丸い木枠に布を張って、さまざまな色の糸で紡いでいく「刺繍」。カバンや洋服のワンポイントとして縫い込まれているものはよく目にしますが、今回紹介する刺繍は、それとは全く違う新しい刺繍のカタチ。本物と見分けが付かないほど精巧に作られた刺繍を、本物の中にまぜたアート作品。どれが刺繍かな?と思わず探したくなるために、「かくれんぼ刺繍」と呼ばれています。

 見出しのアーモンドの中にも刺繍のアーモンドが混ざっていますが、どれが本物でどれが刺繍か見分けがつきますか?あくまでアート作品なので、答えは書きませんが……よーくよくよく見ないと見分けがつかないほどの精巧さです。

 一般的な刺繍のイメージを覆すアート作品を生み出し、TwitterやInstagramで話題を呼んでいるyacmii(ヤクミィ)さんに話を伺ってみたところ、「語りだすと止まらないもので……」との言葉そのままに、溢れる作品愛を語っていただきました。

―一般的には、刺繍というと布に縫い付けるものが多い中、アーモンドや、イリコなど立体的な刺繍作品を作ろうと思ったきっかけを教えてください。

もともと、多摩美術大学にて彫刻科を専攻していました。大好きだった恩師に「何を素材にしてもいいが、彫刻家であることを忘れないで製作に向き合いなさい」との言葉をいただき、「彫刻家の刺繍」をテーマに製作を続けてきました。ある時少し気晴らしに製作した「かくれんぼ刺繍」(本物のマッチ棒に刺繍で製作した作品を混ぜて撮影)をInstagramに投稿したところ、作家仲間の友人から「もっと作って!面白い!」と言われ、通常縫っていた動物の刺繍の合間にリアル刺繍を縫うようになったことがきっかけです。

―Twitterで作品を拝見し、アーモンドの刺繍が、特に本物と偽物の区別がつかないほど精巧だったのですが、本物に近づける工夫はどのようなことをされているのでしょうか?

「リアルに近づけることはできても、本物にはなれない」という思いが常にあるので、人の持つ固定観念「アーモンドってこうだよね」という部分に近づけるように心がけています。そのために本物を観察、デッサンするのは当然として実物を撮影することでわたし自身が一旦、客観視すること。あとはネット検索で上位に上がってくるような画像をなるべく多く観察しています。

―作品はアーティスト活動をしてこられて何点ぐらい制作されたのですか? ちなみにこちらの作品は購入できるのでしょうか?

刺繍のアート作品としては大小含めて50点ほどでしょうか。販売しているブローチを含めるともっと多くなると思います。基本的には展示会場のみの販売を行っています。また、職人の手仕事から生まれる日用品を取り扱う倉敷の老舗雑貨メーカー「倉敷意匠」さんのオンラインショップにてご購入頂けます。こちらでは、倉敷意匠さんから2つのテーマ(覗く猫、覗く動物たちの目)をいただき、ブローチを製作しました。

―作品は一作品作るのにどのぐらいかかるのでしょうか?大作でどれぐらいなど目安があれば教えてください。

今までで一番長かったのは6~7ヶ月。羊の頭を縫いました。血と肉から表現したかったので、ベースの赤、ピンクの糸から縫い始めて白い糸を植え付けるように縫う作業は気が遠くなりそうでした。

―ひとつの作品を手掛ける前に、自分の中にルールを決めてやっていることや、これは外せないというこだわりはありますか?

当然のことかもしれませんが、アトリエのお掃除からスタートします。糸をぐしゃっと仕舞ったり、大切に保管していなかったりすると、糸の状態が悪くなり思うように進まないので、すべて大切に管理しています。道具にもこだわって揃えています。

―展示会など今後のご予定があれば教えてください。

2018年5月に「ほぼ日」さんの運営されているTOBICHI京都にて展示会を予定しています。2019年にはまた新作を携えて岡山にも行きます。

  最後に、制作において一番大切なことはと問いかけたところ「自分が一番に楽しむこと」、技術面においては「立体を平面で表現すること、青を青ではない色で表現すること、縦の線を横の線で表現すること」を意識して制作にあたっているとのこと。ちなみに、制作に煮詰まった時は、愛犬をひたすら愛でたり、愛犬の被り物を製作したり、お料理をしたりすることで、気持ちをうまく切り替えているそうですよ。

 「展示会でみんなが、クスッと吹き出して思わず二度見してしまうような作品を作ることができたら、最高に幸せ。ご覧いただくみなさまの顔を思い浮かべては嬉しくてワクワクします」と展示会に向けて、さらにユニークな作品を計画中のようでした。

<取材協力・画像提供>
yacmiiさん(Facebook:@yacmii

(黒田芽以)