男性の育児参加や育休取得に注目が集まる中、積水ハウスは9月19日を「育休を考える日」として、東京で「イクメンフォーラム2019」を開催。「イクメン白書2019」も発表され、男性の育休取得の実態や、国の取り組みを紹介し、育休だけにとどまらない社会変革の必要性をアピールしました。
積水ハウスは現在、3歳未満の子供がいる社員に1か月の育児休暇を用意。一括で取得するだけでなく、最大4回に分けて取得可能としています。会の冒頭では、この制度の創設に至った経緯を仲井嘉浩社長が説明しました。
きっかけは、スウェーデンへの出張で目にした、公園でベビーカーを押す男性の多さでした。さらに大臣との面会で「スウェーデンでは男女問わず3か月の育児休業が常識」であることを知り、社内でも取り入れることを検討。業績に支障の出ない範囲ということで、1か月の育児休業制度をスタートさせたといいます。
当初は現場での混乱も危惧していたそうですが、結果としてこの取り組みはプラスの効果となりました。男性が主体的に育児や家事に取り組むことで、より住宅づくりに関して「住む人の生活」を意識したプランを提案できるようになったといいます。
また、社内の仕事ぶりにおいても、担当部署において育休中の仕事の割り振りを検討していく中で、チームとしての結束力が高まったといいます。
この背景には、育休取得までの準備をしっかりとすることが重要だといいます。子供が生まれることは事前に分かることなので、出産前の段階から休業中の仕事について分担を明確化し、同僚や上司、そして配偶者とのすり合わせを行います。
ここで役立てたのが「家族ミーティングシート」。ただ単に休暇を取得するのではなく、何のために休暇を活用するのか、現状や育休中、そして育休終了後について、家族のありたい姿を思い描いて具体化する訳です。
会場には実際に育休中の社員が子供連れでやってきており、その姿を見つけた社長が、にこやかに手を振る場面も見受けられました。
さらに積水ハウスでは、小学生以下の子供がいる20代~50代の男女9400人を対象とした、47都道府県別の育休実態を調査。その結果を「イクメン白書」として発表しました。
独自の「イクメン力」の基準となる「配偶者の評価」「育休取得経験」「家事育児時間」「家事・育児参加による幸福感」という4つの指標をもとにポイントを算出。集計した結果、イクメン力が最も高いのは島根県となりました。
2位以下のランキングを見ると、沖縄県、鳥取県、和歌山県、三重県と続き、西日本エリアが目立つ結果になっています。
内閣府の「男女共同参画白書」によると、島根県は市区町村の管理職の女性割合が最も高いといいます。また、総務省統計局の「平成29年度就業構造基本調査」では、育児をしている女性の有業率も81.2%と全国トップ。家事や育児の分担が女性の進出を後押ししているという背景もありそうです。
また、男性の育休制度については男女とも8割以上が賛成と答え、男性の6割は育休を取得したいと回答しています。それと同時に、およそ4割の事業所に育休制度がないことや、男性自身の育休制度への関心も25%程度と低いことが明らかになりました。
一方で、育休を取得した男性の満足度は高く、配偶者の苦労などを知ったり、子供が成長していく姿を目の当たりする充実感を感じている様子も。積水ハウスにおける育休制度の満足度は、社員と配偶者双方で9割以上と非常に高いものとなっています。
まず、社会に育休を意識してもらうことが大切と、積水ハウスは9月19日を「育休を考える日」とすることに。日本記念日協会からも認定されました。
後半では、2006年から若い世代の父親を支援し、働き方の見直しや企業の意識改革、地域社会の再生など父親育児の環境づくりに取り組むNPO法人「ファザーリング・ジャパン」の安藤哲也さんをモデレーターとしたパネルディスカッションが行われました。
厚生労働省の雇用環境・均等局 職業生活両立課長の尾田進さんは、男性の育児休業の取得状況と取得促進のための取り組みについて説明。育児・介護休業法の概要や、男性の育児休業取得率についての推移を紹介しました。
厚生労働省の「雇用均等基本調査」によると、男性の育児休業取得率は平成30年度でわずか6.16%に過ぎません。平成10年度が0.12%であったことを考えれば、かなり増えたとはいえ不十分な状況です。令和2年にはこれを13%まで引き上げる目標を掲げているとのこと。
これを後押しすべく、国は父親の育児休業のための制度を充実させてきています。育児休業中の経済的支援や、従業員の育児と仕事の両立に取り組む企業を支援する「イクメンプロジェクト」を平成22年から始めており、また次世代育成支援対策推進法に基づき、行動計画を策定して子育て支援を行う企業に対し、様々な優遇措置を提供しています。
また、父親が育児休業を利用しやすい企業風土づくりに取り組み、実際に男性労働者が育児休業を取得した企業に対しての助成金も用意されています。
中央大学ビジネススクール大学院戦略経営科の高村静准教授は、男性が育休を取得するというのは、企業の経営戦略となることを強調。育休中の同僚の仕事を肩代わりすることで、業務の見直しや組織がチームとしての強さを育成するチャンスになると説きます。
育休が取得できるということは、同じ枠組みを使って親の介護や、従業員の大きな病気による療養生活にも応用できます。育児だけではなく、誰でもに起こりうる「職場からの離脱」に備える体制づくりは、より組織としての強さを生むと同時に、対外的にも企業イメージ向上につながるといいます。
積水ハウスの執行役員を務める伊藤みどりダイバーシティ推進部長は、積水ハウスで実際に起こった事例を紹介してくれました。とある支社では、育休対象者が店長など、営業面におけるエース級の人物が多く、最初は業績低下を予想して頭を抱えたといいます。
しかし、実際に育休を活用してみると、上司が抜けることで逆に部下たちがそれぞれ責任を持った仕事に取り組むことになり、結果として個々の能力が上がったそうです。年度が終わってみれば前年比115%の受注を達成。顧客からは「家族を大事にしない人からは家を買いたくない」という言葉もあったといいます。
モデレーターの安藤さんは「男性の育休取得はボウリングの1番ピン」だと語り、これをきっかけに様々な影響を社会に与え、よりみんなが暮らしやすい社会にしていくことができると強調していました。
もちろん、この事例がどの業種にも当てはまるとは思っていない、と会の終了後、仲井社長は語っていました。しかし、事業所によって時短勤務など、自分たちなりの「男性の育児参加のあり方」があるはずで、それを模索する中で、気づかなかった業務効率化の手法が見つかるかもしれない、とも話していたのが印象的でした。
これまでジェンダー(社会的な性の役割)にとらわれ、ともすれば女性だけを育児に縛り付けるような形になっている世の中。男性が育児に参加することで、また新たな子育てのあり方や、社会の成り立ちが見えてくるかもしれません。「イクメン白書2019」は、積水ハウスの「IKUKYU.PJT」特設サイトで公開されており、積水ハウスが育休取得時に活用している「家族ミーティングシート」もPDF形式でダウンロード可能となっています。
取材協力:積水ハウス株式会社
(取材・撮影:咲村珠樹)