10月18日に相模湾で行われた第28回自衛隊観艦式。今回はFLEET WEEKに引き続き、観艦式についてご紹介します。なお、取材を行ったのは10月15日に実施された2回目の予行でしたので、特記のない限り、使用されている写真や映像は15日に撮影されたものです。

取材のために乗艦したのは、掃海母艦うらが(MST-463)。観艦式では、観閲艦であるくらま(DDH-144)の直後に位置する随伴艦を務めます。朝の8時45分に横須賀・船越地区を発ち、横須賀の他、横浜、木更津の各港を出た他の艦艇と共に、浦賀水道を経由して観艦式の行われる相模湾を目指しました。
観艦式が行われる海域までは、およそ3時間。参加する艦にそれぞれ体験航海で乗り込んだ一般の人々にとっては、ずっと船に揺られるだけでは飽きてしまいます。この間、各艦では装備品の操法展示や、一部の艦では音楽隊による演奏会が行われました。

【関連:観艦式2015・FLEET WEEK】

127mm砲の操法展示をするこんごう(DDG-173)

127mm砲の操法展示をするこんごう(DDG-173)

うらがでは、ヘリコプター格納庫で佐世保音楽隊の演奏会。佐世保音楽隊など各音楽隊はFLEET WEEK期間中、横須賀や横浜、木更津でも無料の演奏会を行いました。

掃海母艦うらが格納庫で行われた佐世保音楽隊の演奏会

掃海母艦うらが格納庫で行われた佐世保音楽隊の演奏会

▼【観艦式2015】うらが艦上での佐世保音楽隊演奏会
https://youtu.be/3phPM__8LPY

途中では、横須賀港開港150年記念のイベント(10月15日~10月19日)で久里浜港に向かう日本丸の姿も。

久里浜港に向かう日本丸

久里浜港に向かう日本丸

観艦式というと、他国では多数の受閲艦艇が停泊し、観閲官の乗った艦艇らが航行して観閲する方式(栄誉礼で行われる部隊巡閲と同じ)が主流ですが、海上自衛隊の観艦式は、受閲艦艇、観閲艦艇ともに航行しながら行う「移動観艦式」が特徴。観閲部隊と付属部隊の間を正対して航行してくる受閲部隊が通過するという形で、それぞれの陣形の維持や、予定時刻にちゃんと両部隊が予定した場所で出会って開始するという航海の技術(実戦であれば、相手の動きを読んで任意の場所で会敵できる)など、練度が必要とされます。

今回の観閲艦は、しらね型ヘリコプター搭載護衛艦くらま(DDH-144)。海上自衛隊で唯一残った蒸気タービン推進の艦艇で、2006年の第25回観艦式から4回連続して観閲艦を務めます。しらね型は1981年の第15回から長年観閲艦の重責を担ってきましたが、2015年3月にしらね(DDH-143)がいずも(DDH-183)と入れ替わりで退役。くらまも、現在艤装中のかが(DDH-184)が就役する2017年には退役の予定で、これが最後の観閲艦ということに。艦橋の屋上には、紅白幕で彩られた観閲台が設けられています。

観閲艦くらま(DDH-144)

観閲艦くらま(DDH-144)

観閲部隊の先頭、隊列の基準となる先導艦は、むらさめ型護衛艦の1番艦であるむらさめ(DD-101)が務めます。

先導艦むらさめ(DD-101)

先導艦むらさめ(DD-101)

観閲部隊
むらさめ(DD-101)、くらま(DDH-144)、うらが(MST-463)、てんりゅう(ATS-4203)、しらゆき(TV-3517)、ちはや(ASR-403)、ちょうかい(DDG-176)

観閲付属部隊
あすか(ASE-6102)、あぶくま(DE-229)、とね(DE-234)、くろべ(ATS-4202)、こんごう(DDG-173)、きりしま(DDG-174)

浦賀水道航路を抜けると、参加艦艇は観艦式に向け、徐々に隊列を整えていきます。

隊列を整える(前からてんりゅう、しらゆき、ちはや、ちょうかい)

隊列を整える(前からてんりゅう、しらゆき、ちはや、ちょうかい)

11時。くらまに、観閲官である安倍首相が搭乗したMCH-101の8653号機が着艦。ヘリコプター格納庫で栄誉礼が行われます。

くらまでの栄誉礼(撮影:海上自衛隊写真員・18日)

くらまでの栄誉礼(撮影:海上自衛隊写真員・18日)

栄誉礼が終了すると、くらまのメインマストには総理大臣座乗を示す紫色の「総理大臣旗」が掲揚されます。

くらまのマストに紫の総理大臣旗がはためく

くらまのマストに紫の総理大臣旗がはためく

観艦式開始の時刻が近づき、くらまを中心とした観閲部隊の隊列が整ってきました。観艦式で用いられるのは、艦艇が縦一列に並ぶ「単縦陣」というもの。艦これでもおなじみの基本陣形ですが、実際に行うと案外難しいのです。

単縦陣で進む観閲部隊

単縦陣で進む観閲部隊

というのも、前の船がスクリューでかき回し、乱れまくった水流(飛行機で言えば乱気流)であるウェーキ(航跡)に艦首を突っ込むことになるので、轍(わだち)にハンドルを取られるように、不規則に艦首が翻弄され、まっすぐ航行することが難しいのです。しかも後続の艦艇は、すぐ前にいる船の動きに追従するので、前がふらつくと、それに合わせて後続もまっすぐ進まなくなり、隊列が崩れます。乱れているだけでなく、後方に向けての水流なので、ウェーキの中は抵抗が大きく速度も下がります。等間隔をキープするのも結構大変なのです。

整然と航行する各部隊(撮影:海上自衛隊写真員・18日)

整然と航行する各部隊(撮影:海上自衛隊写真員・18日)

正午。いよいよ観艦式が始まります。800ヤード(約730m)の間隔をあけて単縦陣で並走する観閲部隊と観閲付属部隊の間を、反対側から同じく単縦陣の受閲部隊が通り抜けていきます。

受閲部隊旗艦:あたご(DDG-177)

受閲部隊旗艦あたご(DDG-177)

受閲部隊旗艦あたご(DDG-177)

受閲第1群(ミサイル護衛艦・汎用護衛艦):しまかぜ(DDG-172)、おおなみ(DD-111)

受閲第1群・護衛艦しまかぜ(DDG-172)

受閲第1群・護衛艦しまかぜ(DDG-172)


受閲第1群・護衛艦おおなみ(DD-111)

受閲第1群・護衛艦おおなみ(DD-111)

受閲第2群(むらさめ型汎用護衛艦):きりさめ(DD-104)、さみだれ(DD-106)

受閲第2群・護衛艦きりさめ(DD-104)

受閲第2群・護衛艦きりさめ(DD-104)


受閲第2群・護衛艦さみだれ(DD-106)

受閲第2群・護衛艦さみだれ(DD-106)

受閲第3群(ヘリコプター搭載護衛艦):いずも(DDH-183)
今回の目玉といえる新鋭護衛艦いずも。ひゅうが型が訓練や定期整備で不参加の為、ただ1隻で受閲第3群を構成しましたが、他を圧する大きさ(全長248m)で存在感を示しました。

受閲第3群・護衛艦いずも(DDH-183)

受閲第3群・護衛艦いずも(DDH-183)

受閲第4群(潜水艦):ずいりゅう(SS-505)、こくりゅう(SS-506)、うずしお(SS-592)

受閲第4群・潜水艦ずいりゅう(SS-505)

受閲第4群・潜水艦ずいりゅう(SS-505)

受閲第4群・潜水艦うずしお(SS-592)

受閲第4群・潜水艦うずしお(SS-592)

受閲第5群(掃海部隊):ぶんご(MST-464)、つしま(MSO-302)、はちじょう(MSO-303)、ひらしま(MSC-601)、たかしま(MSC-603)、みやじま(MSC-690)

掃海艇の3隻は、前回2012年の観艦式にも参加したメンバー。2012年では、当時就役したばかりだった初のFRP製掃海艇、えのしま(MSC-603)も参加しましたが、今回は掃海艦・掃海艇とも木造で統一されました。

受閲第5群・掃海母艦ぶんご(MST-464)

受閲第5群・掃海母艦ぶんご(MST-464)


受閲第5群・掃海艇みやじま(MSC-690)

受閲第5群・掃海艇みやじま(MSC-690)

受閲第6群(補給艦・輸送艦):ましゅう(AOE-425)、おおすみ(LST-4001)、おおすみ搭載LCAC2101号・2102号

補給艦ましゅうは、今回の観艦式参加艦艇ではいずもに次ぐ大きさで、全長221m。輸送艦おおすみも全長178mと、3番目の大きさです。

受閲第6群・補給艦ましゅう(AOE-425)

受閲第6群・補給艦ましゅう(AOE-425)


受閲第6群・輸送艦おおすみ(LST-4001)

受閲第6群・輸送艦おおすみ(LST-4001)

受閲第7群(ミサイル艇):おおたか(PG-826)、くまたか(PG-827)、しらたか(PG-829)

受閲第7群・ミサイル艇おおたか(PG-826)

受閲第7群・ミサイル艇おおたか(PG-826)

受閲部隊の後ろには、護衛艦いかづち(DD-107)に先導された外国からの艦艇が「祝賀航行部隊」として単縦陣で続きます。順序はオリンピック開会式の入場行進同様、国号のアルファベット順で決まったようです。

単縦陣で進む祝賀航行部隊(外国艦)

単縦陣で進む祝賀航行部隊(外国艦)

祝賀航行部隊の先頭は、オーストラリア海軍のフリゲート、スチュアート(FFH-153)。

オーストラリア海軍フリゲート、スチュアート(FFH-153)

オーストラリア海軍フリゲート、スチュアート(FFH-153)

フランス海軍のフリゲート、ヴァンデミエール(F734)は、江戸幕府に雇われたフランス人のヴェルニーが横須賀港の元となる横須賀製鉄所(横須賀造船所)を開設して150年という記念の年なので、横須賀港での接岸場所はヴェルニー記念館(ヴェルニー公園)に一番近いスポットを希望したとのこと。日仏交流の歴史の中で記念となる年に開催された観艦式に、フランス海軍が艦艇を派遣。両国の友好関係がよく表れていますね。

フランス海軍フリゲート、ヴァンデミエール(F734)

フランス海軍フリゲート、ヴァンデミエール(F734)

インド海軍はステルス化されたフリゲート、シヴァリク級の最新型であるサヒャディ(F49)が参加。2012年に就役したばかりです。

インド海軍フリゲート、サヒャディ(F49)

インド海軍フリゲート、サヒャディ(F49)

韓国からは、チェンムゴン・イスンシン(忠武公・李舜臣)級駆逐艦、テ・ジョヨンが参加。韓国では5日後の10月23日に、創設70年記念の観艦式を実施しています。

韓国海軍駆逐艦デ・ジョヨン(DDH-977)

韓国海軍駆逐艦デ・ジョヨン(DDH-977)

アメリカ海軍は巡洋艦チャンセラーズビル(CG62)と駆逐艦マスティン(DDG89)が参加。

アメリカ海軍巡洋艦チャンセラーズビル(CG62)

アメリカ海軍巡洋艦チャンセラーズビル(CG62)


アメリカ海軍駆逐艦マスティン(DDG89)

アメリカ海軍駆逐艦マスティン(DDG89)

また、これとは別に18日には「近くを航行していた」空母ロナルド・レーガン(CVN76)が、海上自衛隊の護衛艦てるづき(DD-116)の先導で姿を現しました。観艦式参加の艦艇とは離れていたのですが、乗組員は観艦式参加艦艇同様、登舷礼を行っていました。

登舷礼を行う空母ロナルド・レーガン乗組員。奥は先導の護衛艦てるづき(photo:U.S.NAVY)

登舷礼を行う空母ロナルド・レーガン乗組員。奥は先導の護衛艦てるづき(photo:U.S.NAVY)

続いて、航空機部隊の観閲が始まります。受閲航空部隊の先頭、指揮官機は第51航空隊(神奈川県・厚木航空基地)のP-3C。

15日の指揮官機P-3C(第51航空隊5044号機)

15日の指揮官機P-3C(第51航空隊5044号機)

同じ館山航空基地(千葉県)の第21航空群に所属する、第21航空隊のSH-60J/Kと第73航空隊のUH-60Jが混合編隊を組んで通過します。

SH-60J/K(第21航空隊)とUH-60J(第73航空隊)

SH-60J/K(第21航空隊)とUH-60J(第73航空隊)

その後ろは第111航空隊(山口県・岩国航空基地)のMCH-101、MH-53Eの混合編隊。陸上自衛隊からは第1ヘリコプター団(千葉県・木更津駐屯地)のCH-47JA、航空学校本校(三重県・明野駐屯地)のAH-64Dが参加。

MCH-101

MCH-101


MH-53E

MH-53E


陸上自衛隊のCH-47JAとAH-64D

陸上自衛隊のCH-47JAとAH-64D

固定翼機の先頭は、第202教育航空隊(徳島航空基地)のTC-90。第203教育航空隊(千葉県・下総航空基地)のP-3Cが続きます。

第202教育航空隊のTC-90

第202教育航空隊のTC-90


P-3C(第203教育航空隊)

P-3C(第203教育航空隊)

観艦式初参加となったP-1(厚木航空基地・第3航空隊)は、今年7月にイギリスで開催された世界最大級のミリタリーエアショウ、ロイヤル・インターナショナル・エアタトゥー(RIAT)に参加した5504号機と5507号機のペア。

P-1(第3航空隊)はイギリスのRIAT遠征ペアが参加

P-1(第3航空隊)はイギリスのRIAT遠征ペアが参加

長年活躍してきた国産輸送機、YS-11M/M-Aの後継機として導入された、第61航空隊(神奈川県・厚木航空基地)のC-130Rも観艦式初参加。

C-130R(第61航空隊)

C-130R(第61航空隊)

この後からやってくるのは、航空自衛隊の戦闘機です。第3飛行隊(青森県・三沢基地)のF-2A、第305飛行隊(茨城県・百里基地)のF-15J/DJが参加しました。

航空自衛隊F-2A(第3飛行隊)

航空自衛隊F-2A(第3飛行隊)


航空自衛隊F-15(第305飛行隊)

航空自衛隊F-15(第305飛行隊)

自衛隊機に続いて、受閲航空部隊の最後にはアメリカ海軍VP-16(沖縄県・嘉手納基地)のP-8Aポセイドンと、アメリカ海兵隊のMV-22オスプレイが祝賀飛行部隊として参加し、航空部隊の観閲が終了しました。

アメリカ海軍VP-16のP-8A

アメリカ海軍VP-16のP-8A


アメリカ海兵隊のMV-22(撮影:海上自衛隊写真員・18日)

アメリカ海兵隊のMV-22(撮影:海上自衛隊写真員・18日)

12時26分に観艦式が終了すると、続いて訓練展示へと移行します。これについては、稿を改めてご紹介します。

※本稿は3回特集の2回目です。3回目は12月2日に掲載します。

▼1回目:観艦式2015・FLEET WEEK
https://otakuma.net/archives/2015113001.html

(取材:咲村珠樹)