世間ではお盆休みを終え、仕事に戻る頃ですが、逆にお盆を終えてようやく体を休めることができる職業の方もいます。盆は本来祖霊を敬う民間信仰ですが、日本の仏教では「盂蘭盆会」として、祖霊の供養のため、卒塔婆を立てたり読経したりといったことを菩提寺にお願いします。1日に何軒もの檀家を回るなど、お寺のお坊さんは大忙しなのです。もちろん、その準備にも時間がかかるわけですが、その様子を動画で公開したツイートが話題になっています。

 お盆を前にした卒塔婆の準備の様子をツイートしたのは、写真家のワケテツヤさん。普段は写真家として、ツノを生やした女の子をモチーフにした連作「ツノガール」(@tsunogirl)などの作品を発表していますが、僧籍をお持ちで、お盆など忙しくなる時は実家のお寺のお手伝いをするそうです。

 昨年(2017年)の様子だという動画では、長い卒塔婆をひとつひとつ、墨書きで用意していく様子をタイムラプス(時間を縮めたダイジェスト映像)で見せています。塔婆の表側は誰が誰のために立てる卒塔婆なのか、という内容を記していきます。公開されているタイムラプス動画は、裏側の部分を書いているところ。

 もちろん、便利なものが様々ある現代ですから、世の中には卒塔婆用のプリンターというものが存在し、パソコンを通じて、ものによっては数本まとめて印字できるというものもあります。この辺りは年賀状の宛名書きと似たようなものがあるわけです。手書きの方が故人も喜ぶと考えたり、手書きすることも修行であるという考え方や、逆にあまりにも多すぎて対処しきれないからやむなくプリンターを使うという場合もあるでしょう。

 その中で、ワケテツヤさんのお寺では、手書きで卒塔婆を用意しているというわけです。なにしろ墨の筆書きですから、間違えてしまったら新しく書き直さないといけません。もちろん、字が汚くなるのは言語道断。かなりのプレッシャーの中、集中力が要求される作業です。

 ちなみにワケテツヤさんはこれ以外にも、僧侶をより身近に感じてもらおうと現代のファッション誌のようなレイアウトで、僧衣姿を紹介する試みも行っています。宗派によって僧衣や法衣は様々な違いがありますが、こうして紹介されると僧衣姿がやけにスタイリッシュに見えてくるから不思議です。



 筆者の場合は仏教徒ではなく、神徒(神道)なのですが、やはり神社でも木のお札は、禊をした上でひとつひとつ手書きで作っていますし、破魔矢なども手作業で仕上げていたりします。「神宮大麻」と呼ばれる「天照皇大神」のお札は、全国の神社で神授するもの全てという膨大な数を伊勢の神宮で奉製しています。地味な作業ですが、宗教において、このような場面でそれぞれの心と対面して行うという行為は、非常に重要なんですね。

 東京・下町にあるお寺の住職を務め、宗派でも本山の要職を務めた経験を持つ筆者の知人の僧侶によると、最近は核家族化で、もともと近くにいた檀家さんが代を経て遠くに移っていて、読経のために移動するのも大変なケースもあるとのこと。普段からの付き合いも減っているとの話も聞かれますし、こういう機会で自分の菩提寺や産土神、氏神を祀る神社の方と交流し、普段の様子を知っておくといいかもしれませんよ。

記事化協力:ワケテツヤさん(@wake_tetsuya)

(咲村珠樹)