今回語るのは、小川みどり先生の『トマトジュースあふれた?』です。タイトルが絶品で、トマトジュースを意識したカラーの表紙の絵も綺麗で、いわゆる「ジャケ買い」をしました。これが、読んでみると、胸が痛むような三角関係を描いた漫画だったのです。
【関連:家庭教師のおにーちゃんに、金髪外人の転校生『日曜日はげんき!!』】
少女漫画といえば、ヒロインがクラスメイトの男子に片想いをして。そして、その片想いの相手には幼なじみがいて……。という形式が王道だと思います。当然、『トマトジュースあふれた?』もそうなのですが、ヒロインの岸このみが片想いしてしまう長尾厚樹くんには、17年間ずっとペアを組んでいる幼なじみの川崎由梨がいます。
この由梨ちゃんが、一途で、おしとやかで、とっても可愛いのですよ。ボーイッシュでトマトのような色黒の顔のこのみが、この長尾と由梨の間に割って入ってくるのですが……。結末は、本を読まれて確認されてください。
特筆すべきは、キャラクターの心理描写です。カットを幾つも使って繊細に描かれています。また、カット割りも映画のようで、構図も角度があちこち変わります。一つ一つのコマが印象的で、手描きということもあり、アート性も高いと思います。服のデザインも洋画に出てきそうな綺麗なものです。個人的には、このみの着ているナイフとフォークの柄のエプロンのデザインがレトロで好きです。70年代のロシア映画にでも出てきそうです。
長尾くんの実家はケーキ屋さんでケーキを焼くことができるという特技があります。その長尾くんは、アメリカに行くことになるのですが……。そういった点では、『耳をすませば』と少し類似している部分があるかもしれません。
この時代の少女漫画は、例えば、長身とか背が低いとか、そばかすがあるとか、男勝りとか、コンプレックスを持つヒロインが主人公という話が結構あるように感じます。バブルで余裕があり、商業主義的すぎない時代だったのかもしれません……。
しかし、三角関係で残された娘はどうなるのか……と考えると胸が痛いですね。
書 名/トマトジュースあふれた?
著者名/小川みどり
出版元/集英社
定 価/340円
初版発行日/1980年6月30日
(文:川上竜之介)