おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

よかれと思って…患者の処方薬を捨ててしまう家族たち でもそれってすごく危険なことなんです

 違法薬物や麻薬等の騒ぎが目立つ昨今、市販薬や処方薬についても不安や疑問を持つ人が世間にはいるようです。しかし、処方薬は医師から適切に処方されるものなのですが……。一人の薬剤師が、ある現象について危機感をツイッターに投稿しています。

  • 「『違法薬物』という言葉が巷を騒がす度に『お前も薬物中毒だ!薬物依存症なんだよ!』と処方薬をご家族や恋人に捨てられてしまう患者さんが増えます。
    継続していた薬を突然やめるのはとても危険です。

    『薬なんかなくても眠れるわよ!』
    『気持ちを強く持て!』

    お願いです
    追い込まないで下さい」

     そんな訴えをツイートしているのは、薬剤師のメルモさん。世の中にそんなことを言う人がいるなんて……、と思う人もいるかもしれませんが、実際にこういうことは起こっています。

     処方薬を取り上げる家族側としては、悪意があって行っているわけではなく「家族のためによかれ」と思って行動しています。その行動の原因は、病気に対する誤解や偏見、人から聞かされた間違えた知識、そして処方薬に対する知識の乏しさから来る不安などがあってのことと思われます。

     この手のパターンで特にやっかいなのが「知人から聞いた知識」。専門家ではないにも関わらず、「○○の薬なんて体にいいわけない!」「余計酷くなる!」「子どものことを思うなら飲ませちゃだめ」なんて、患者を抱える家族に無責任にもアドバイスする人は少なくないのです。

     酷いときは「○○の病気なら○○のサプリや食べ物の○○がいい」「○○の水がいいらしい」なんてことを言ってくる人も。ちなみに、筆者がこの手で聞いた酷い話1位は「いい祈祷の先生がいるから紹介しようか」です。第2位は「○○に病をなおす良い滝がある」となっています。

    ■ 素人判断の断薬は危険

     さて、話を戻しますが、この手のことで誤解を受けやすい最たる例が精神系の処方薬です。それを元に、素人判断での断薬の怖さについても少し説明を。

     精神系の薬は非常に多くの種類があり、即効性のある抗不安薬や睡眠薬を使いながら、その人の疾患の本体に威力を発揮できる薬を使うのが一般的なパターンです。うつや、その他の精神疾患に効果がある薬は、即効性がないものがほとんど。1か月くらいかけて徐々に効果を発揮しはじめるのです。しかし、効果が出始めるまでの期間がある程度あることから、周りにいる人は不安になります。そこでやめさせようということになるわけですが……。

     症状が軽快してきても同様に、止める時もゆっくりゆっくりを減らしていかないと、急激な薬の血中濃度の変化により、脳の精神をつかさどる部分にかなり大きな悪影響を及ぼします。精神をつかさどる脳に効果を発揮している薬を突然やめさせたら発狂した、自殺してしまった……そういう例も実際に起こっています。投薬量を急激に変化させると、車の急発進・急ブレーキと同じようにガクンと大きな衝撃が精神に起こってしまうのです。つまり、素人判断での断薬は危険ということ。このために薬を管理する、医者や薬剤師が存在しているのです。

     そもそも処方薬は、自分の故障した部分を少しでも治すために使われる治療の補助をしてくれるもの。正しく使うことで、故障した部分を治す手助けをしてくれるもの。例えば胃が痛い時にどうして痛いのか、原因が分かっていればそれに見合う薬を使うのと同様のこと。

     治療のために正しく薬を使っている人は、どれだけその期間が長くても「薬物中毒」ではありません。気持ちを強く持ったり、よく眠れるようにするための補助を付けているに過ぎないだけです。精神疾患以外でも、ぜん息や免疫系の疾患など、一生薬を使い続ける必要がある人もいます。

     どうか、患者さん自身も「自分に必要だから処方してもらって飲んでいる」と、自分を守る気持ちを持ってください。そして、どのような薬でも、治療のために飲んでいる薬は「薬物中毒者の濫用」と一緒くたにしないよう、周りの人も正しい知識を得て、不安から解放されると、患者さんとの相互理解がより一層進むのではないかと思います。

    <記事化協力>
    メルモさん(@okusurinokikime)

    (梓川みいな/正看護師)

    あわせて読みたい関連記事
  • セルフケアに積極的な新社会人はワークライフバランス重視の“二刀流”!?第一三共ヘルスケアの調査で明らかに
    社会, 経済

    セルフケアに積極的な新社会人はワークライフバランス重視の“二刀流”!?第一三共ヘ…

  • HPVワクチンのキャッチアップ接種、期間が延長されているの知ってた?
    社会, 経済

    HPVワクチンのキャッチアップ接種、期間が延長されているの知ってた?

  • 井上咲楽さん公式Xより
    エンタメ, 芸能人

    女優・井上咲楽、気づくと右目が緑色に!心配の声が上がるも「大丈夫なやつです」

  • Geroさん公式X(@Gero2525)より引用
    エンタメ, 芸能人

    Geroさん、尿路結石再発も「ビッグサンダーマウンテン療法」に異論

  • (写真左から)江崎グリコ株式会社 健康イノベーション事業本部 商品開発部の池田紀子さん、日本料理店「和敬」店主の竹村竜二さん、江崎グリコ株式会社 執行役員の木村幸生さん
    企業・サービス, 経済

    江崎グリコ、「おいしく減塩」に挑戦 減塩食品の革命を宣言

  • 「カロリAI」で食事の写真を読み込ませた画面。AIが分析して材料や量、カロリーを推定する
    インターネット, サービス・テクノロジー

    カロリー管理続かない人が作った「カロリAI」が話題に 管理をスマート化して“自分…

  • ジョンソン・エンド・ジョンソン「人生100年時代のヘルスリテラシー白書」公開!デジタルツールの活用が都市圏で拡大
    企業・サービス, 経済

    「人生100年時代のヘルスリテラシー白書」公開 デジタルツールの活用が都市圏で拡…

  • ICIによるがん免疫療法のいまとこれから
    企業・サービス, 経済

    がん治療“第4の柱”「免疫チェックポイント阻害薬」製薬会社がセミナー開催

  • 思春期男子の睾丸の痛みは我慢せずすぐに受診を 泌尿器科医が注意喚起
    インターネット, 雑学・コラム

    思春期男子の睾丸の痛みは我慢せずすぐに受診を 泌尿器科医が注意喚起

  • 東京・有楽町駅前広場にオープンする「塩対応食堂」(期間:2024年5月9日~11日)
    イベント・キャンペーン, 経済

    「塩対応食堂」有楽町に期間限定オープン “塩対応料理”を無償提供

  • 梓川みいな看護師(正看護師有資格者)

    記事一覧

    一般内科、呼吸器科、整形外科、老年科、発達障害などを得意とする。医療・介護福祉等に高反応。雑多なネタも紹介していきます。
    娘二人(ともに発達障害あり)とネコ二匹の母。シングル。

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • 災害ボランティアに行く前にやっておくべき大切なこと
    社会, 雑学

    災害ボランティアに行く前にやっておくべき大切なこと

  • お餅での事故を防ぐ ここがポイント!(出典:政府広報オンライン)
    社会, 雑学

    お餅での事故を防ぐ 3つのサインと3つのポイント!

  • 巨大イベントへ遠征に行ったらインフルエンザを拾ってきた話(画像:イラストACより)
    ライフ, 雑学

    巨大イベントへ遠征に行ったらインフルエンザを拾ってきた話

  • 【ナースなコラム】MRIに禁忌なアレコレ え?増毛パウダーも!?
    ライフ, 雑学

    【ナースなコラム】MRIに禁忌なアレコレ え?増毛パウダーも!?

  • みかんは体に良いってほんと? 効能は?適量は?
    ライフ, 雑学

    みかんは体に良いってほんと? 効能は?適量は?

  • 【看護師コラム】実はこれやっちゃダメなんです!処方薬の使いまわし
    ライフ, 雑学

    【看護師コラム】実はこれやっちゃダメなんです!処方薬の使いまわし

  • トピックス

    1. “視える世界”を歩く 霊能者監修「視える人には見える展 -零-」体験レポ

      “視える世界”を歩く 霊能者監修「視える人には見える展 -零-」体験レポ

      人には見えない“何か”を視ることができる人たちの目には、どのような景色が写っているのでしょうか。そん…
    2. 夏の救世主!リュウジさんの「やけくそチャーハン」はレンジで2分の革命飯

      夏の救世主!リュウジさんの「やけくそチャーハン」はレンジで2分の革命飯

      毎日暑い日が続くと、火を使う料理が億劫になるもの。そんな時におすすめのレシピを、料理研究家のリュウジ…
    3. 愛犬の誕生日に“狂気のケーキ”を手作り ホラーすぎて家族が悲鳴

      愛犬の誕生日に“狂気のケーキ”を手作り ホラーすぎて家族が悲鳴

      あらゆる意味で一生忘れられない誕生日になりそうです。4歳のシーズー犬「てんぽ」ちゃんのため、飼い主さ…

    編集部おすすめ

    1. 「M3GAN/ミーガン 2.0」公式サイトは日本公開中止の告知のみの画面に

      映画「M3GAN/ミーガン 2.0」日本劇場公開が突如中止 理由は不明

      10月10日に日本での劇場公開が予定されていた、映画「M3GAN/ミーガン 2.0」の公開中止が発表されました。8月1日に映画の公式サイトと…
    2. 「RO」シリーズ最新作「Ragnarok Online 3」、フルゲームプレイトレイラーが初公開

      ROシリーズ最新作「Ragnarok Online 3」、フルゲームプレイトレイラーが初公開

      GRAVITYは7月31日、開発中の新作MMORPG「Ragnarok Online 3」のフルゲームプレイトレイラーを公式YouTubeに…
    3. 防衛省、観閲式など原則中止 厳しさ増す安全保障環境を理由に

      防衛省、観閲式など原則中止 厳しさ増す安全保障環境を理由に

      防衛省は7月30日、「今後の観閲式等について」と題した文書を公開。観閲式、観艦式、航空観閲式について、今後は開催しない方針を明らかにしました…
    4. 朴璐美さん、新幹線で“とんでもない席トラブル”に遭遇 駅弁楽しむはずが…

      朴璐美さん、新幹線で“とんでもない席トラブル”に遭遇 駅弁楽しむはずが…

      アニメ「鋼の錬金術師」エドワード・エルリック役などで知られる声優・朴璐美さんが、7月27日に自身のX(旧Twitter)を更新。新幹線車内で…
    5. 男性記者が“生理痛”を疑似体験 ツムラの「#OneMoreChoice プロジェクト」で見えた“隠れ我慢”のリアル

      男性記者が“生理痛”を疑似体験 ツムラの「#OneMoreChoice プロジェクト」で見えた“隠れ我慢”のリアル

      生理やPMS(月経前症候群)などの不調を我慢せず、自分に合った「もう一つの選択肢」を持てる社会を目指すツムラの取り組み「#OneMoreCh…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト