10月25日、茨城県小美玉市の航空自衛隊百里基地で、第30回航空祭が開催されました。昨年は航空観閲式があった為、百里基地の航空祭は2年ぶりの開催となります。
当日は岐阜基地(岐阜県)、築城基地(福岡県)でも航空祭が開催され、航空自衛隊の航空祭が同時に3ヶ所で開催されるという珍しいことに。ブルーインパルスは築城基地の航空祭に参加しました。ブルーインパルスがいない為、来場者は少々期待はずれのような感じもありましたが、その分所属各部隊が頑張ってくれました。
快晴の空のもと、天候偵察を兼ねたT-4練習機によるオープニングフライトの後、百里基地に所属する各部隊の航空機が編隊航過飛行の為、次々離陸します。
この際、各飛行隊の編隊長が思い思いのアナウンスをしていきました。第501飛行隊は最後に「ハッピー・ハロウィン!」とあいさつ。中でも出色だったのは、百里救難隊でした。民間航空会社の便に乗った際に聞かれる「機長アナウンス」の体裁で
「百里救難隊をご利用くださいましてありがとうございます。当機は定刻通り……(中略)茨城空港到着は、9時45分を予定しております」
と、茨城空港(百里基地)行きの便という設定で航過予定時刻を知らせる徹底ぶり。実際のところ、我々が「百里救難隊を利用」する際は、命の危険があって救出してもらう場面ですから、航空祭ならではと言えるアナウンスでした。
これとは別に、第305飛行隊のF-15Jが2機離陸。機動飛行を見せます。飛行隊の配置換えの為、第305飛行隊は来年度から宮崎県の新田原基地へ転出します。1978(昭和53)年の部隊新編から長年ホームとしていた百里で、第305飛行隊がF-15による飛行展示を行うのは、今年が最後の機会。会場へのアナウンスでも、再三「305飛行隊のF-15による機動飛行は今年で最後」と言及していました。
編隊航過飛行、まずは第302飛行隊のF-4EJ改、第305飛行隊のF-15J、第501飛行隊のRF-4Eが2機ずつ、計6機によるデルタ編隊。
続いて編隊を組み替え、3機ずつの編隊に。一方は降着装置を下ろしたダーティコンフィギュレーション、もう一方は通常の状態でやってきます。降着装置を下ろしていると空気抵抗が大きく、姿勢を維持して編隊を組むのは大変ですが、ピッタリ合わせてきました。
この後は、百里救難隊の救難捜索機U-125Aと救難ヘリコプターUH-60Jが編隊を組んで航過します。ジェット機であるU-125A(巡航速度:時速約820km)は、速度の遅いUH-60J(最大速度:時速約265km)と編隊を組むので、着陸時のような失速寸前の遅い速度で飛行しているのですが、風の方向がクルクル変わって定まらない上、すぐ隣でヘリコプターが空気をかき回して飛ぶ中、全くブレずにゆっくり飛ぶ姿はすごいの一言。ジェット機が遅く飛ぶのは大変なんです。
航過飛行終了後、百里救難隊はそのまま捜索救難展示に移行します。UH-60Jからは救難員(メディック)が自由降下傘MC-4で降下。このパラシュートは、陸上自衛隊の第一空挺団で使われているものと同じです。
この後、担架をUH-60Jでホイスト収容するなどの展示が行われました。
救難隊の展示に続いては、第302飛行隊のF-4EJ改によるスクランブルと空対地射爆撃のデモンストレーション。低空で迫力ある機動を見せます。
各機とも、着陸した後は来場者の声援に手を振って応えます。
第501飛行隊のRF-4Eは戦術偵察の実演。今までは上空から会場を記念撮影し、午後にその写真を展示していたのですが、今回は模擬撮影にとどまりました。
お昼には、茨城県立水戸商業高校のチアダンス部「ブルー・トゥインクルズ」によるチアダンスも披露されました。
地上展示機を見てみましょう。百里救難隊では、創設50周年の記念機を用意していました。部隊エンブレムのモチーフになっているミミズクと梅の花がデザインされています。
近頃、百里に集まるスポッターの間で話題になっている、洋上迷彩(試験)塗装のRF-4E・901号機も展示されていました。以前、三沢の第8飛行隊でF-4EJ改に施されていた洋上迷彩とはパターンが違い、F-2に近いオリジナルのパターンを模索した感じ。これまでの洋上迷彩よりもブルーの色合いが明るいのが特徴で、他の機に波及するかは未定のようです。
この他の地上展示は、航空自衛隊では
F-2A(三沢・第8飛行隊)
T-7(静浜・第11飛行教育団)
T-4(百里・第302飛行隊)
T-400(美保・第41飛行隊)
KC-767J(小牧・第404飛行隊)
CH-47J(入間・入間ヘリコプター輸送隊)
海上自衛隊からはP-3C(下総・第203教育航空隊)、陸上自衛隊からはOH-1(立川・東部方面航空隊)が地上展示で参加していました。
格納庫内では、F-4EJ改、F-15などの装備品展示やコクピット公開が行われました。第302飛行隊のF-4EJ改コクピット公開には、往年の名作まんが『ファントム無頼』で西川・水沢ペアの乗機として登場する320号機が。
また、百里基地周辺自治体(4市1町)の観光ブースも。行方市は焼き芋が大人気、石岡市は公認マスコットキャラの「いしおか恋瀬姫」のグッズ販売。恋瀬姫は、市内を流れる恋瀬川にちなんだネーミングです。
偵察航空隊の展示では、9月の関東・東北豪雨で鬼怒川・八間堀川の堤防が決壊するなどし、広範囲が浸水した茨城県常総市の被害状況を第501飛行隊のRF-4Eが機首下面のパノラミックカメラで撮影した写真など、今までに出動した際に撮影した写真が並びます。常総市の写真は地元、そしてつい1ヶ月余り前の出来事ということもあり、来場者の注目を集めていました。
各飛行隊のパイロットたちは、気軽にサインや記念撮影に応じてくれます。それぞれ行列ができていました。
F-4EJ改とF-15Jは午後にも機動飛行を実施。今年度限りで百里基地を去る、第305飛行隊のF-15Jが惜別のショウストッパーとなりました。
飛行展示終了後、第305飛行隊のパイロットたちは、隊舎前で隊旗をバックに記念撮影。梅を部隊マークにしている為に「梅組」と呼ばれ、長年親しまれた部隊が、百里での最後の航空祭を終えました。
第305飛行隊のマークとなっている「ねじ梅」は、前身の第206飛行隊マークだった「梅鉢」同様、水戸・偕楽園の梅をモチーフにしたもの。移転先の宮崎県児湯郡新富町・新田原基地近くには、天然記念物の「湯之宮座論梅」があります。梅にちなんだ場所に移転することになる訳ですね。
第305飛行隊と入れ替わりに、新田原基地からは、かつて百里で新編された第301飛行隊が戻ってきます。2020年まで、百里基地はF-4系(F-4EJ改・RF-4E・RF-4EJ)を集中運用する「ファントム・ネスト(ファントムの巣)」と化します。
F-4EJ部隊は、発祥の地である百里で、最後の日々を過ごすことになるようです。
(文:咲村珠樹)