まらないのがぜんそくの咳。Nagaさんもその咳に苦しめられている一人です。
「ぜんそくマーク」の発想が固まったところで、古くからの友人でIT系インフルエンサーのGOROman氏から「pixivFACTORYでオリジナルバッチをつくってBOOTHで販売したらいいんじゃないか?」というアドバイスをもらったそう。そこでNagaさんがラフイメージを描き、クリエイターのフォロワーさんによって画像データがカラーリングされました。
Nagaさんの、「その画像データをもとに、自分でpixivFACTORYで注文してみて、自宅に届いた出来上がりを確認してみたら、想像以上に素晴らしくて、さっそくカバンにつけて会社に行ってみようと思ってつぶやいたツイート」が、ぜんそくマークの缶バッジを付けた写真とともに投稿されたツイート。
https://twitter.com/Naga_3003/status/1185534714456576001
■ 共通の悩みを抱える人たちから「このマーク欲しい」の声
Nagaさんのフォロワーさんの中にもぜんそく持ちの人がいたり、たまたま目にした人たちによって「このマーク欲しい」という声が広がっていきました。ぜんそく患者にとって共通していることは、
・発作が出て吸入薬を使ってもすぐに咳が止まらず、周りの視線がつらい
・風邪の咳と間違われやすく、迷惑そうな顔をされる
・空気の乾燥やストレスで発作が出て、自分で咳をコントロールすることができない
といったものが主な悩み。しかし、周りからの見た目だけでは、ウイルス性のうつる咳が原因なのか、そうでないのかは分かりません。ぜんそく患者にとって、「この咳は人にうつるものではありません」というアイコンは、周囲への理解を得るためのお守りのような役割を果たしてくれます。
■ マークの効果は?
Nagaさんにぜんそく発作が出た時の実際の周りの雰囲気を聞いたところ、「やっぱり、『こんなとこで咳き込むなよ』とか『うつるんじゃないか?』とか思われてそうだなぁ…っていう、迷惑そうな視線ですかね。あとは、電車なんかだと、露骨に嫌そうな顔をされて席を立っていかれたり、車両を移動されたりしたこともありましたね」と、外出先や電車内などで居心地の悪さを感じていました。
マークができあがり、さっそく通勤時にカバンに付けてみたというNagaさん。今のところ、席を立たれたり、車両を移動されたりしたことは一度もないそうです。
付け始めてからまだ10日ほどだということなので、大きく変化しているかまでははかりきれないようですが、マークを周囲に見てもらうことで、「うつらない咳」と認識してもらうのは、周囲の人にとっても安心につながりそうです。
■ 「何か配慮して欲しいというよりは、単に誤解を解きたい」
ぜんそくは、幼児期の時から発症する「小児ぜんそく」と成人してから発症するものがあります。小児ぜんそくの場合、多くは成長とともに治っていくことが多いのですが、中には大人になってもぜんそくを引きずってしまうケースもあります。
そして、大人になってからの発症はアレルギー性のものもありますが、ストレス反応としてのぜんそく症状が固定化してしまい、そのままぜんそくと診断されることも。一昔前までは、空気汚染による公害が原因のぜんそくが多くいましたが、最近では公害によるぜんそくは減少傾向にあります。
ぜんそく患者は40代前後が一番多く、男女比は男性よりも女性の方が2倍という統計も出ています。ぜんそくとよく似たもので、「咳ぜんそく」というものがありますが、こちらはぜんそく特有の気管支の「ゼーゼー音」「ヒューヒュー音」がなく、風邪を引いた後に咳だけが治まらない状態。気管支が若干狭まった状態によって咳を引き起こすものです。主な原因は、季節性のアレルギーや、上気道感染などの感染症、タバコの煙(主に受動喫煙)、気温・湿度変化、会話、運動が引き金になることなど。夜間や早朝に悪化しやすい傾向があります。
ぜんそくと咳ぜんそく、いずれも周囲にうつるものではありませんが、周囲にむけての誤解を防ぐためにも、こうした分かりやすいアイコンで周囲にアピールすることは、お互いの精神的な不快感からも守ってくれるように思います。
現在、Nagaさんは子ども用のぜんそくマークのデザインや、ぜんそく以外でも使えるマークも考えているそうで、使う人の好みや状況に応じて使ってもらえれば、と話しています。
また、「私としては、特に何か配慮して欲しいというよりは、単に誤解を解きたいというのから始まっているので、そんな感じで、なんとなく、『そうだよね、そうだよね、みんなそれぞれ抱えてる事情があるよね、それが可視的になって、一目見てわかるのっていいよねー』くらいの感じで広まっていってくれたらな、っていう想いです」と、このマークによって誤解が解け、相互理解が深まることを望んでいるそうです。
さまざまなピクトグラムやアイコン、マークなどが増えつつある昨今ですが、こうしたマーク類はとっさに声を出せない時、周囲に向かって一人ひとりに話す状況ではない時に、その状態を可視化するという意味を込めているので、ヘルプマークや聴覚過敏マーク、マタニティーマークなどとともに、必要とする人にとってのお守りとなることでしょう。
<参考>
独立行政法人環境再生保全機構 ぜん息などの情報館|患者調査(厚生労働省)
日本医科大学 呼吸ケアクリニック 気管支ぜんそく/咳ぜんそく
<記事化協力>
Nagaさん(@Naga_3003)
(梓川みいな/正看護師)