石川県の玄関口「金沢駅」は改札を出ますと、訪れた人に傘を差し出す「もてなしの心」を表現した「もてなしドーム」が温かく迎えてくれます。そのドーム状の屋根は、空の移り変わりが感じられるガラスでできた屋根。ひとたび屋外へ出ると、鼓の胴にある「調べ緒」をモチーフにして作られた木造の「鼓門」が現れます。
しかし、これら美しい建築物が、ハトにとっては格好の場所に! 設計当初から金沢市は、ハトの糞害対策を検討・実施していたといいますが、より効果的な方法として取り入れたのが「鷹パトロール」。生きた本物の鷹が飛び回り、ハトを威嚇するので効果絶大。おかげで金沢駅は糞害もなく駅の美しさが保たれ、さらに鷹が駅中を周回する姿が「風情に合う」とニュースやSNSで度々話題となり、美観維持とPRという一石二鳥の効果を得ています。
一体どのようにハトを追い払っているのか、鷹を操る鷹匠(たかじょう)さんに聞いてみたい! ということで、金沢駅で「鷹のパトロール」を定期的に行っている株式会社鷹丸さんに詳しくお話を伺いました。
――いつ頃から金沢駅で鷹パトロールをされているのでしょうか? 以前から金沢駅には、ハトが多かったのですか?
作業は2015年3月からスタートしています。当時、かなり沢山のハトが住み着いていました。恐らく何年も前から住み着いていると思います。
――鷹は、金沢駅をどのように周回するのでしょうか?
鷹を腕に乗せ、金沢駅前広場の西広場や東広場を歩きながらハトが侵入しそうなポイントで飛ばし周回していきます。金沢駅前広場では沢山の利用者の方がいらっしゃいますので、利用者のご迷惑にならないように気をつけて飛ばしています。
――鷹のパトロールは、週に何回されていますか?
現在は、4月~10月までの期間で月に2回。午前か午後の2時間から3時間のパトロールをしています。
――鷹はハトをみつけた際に、咥えて鷹匠さんのところまで戻ってくるのでしょうか?
現在ハトは全く見かけない状態ですのでこの環境を維持するために、鷹を飛ばしてハトが寄りつかないようにするためのパトロールになります。今の作業とは話は違いますが、本来鷹狩りでは、鷹は捕らえた獲物を鷹匠のところまで持ってくるわけではなく、鷹が獲物を捕らえたところまで鷹匠が取りに行きます。また鷹が獲物を咥えず鋭い爪を持つ足で獲物を捕らえます。
――餌はどのようなものを食べるのでしょうか?
ウズラやヒヨコを食べます。
――金沢駅のパトロールでは鷹で行われていますが、その種類以外にパトロールに適した鳥類などはいるのでしょうか?
実際のパトロールは、中南米原産のハリスホークという鷹で行います。中型の猛禽類がハトの天敵となり得ます。鷹以外ですと、隼(ハヤブサ)や梟(フクロウ)などになりますが、鷹が一番向いており、更に金沢駅の環境を考えるとハリスホーク以外に適した鷹はいないと思います。
――鷹にパトロールさせる際の決まった合図などはありますか?
鷹を飛ばす時には「渡り」と言う技を使います。これは、鷹を木や構造物などに飛ばした後、餌合子(えごうし/えごし)という小判型の小さいお弁当箱のような道具の蓋と本体を叩くように鳴らし、鷹を呼び戻すことをいいます。鷹が帰ってくると、餌合子の中に予め入れておいた肉の切り餌を一切れ食べさせます。
――鷹匠になるには、試験や訓練などどのようなことをするのでしょうか? 一人前になるにはどのぐらい時間がかかるのですか?
鷹の訓練は、放鷹術と呼ばれる1600年以上の歴史のある訓練方法を応用しながら鷹を訓練していきます。
私はNPO法人日本放鷹協会の会員で鷹匠の認定試験を受け鷹匠となっていますが、全国共通の基準がないので、鷹を購入し次の日から鷹匠と名乗ることもできますので「鷹匠」と言ってもかなり技術の差が各人であると思います。どこまでの技術が身につけば一人前か何とも言えませんが、数年~10年くらいかかるのではないでしょうか。
北陸新幹線が金沢まで伸びた開業直後から金沢駅で「鷹パトロール」を行っている鷹丸さん。もしも今、ハトの侵入防止ネットなどが駅のあちこちに張り巡らされていたら、きっと今の美しい金沢駅は見られなかったかもしれませんね。
<取材協力・画像提供>
株式会社鷹丸
(黒田芽以)