埼玉県児玉郡市で11月2日~11月18日まで開催されている「こだま芸術祭」。こだま地域は、緑豊かな自然だけではなく国指定重要文化財である「金鑚神社多宝塔」や、国の重要美術品に認定された朝鮮式の銅鐘「陽雲寺の鐘楼」など歴史深い地域でもあります。現在、その魅力を伝えるべくこだま地域の街中を会場にして、全29名のアーティストによる作品が展示されています。

 そのアート作品の中でも、ひと際異彩を放つ作品が目にとまりました。それが森と渓流に囲まれた「100年の森」(埼玉県児玉郡神川町矢納地内)に展示されている浅野暢晴さんのアート作品「木霊の祭り」。木漏れ日の中に佇む無数の目を持つ人間とも似つかない生命体が、自然の中に溶け込みその存在感を際立たせています。そんな作品を制作されている浅野さんという方はどんな方なのか、作品作りのきっかけなど詳しく伺いました。

――浅野さんは、2001年から本格的にアーティストとして活動をはじめられたということで、初期の作品も拝見させて頂いたのですが、人の顔に近い造形のものが多い印象を受けました。その後、人ともつかない不思議な生命体の作品に変容していったのには何か心境の変化があったのでしょうか?

 心境に変化はありませんが、自分にとっての「人の形」を追求していった結果、あのような造形にたどり着きました。

――浅野さんの作品は、個人的にですが異質で少し不気味でいて惹き付けられる作品だなと感じました。しかし自然な形で木々の中に同化し、溶け込んでいるように感じたのですが、どのようなコンセプトで、こだま芸術祭に出品する作品を作られたのですか?

 本当は僕たちの近くにいるはずなのに、目には見えない存在(妖怪のような)が私達の身の回りにはいるのではないか。そんな存在を目に見えるようにしたいと考えて、彫刻作品を作っています。100年の森に足を運んだ時に、森の中などを見渡しながら、僕が造形する生き物たち(ちなみに、彼らの名前はトリックスターと言います)がどこに存在するかを考えました。水を汲みに歩く奴、椅子に座って誰かを待っている奴、木に寄り添って伸びて行こうとする奴、木から何かを吸っている奴。そんな様子が、あの場所に見えてきたので、トリックスター達を置くことで、その風景を表しました。

――特に印象的だったのが、木に沿って高く伸びている作品で、こちらの制作物期間はどのぐらいかかったのでしょうか? このような大きな作品を作る時は、どのような場所でどのように作っているのですか?

 木に沿って展示をした作品は「百目」という名前です。鵜の木にあった「hasu no hana」というギャラリーで2016年に最初の展示を行いました。その時には屋内に展示を行いました。構想から約半年で完成しました。約4m50cmの大きな作品ですが、小分けにして作成し、現地で組み立てます。制作は自宅横のアトリエで制作しています。

――作品には無数の穴や突起、年輪に似た模様が多く見られますが、何をモチーフにしているのでしょうか? 材質は何からできているのですか?

 穴はトリックスター達の「目」です。(なので、「百目」なのです)突起は、トリックスターが(植物に芽が生えるように)育っていく様子を表しています。年輪のような文様は、彼らの刺青のように一人一人の個性を表しています。(なので、一つとして同じ文様はありません)素材は陶(焼き物)です。

――作品を作る上でのこだわりを教えてください。

 作品を作る上で最初の観客は、自分です。自分自身が本当に「良い」と思えるものを作っていきたいと思います。

――作品を通して見る方に何を感じとってもらいたいですか?

 目に見える世界だけが、世界の全てではなく、この世界の向こう側や、裏側、すぐ隣にも「違う世界」があることに想いを馳せてほしいなと思います。

――作品の制作に行き詰まった時は、どのように気分転換をしていますか?

 一つの制作に行き詰まった時は、別の制作をして気分転換をします。

――今後の展望を教えて下さい。

 一人でも多くの方に、僕の作品を生で見てほしいと思っています。彫刻は生で見ないとその魅力が伝わらないと思うので、SNSで興味を持ってくれた方々が一人でも多く、展示に足を運んでくれたら嬉しいです。

<取材協力>
浅野暢晴(Twitter:@asanonobuharu / HP:asanonobuharu.mongolian.jp

(黒田芽以)